シムーン第二章 ~乙女達の祈り~

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シムーン第二章 ~乙女達の祈り~ 小説本編

乙女達の祈り 第2話 【帰還】 その2

simoun-77
シュヴィラ・ネヴィリルとシュヴィラ・アーエル

 思想も政治体制も異なる嶺国と手を結んで、戦争に勝った礁国は、長い間の念願だったシムーンを手に入れた。
 だがシムーンは、神の恩寵を受けたシムーン・シュヴィラがいなければ、動かす事はできなかった。
 それで、宮国のシュヴィラを引き渡すように嶺国に求めたが、先回りした嶺国は、宮国のシムーン・シュヴィラを全員還俗させてしまった。その上、礁国の男女差別が改まらない限り、自国のシュヴィラも礁国に赴かせる事はできないと突っぱねた。
 さらに、宮国を共同統治する約束だったが、嶺国は宗教上の理由を盾に、大聖堂のある首都ソムニアへの礁国軍の進駐を拒んだ。
 礁国は同盟を結んだ相手が、かっての宮国と何一つ変わらない事に気づいた。テンプスパティウムがアニムスに変わっただけで。
『約束が違う!』と嶺国を非難したが、もう遅かった。腹を立てた礁国は同盟を破棄して、占領していた宮国南部を礁国に併合してしまった。
 冷静に考えれば、省エネ構造であるシミレ機関を使えば、礁国は公害汚染を軽減できるはずなのだが…贅沢ばかり望む礁国は、せっかくのヘリカル機関を、ターボに改造して台無しにしてしまった。
 欲に執着して、互いに張り合っている者たちのお陰で、いまだに戦争は収まる事なく続いている。

 二人は黙って私の話を聞いていた。大人たちの醜い争いの有様を…
 しばらくして私が話を終えると、ネヴィリルはポツリと言った。
「父はどうしていますか?」
「ああ、君のお父様はお元気だよ。今は政界を引退されて、悠々自適の毎日を送られている」
 私はそう言った後で、しまった!と思った。心配させまいと嘘をついたが、勘の鋭いネヴィリルは、私の表情を読み取っていた。
「嘘は言わないで!グラギエフ。本当の事をおっしゃって下さい」
「済まない、ネヴィリル…あの後、ハルコンフは戦争の責任を取らされて政界を追放された。財産も取り上げられてね…それからは、あのメッシスのワウフが面倒を見てあげていたようだ」
「そうでしたか…やはり」ネヴィリルは、すべてを見通していたように言った。
「時々会いに行くと、君の事を心配しておられた。すっかり痩せてね…去年亡くなったよ。だから君には帰る家もない…済まない。辛い話を聞かせて」
「いえ、いいんです…権力を望んだ父が自ら招いた事です。むしろワウフにお礼を言わなくては」
「ワウフはあれからモリナスやアルクス・プリーマの人たちを雇い、メッシスを使って、北部でコンテナ運送業をやっていた」
「それで、今はどこに?」
「戦争前に礁国が運送業者を求めていたので南部に移った。そっちの方が稼ぎがいいらしくてね。今は南部で軍の物資輸送をやっていると思う」
「南部ですか。南は礁国の領地になっているんですよね。会えないのかな~」ネヴィリルは残念そうに言った。
「そうだねぇ…南部と言えば、アーエルも実家が南部だったね。何でも妹さんがいるとか?」
「はい、私がシムーンの訓練生になって家を出た時は、まだ子供でした。もう大きくなっているだろうな~…たった一人の妹です」
「そうか、無事だといいね。何でも礁国の支配地域では、だいぶん宗教が取り締まられているらしいから」
「そう言えば、アヌビトゥフはどうされました。あの方も南部のご出身だと聞きましたが?」ネヴィリルが尋ねて来た。
「アヌビトゥフは礁国に徴兵されたよ。あれだけ腕の立つ飛空士を放っとくはずもない。今頃は礁国の飛空船にでも乗っているんじゃないかな」
「そうでしたか…みんな戦争のために散り散りになっちゃったんですね~」二人はガックリと肩を落として落胆した。
 私はアヌビトゥフの事を思い出していた。かってのアルクス・プリーマの同僚。そしてシムーン・シュヴィラ時代の最愛のパル。
「それはそうと、シムーンはどうしたんだい。あるんだろ?」
 私はアヌビトゥフの思い出を振り払って、ネヴィリルとアーエルに尋ねた。
「ええ、格納庫に隠そうとしたんですが、壊されていたので、覆いを掛けて甲板の上に」ネヴィリルはそう答えた。
「あの型のシムーンは、もう宮国にはない。嶺国にみんな取り上げられてしまったからね。見せてくれないか?」
 私がそう言うと「ええ、それじゃ甲板に出ましょう」と、ネヴィリルは誘ってくれた。

 そうして、私たちはみんなで一緒に、アルクス・プリーマの甲板に出た。
 意図的に壊された格納庫の前に、破れたシートやカーテンの継ぎはぎで覆われたシムーンがあった。
 私は、その可変式ヘリカル・モートレスを撫でながら、つぶやき混じりに言った。
「懐かしいなぁ…でも、ここじゃあ、嶺国の連中に見つかってしまいそうだな」
「でも、私もアーエルも他に行く所がないので…」ネヴィリルは困った顔をしていた。
 私はしばらく考えた…(一か八かになるが、策がない訳でもない)元々、二人の居場所を奪ってしまったのは我々だ。
 私たち大人が起こした戦争のために…言わば、ネヴィリルとアーエルは犠牲者になってしまったのだ。
「私にいい考えがある。ここは私に任せてくれないか?君たちの居場所を作れるかも知れないから」
 私がそう言うと「でも、嶺国は私たちの行方を追っているんでしょ?」と、ネヴィリルは不安そうに尋ねて来た。
「うん、一年くらいは血まなこになって探していたが、戦争を始めてからはそれどころじゃなくなった。今は逆に…」
「逆に…何かあったんですか?」
「今は詳しく説明できないが、ひとまず、遺跡に隠れていてくれないか」
 私がそう言うと「遺跡に…ですか?」と、ネヴィリルとアーエルは怪訝そうな顔をした。
「あそこなら、シムーンを隠す洞窟もあるし、嶺国の連中がシムーンを掘り出した後の作業小屋が、そのまま残っているはずだ」
「嶺国が!…やはりシムーンを狙っていたんですね。神聖な遺跡を荒らしたんですか?」
「ああ、洗いざらいね。私たちは聖地を穢さぬよう、慎重に一台ずつ掘り出したが、彼らのやり方は無茶苦茶だった」
「ひどい!私たちの大切なテンプスパティウムの聖地を…」
「荒らされた聖地だが、しばらく居てくれ。食料は私が運ぶ。お風呂は泉を使うといい。夜は寒いが、昼間なら入れると思う」
「でも神聖な泉で入浴なんて…」
「もう神聖でも何でもない。嶺国の発掘作業員が汗を流すのに使って汚してしまった。だからもう、ユンも来ない」
「ユンが来ないって?」ネヴィリルは怪訝そうな顔をした。
 私は思った(そうだった…ネヴィリルとアーエルは、あの後の出来事は、まったく知らないのだ)
「うん、ユンは泉の大宮煌になった。今はオナシアがいた場所に立っている。最近はすっかり大宮煌らしくなって来たよ」
「ユンが泉の大宮煌になったんですか…じゃあ、テンプスパティウムの泉はそのままあるんですね」
「そうだよ。泉だけは嶺国も手が出せなかったらしい。人々の性別が決まらないと兵隊にも取れない。子供も産まれないしね」
「そうだったんですか…それじゃ、私たちはこれから遺跡に行って隠れる事にします」
「ああ、そうしてくれるとありがたい。見つからないように気をつけて行くんだよ。ネヴィリル。アーエル」
 もうすっかり日が暮れて、辺りは暗くなっていた。私は二人と別れると、ボートを漕いでアルクス・プリーマから離れた。

~続く~

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