シムーン第二章 ~乙女達の祈り~

「▼まぼろし」
まぼろし 小説本編

まぼろし 第6話 「写し世」 (1)

ゴーストタウン

<オリジナル/ホラー/ファンタジー/ミステリー>

人の目はすべてを見ている訳ではありません。この世には人に見えない世界があります。
これから、あなたの目はあなたの体を離れ、この不思議な時間と空間に入って行くのです。

 あなたが今いる世界、あなたが見ているこの世は、本当に実在しているのでしょうか?
 もしかして、それはあなた自身も含め、誰かに描き出されているただの「写し絵」に過ぎないかも知れません。
 今夜は、そんな不思議な「写し世」に迷い込んでしまったある男の物語です。

「仕事が片付きましたので、お先に上がります。係長」
「おう、お疲れさん。気ぃ付けて帰れや」
「は~い、そいじゃあ、お先に~」
 そう言って、若い部下はコートを羽織って、いそいそと部屋を出て行った
 さっきから部屋の外には、別の課に所属している若い女子社員の姿が見えていた。
(いいなぁ~、若いモンは…そう言ゃあ、俺もあんな時代があったっけ)
 仮初(かりそめ)は、チェックしていた書類から目を離し、大きく背伸びをしてから、首をグルグルと回した。
(こう残業続きだと疲れるよなぁ~…でも、マンションのローンもまだ残ってるし、大学に行く倅のためにもがんばらにゃ~)
 そう思いながら、ふと部屋の壁に掛けてある時計を見ると、午後7時30分を回っていた。
(よ~し、もうひとがんばりするか。駅前の一杯飲み屋が閉まってしまわない内に片付けないとな)
 そうして、気を取り直すように肩を叩くと、仮初は再びデスクに向かった。

「らっしゃ~い、仮初さん。お疲れさんです~」一杯飲み屋のオヤジが、愛想よく仮初を迎えた。
「あぁ、大将。いつもの頼むわ~」仮初はそう言った。
「あいよ、生一丁!」
 仮初は疲れを振り払うように、目の前に出されたジョッキのビールをグイッ!と飲み干した。
「アツいの一本頼むわ。肴は~っと…あぁ、そこの筋とガンモと大根でいいや」
「へ~い、御銚子いっぽ~ん。肴は筋とガンモと大根ね」
 遅掛けの一杯飲み屋には、もう余り客はいなかった。
(まぁ、ゆっくり飲めるのも悪くは無い。しっかし、疲れたなぁ~)
 そう思いながら仮初は、首をグルグル回し、オデンを肴に熱燗をチビチビやりだした。
「大分お疲れみたいですね~、仮初さん」オヤジが声を掛けて来た。
「あぁ、ここんとこ、仕事が多くって残業続きでね~」仮初は苦笑いしながら言った。
「繁盛してるってのは、いいこっちゃあないですか~」
「なぁに、儲かんのは会社だけで、俺んとこにゃあ、びた一文回っちゃあ来ねぇよ。忙しいだけで…」
 仮初は、そう言って自嘲しながら、オデンをつまんで、残っていたお猪口の酒を飲み干した。
「ごちそうさん。勘定ここに置いとくわ」
 飲み代をカウンターに置くと、仮初はコートを羽織った。夜も更けてきたせいか、外は少し寒そうだった。
「へい、毎度アリ~。お気をつけて帰って下さいよ」オヤジは愛想よくそう言った。
「あぁ、そいじゃ、また明日な」仮初は軽くオヤジに手を振った。
 一杯飲み屋の暖簾をくぐって表に出た彼は、少しばかりふら付いている自分を感じた。
 残業続きで疲れが溜まっていたせいか、思いの他酔いが回ってしまっているようだった。

「次はうろまち~、次は虚町~。虚町を過ぎると、この電車は各駅に停車いたしま~す」
 疲れと酔いのせいで、ついうとうとしてしまったのだろうか?車掌の声で目が覚めた仮初は周りを見た。
 残業明けのサラリーマン、予備校帰りの学生、塾帰りの少年・少女、遊び疲れた若者たち、みんなぐったりしている様子だった。
(何だかどいつもこいつも、み~んな疲れきった顔をして…まるで死人みたいだなぁ~)
 そう思いながら仮初はゆっくり立ち上がった。まだ、少しばかり頭がぼ~っとしてふらふらしていた。
 そして、虚町駅のプラットホームに着いた電車を降りて、いつものように改札口を通って駅から出た。
 自宅のマンションまで、歩いて10分。都会の真ん中で通勤にも不自由はしない。いい所に住まいを構えたものだ。
 虚町駅の外は冷えた夜風が吹いて、目の前には近代的な駅前商店街の店舗が軒を連ねている…はずだった。
(あれっ?いつもの駅前商店街と違う!…まさか、駅を間違えるはずはないし?)
 仮初は振り返って虚町駅を見てみた(何だか変だなぁ~?いつもの虚町駅じゃないみたいだ)
 しかし、駅舎をよく見ると、駅に掲げてある表示は、間違いなく「虚町駅」になっていた。
(何だか古い駅舎だなぁ~?まるで20年以上前の虚町駅みたいじゃないか。あれっ?俺はまだ酔ってるのかなぁ~)
 仮初は、再び駅前商店街を見た。並んでいる店舗は確かに古かったが、通りには通勤で歩き慣れたいつもの歩道があった。
(やっぱり、まだ酔ってるんだ…)彼は自分にそう言い聞かせると、自宅に向かって歩道をゆっくり歩き始めた。
 まだ、夜の9時頃だと言うのに、車道には車が一台も走っていない。どころか歩道にも人影すらなかった。
 夜の風が、商店街の垂れ幕や旗をバタバタと揺らしていた。歩道に落ちていたチラシが、風にあおられて足に絡み付いて来た。
(何だか今日は静かだなぁ~、まるでゴーストタウンみたいだ。そう言えば、いつも点いてる常夜灯のネオンも消えている)
 そんな事を考えながら仮初は、駅前商店街を通り抜けて、角にあるパン屋の前まで来た…つもりだったがパン屋が無い。
 パン屋の角を右に曲がって、横道に入り、突き当りの道にある横断歩道を渡って、公園の側を抜ければ自宅のマンションに着く。
(パン屋は店を畳んでしまったのかなぁ~?まぁ、いいや。同じ道だ)仮初は横道に入って、突き当たりの道路まで歩いた。
 ところが、渡ろうとした道路には、あるはずの横断歩道が無かった(おかしいなぁ?確かここに横断歩道があったはず…)
 顔を上げて上を見たが、信号機も無かった。首を左右に振って見ても、車が走っている様子すらなかった。
(まぁ、いいか)仮初は、そのままひょいと道路を横切って、自宅があるマンションの側の公園の前まで歩いた。
 いつもは公園にたむろしている猫たちが一匹もいない。公園の前には、古ぼけた車が一台ポツンと停まっていた。
(ひどいポンコツ車だなぁ~、それに年式も随分古い)そう思いながら車の脇を通り過ぎて、自宅のマンションの前まで来た。
 はずだったが…そこにマンションは無かった。ただの空き地が広がっているだけだった。
(おぃおぃ、俺は酔って夢でも見てるんかなぁ~?)仮初は目をこすってもう一度見てみた。だが、やっぱり空き地しか無かった。
 奇妙に思って後ろを振り返ると、一人の男が自分の方に向かってやって来るのが見えた。
 おそらく、あの公園の前に停めてあった車の中に居た男なのだろう。
 そう言えば、駅を降りてから初めて人間を見たような気がする。
 近づいて来たのは、自分よりずっと若い男だったが、帽子を被っていて、顔に包帯を巻いていた。
「あぁ~、君、君、こんばんわ。近所の人かね?」仮初は(気味の悪い男だな)と思いつつもその男に声を掛けた。
「近所といやぁ、近所だがね」顔に包帯を巻いた若い男は、ぶっきらぼうに言った。
(年下の癖に、年上の人間に向かって横柄な言い方をするやつだなぁ)とは思いながらも、仮初は男に尋ねた。
「ここにラグランジェと言うマンションがあったはずなんだが、どうして無いんだろうか?」
「来年か再来年には建つんじゃないか」そういいながら、その男は空き地の前に立っている看板を指差した。
 その看板には<マンション建設予定地>と書かれていた。
「まだ建っていない?そんなはずは無い!俺は昨日…いや、今日の朝までそのマンションに住んでたんだぞ」
「立て看板の下をよ~く見てみなよ」男は再び看板を指差した。
 看板の下には<着工予定:西暦2000年4月>と言う表示があった。

~続く~

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~ Comment ~


続きは・・・・

後編なんですね(;^0^)
結構タイムスリップ系の話が好きで

本でもつい買ってしまいテレビも見てしまいます。
未来に万が一行けても過去にいけないから
凄く惹かれます。

何かのきっかけで行けるとしたら
見たいものがあります。(;^-^)
#340[2014/06/22 01:57]  yume-mi  URL  [Edit]

Re: y様 CO ありがとうございます^^

> 結構タイムスリップ系の話が好きで
> 本でもつい買ってしまいテレビも見てしまいます。
> 未来に万が一行けても過去にいけないから
> 凄く惹かれます。

少し怖い(心臓に悪い)タイムスリップになるかも知れませんね(笑)
何しろテーマが「あなたは本当に実在している人間か?」ですから…

> 何かのきっかけで行けるとしたら
> 見たいものがあります。(;^-^)

はて、見たいもの?…私なら過去に戻ってそのままそこに居つきます。
その分若返る訳で…タイムマシンは不老不死を可能にするかも知れません(笑)
#341[2014/06/22 13:08]  sado jo  URL  [Edit]

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#346[2014/06/23 07:59]     

Re: h様 お返事ありがとうございます^^

では、早速リンクさせていただきます^^

たくさんの人が読んでくれると、つい本分を忘れて受け狙いに走りがちです。
最近は、物書き(創作者)がアイドルやタレントになってしまってますね(笑)
自分の感性を大切に、自分しか出来ない創作をするアーティストであって欲しい。
作品は受けるモノでは無く、意思を残す(遺産)モノだと思います。頑張って下さい^^
#347[2014/06/23 15:31]  sado jo  URL  [Edit]














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