シムーン第二章 ~乙女達の祈り~

「▼まぼろし」
まぼろし 小説本編

まぼろし 第6話 「写し世」 (2)

墓地

「何だって!西暦2000年?書き間違えてるんじゃないのか?…今年は2014年だろうが」
「いや、1999年だ!今年は西暦1999年だよ」若い男は言った。
「そんな事あるもんか~。だってほら携帯の日付は…」
 仮初がポケットから携帯を取り出して見ると、日付は、1999年〇月〇日となっていた。
「俺はどうかしちまったのか~?一体ここは何処なんだ?俺の住んでたマンションは何処にある?」
「ここにあったさ。間違い無くな…多分、何年後かには住んでいたんだろう。夢の中でな」
「夢の中だって?…だって、俺はず~とローンを払い続けて来たんだぞ。現実に…」
「夢の中だって金は払うさ。物も買うし、食べたりもする」
「でも、俺にはちゃんと家族もいる。女房だって居るし、来年大学に行く倅だって居る」
「夢の中だって結婚すりゃあ家族はできる。子供だって産まれる。何も現実と変わりゃあしないさ」
「だがな、今日も会社に行ってちゃんと働いたんだぞ。女房や子供のために一生懸命残業もした」
「そりゃあ、夢の中だって働くさ。残業する事だってあるだろう」
「でも、上司や同僚や、飲み屋のオヤジや、たくさんの人達に会った。夢の中にそんなに大勢の人が出て来るか?」
「あぁ、それは全部死人だよ。お前も含めてな…」
「何だって?!」
「この世に生きている人間は一人も居ないって言ったんだ。みんな死んで夢を見ているだけさ」
「そんな馬鹿な事があるもんか!」
「そうか~?…それじゃあ、実際にここに来るまでに誰か人間を見たか?」
「そう言われりゃぁ、駅を降りてから誰も見なかった。でも、通勤電車の中にはたくさん人がいたぞ」
「あぁ、あっちの世界に運ばれて行く死人が…だろ。お前だってそうやって運ばれたんだから」
「そんなはずは無い。俺は死んでなんかいない!」
「もう死んでるって…そんなに疑うんなら着いて来い。証拠を見せてやるよ」
「よ~し、見せてもらおうじゃないか!酔っ払いだと思って馬鹿にするなよ」
 顔に包帯を巻いた若い男は、公園の前に停めてある車の前まで仮初を連れて来た。
「古い型の車だなぁ~、それにデコボコじゃないか…でも何だかこの車、見覚えがあるなぁ~?」
「そりゃ、そうだろうなぁ~。お前が買ったんだから…」
「おれが買った?」
「あぁ、そうだ。あの頃は高かったんだぞ~。さぁ、乗れよ」
 そう言うと男はへこんだ車のドアを開けた。仮初は男が開けた車の助手席に座った。
 走り出した車の窓から見える街の景色は、朽ち果ててよどんだ「ゴースト・タウン」のようにも見えた。
 崩れ掛けた家屋、傾いたビル、むき出しになった鉄筋は、赤茶けて錆付き、人気の無い街の中は閑散として荒れていた。
 男は誰もいない料金所を通り抜けて、車一台走っていない高速道路に乗り、街の郊外に向かって車を走らせた。
 しばらく走って行って、仮初と顔に包帯を巻いた若い男がたどり着いたのは、郊外にある霊園墓地だった。
「さぁ、中に入れよ。案内してやるから」車から降りると、若い男は言った。
「中に入れったって…ここは墓場じゃないか?」不思議に思った仮初は、そう尋ねた。
「そりゃあ、墓場に決まってるじゃないか。お前はとうの昔に死んでるんだから」
「馬鹿を言え!俺は死んでなんか居ないよ」
「まぁ、すぐにわかるさ。着いて来いよ」男は霊園の中の墓参道を歩き出した。
(こいつ、俺を馬鹿にしているのかな?)と訝りながらも、仮初は仕方なく後に着いて行った。
 顔に包帯を巻いた若い男は、たくさん並んでいる墓石の中に入って行くと、ある墓の前で立ち止まり、仮初の方に振り向いた。
「この墓を見てみろよ。そうしたら分かる」男は墓を指差しながらそう言った。
 男が何を言ってるのか分からないまま、仮初はその苔むした墓をじ~っと見た。
 男が指差した墓石には、確かにこう刻まれていた。
<仮初彼岸 ―1989年 没―>
「何でこんな所に俺の墓が?…これは夢なのか?それとも悪い冗談か?」
「本当に自分が死んだ事を覚えていないのか?」男は怪訝そうに言った。
「嘘だっ!俺は1991年に大学を卒業し、今の会社に就職して、それから大学時代から付き合ってた幸子と結婚した」
「そうだったなぁ~。あの頃はバブルだった。学生でも車を持っていた。そうしなきゃ女の子にもてなかったからな」
「あぁ、確かに親にねだって車を買ってもらった。あ!それがあの車か?…でも何でデコボコなんだ」
「本当に覚えてないみたいだなぁ~…車を買ったお前は、彼女を誘ってドライブに出掛けたんだろう」
「うん、覚えてる。幸子とよく景色のいい山道をドライブしたもんだ」
「お前は山道で彼女にいいとこ見せようと、前を走っている車に無理な追越を掛けたんだ…違うか?」
「そう言えば、何だかそんな事もあったような気がするなぁ~」
「気がするなぁ~…じゃないよ!その時、お前は事故って死んだんだ。彼女もろともな…」
「何だって~!俺も幸子も死んだだと?…死んだ者同士が結婚なんかできるはずはないだろうが」
「夢ならできるさ。結婚して、子供が産まれて、マンションを買って、幸せな家庭生活をする夢くらいならな」
「俺一人で勝手に夢を見てたのか?なら女房や子供は?他の人間は?ニュースじゃあ、世界中で戦争やら何やらやってるぞ」
「あぁ、もちろんお前一人じゃないさ。世界中の死人が夢を見ている。この世は死んだ人間の夢で出来ているんだ」
「そっ!そんな馬鹿な事が…」
「最初に言ったろう。この世で生きている人間は一人も居ないって…この世は死人だらけなんだよ」
「お前はいったい誰なんだ?」
「あぁ、俺はお前だよ…1989年に事故で死んだ時のままのな」
「そんな馬鹿な?…俺が二人も居るはずは無い」
「そう、昨日まではな…だが、今日お前は夢から覚めちまった、お陰で俺が起こされたんだ」
「起こされたって…墓の中からか?」
「そうだ。せっかくゆっくり眠っていたのに迷惑な話さ…だからもう一度、お前に夢の続きを見てもらわなきゃならん」
「いやだっ!俺はまだ死なないぞ。墓にも入らない」
「何を言ってるんだ。もうとっくに死んでる癖に…さぁ、俺と一緒に来るんだ」
 顔に包帯を巻いた死んだ仮初は、仮初の腕を掴んで、墓の中に引きずり込もうとした。
「いやだっ!お前なんかと一緒に墓に入るのは」
 仮初は、懸命に死んだ仮初の手を振り解こうとしたが、なぜか体の力が抜けてしまっていた。
「やかましい!さぁ、墓の中に入って夢の続きを見るんだ。そうして俺をゆっくり寝かせてくれ」
「いやだ~!助けてくれ~ぇ!俺はまだ死にたくないっ!」
「何度も言わせるな。もうお前はとっくに死んでるって…」
 死んだ自分にそう言われた仮初の虚しい叫び声が、誰一人いない死者の世界にこだました。
 そうして彼は、自分自身に墓の中に引きずり込まれ、再び生きている自分としての夢を見る事になった。
 死者のフォログラフィとして、いつ果てるとも無い夢の続きを…

もしかして、ここに居る自分は単なる「アバター」で、自分の本体は別の場所に居る…と感じた事はありませんか?
自分は誰かに描き出されたアバター?それが本当だとしても、余り深く考えると、自分自身とこの世の存在が危うくなりますね。

今は亡き 金城哲夫先生を偲んで…

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~ Comment ~


過去の年代の人にもう死んでいるって言われるのは
どういう事?って思ったらそういう事ですね。

段々わたしも不安になってきました。
もしかして今の生活も夢?
みんな死んでいるの・・・とか考えちゃいました。

時々、自分は本当はもう病床にいるお年寄りで
亡くなる前に見ている
過去の一瞬を今、自分はいるのだろうか?て(笑)
#350[2014/06/24 01:58]  yume-mi  URL 

う~ん

ということは私はもう千年くらい夢を見続けていることになるかな。
クトゥルフ神話でも今のこの世界はアザトースが見ている夢ともいうし
単に生や死ということではなく、全てが誰かの夢だったら怖いですね。
ここに今こうして存在する意味があるのかと。
それでも私は私でその誰かの夢の中で与えられた役割をこなしていきますが。
まあ、夢だと考えれば弟のような妹や変態淑女がいても納得(笑)。
#351[2014/06/24 10:21]  西條すみれ  URL 

Re:y様 COありがとうございます^^

>段々わたしも不安になってきました。
>もしかして今の生活も夢?
>みんな死んでいるの・・・とか考えちゃいました。
>時々、自分は本当はもう病床にいるお年寄りで 亡くなる前に見ている
>過去の一瞬を今、自分はいるのだろうか?て(笑)

時折、自分は本当に存在してるのだろうか?…って思う事があります。
人は死ぬ前に、走馬灯の様に一生を夢見るそうですが、そうかも知れませんね。
それにしても、私をアバターとして描いた主は、相当意地が悪そうだなぁ~><
何も、病気の設定までしなくても…あ、主自身が病人なのかも知れないですね(笑)
#352[2014/06/24 15:36]  sado jo  URL  [Edit]

Re: s様 COありがとうございます^^

> ということは私はもう千年くらい夢を見続けていることになるかな。
> クトゥルフ神話でも今のこの世界はアザトースが見ている夢ともいうし
> 単に生や死ということではなく、全てが誰かの夢だったら怖いですね。
> ここに今こうして存在する意味があるのかと。
> それでも私は私でその誰かの夢の中で与えられた役割をこなしていきますが。
> まあ、夢だと考えれば弟のような妹や変態淑女がいても納得(笑)。

長い夢ですね~(笑)あ、そもそも、夢に時間は存在しないのか?
貴女のアバターを設定した主達のグループは、どうも変態ごっこ好きみたいですね~
アバターに飽きて「はい、消去!」って消されない様に、しっかり主を楽しませて下さい。
私(アバター)は、どうも消去され掛けてる様な気がします。
「おい、こいつどうやって消去するよ?」
「やっぱ、病気がいいんじゃね…事故って手もあるよな。自殺させてもOKだし~…」
(▲)コラ~!主共、幾らアバターだからって、勝手に俺で遊ぶな~!ったく…><
#353[2014/06/24 15:59]  sado jo  URL  [Edit]

夢と現実、確証がないですよね…υ

私、十歳の時にアスファルトに後頭部を強打して
小一時間気絶してたことがあるので…まさか…
もう……その時にシんで…?w

昔の漫画で頭ぶつけて星がクルクルと目の前を回る…っていう表現がありますけど
気絶の瞬間は、あれって本当なんだなあ…とか
思いました(*´∇`*)
#355[2014/06/24 23:30]  小奈鳩ユウ  URL  [Edit]

Re: CO ありがとうございます^^

>夢と現実、確証がないですよね…υ
>私、十歳の時にアスファルトに後頭部を強打して
>小一時間気絶してたことがあるので…まさか…
>もう……その時にシんで…?w

この世界が実在してるモノかどうか?確かに実証しようが無いですね~
自分がいる。と言う感覚は主観的なモノで、本当は幻なのかも知れません(笑)

>昔の漫画で頭ぶつけて星がクルクルと目の前を回る…っていう表現がありますけど
>気絶の瞬間は、あれって本当なんだなあ…とか 思いました(*´∇`*)

星の世界に生まれ変わった?或いは意識だけが別世界へ飛んだ?(笑)
まぁ、この世界だけが本物だと思うのは、人間の執着心の為せる業かも知れません。
#357[2014/06/25 00:56]  sado jo  URL  [Edit]

だとしたら、自分も10年ぐらい前に死んでいるかもしれませんw

しょうもないことやって、足の静脈を切って、出血多量となって、体の内側から何かが抜けかけたことがあるので

もし、自分の精神が本来いるべき場所に帰っているとしたら、寝ているときかもしれません

ただ眠りが深いので、そのときの情景までは覚えてなかったりしますがw
#358[2014/06/25 17:35]  blackout  URL 

Re: CO ありがとうございます^^

>だとしたら、自分も10年ぐらい前に死んでいるかもしれませんw
>しょうもないことやって、足の静脈を切って、出血多量となって、体の内側から何かが抜けかけたことがあるので
>もし、自分の精神が本来いるべき場所に帰っているとしたら、寝ているときかもしれません

調べてみると「この世は夢。幻」と言う感覚は、多くの偉人達にもあった様です。
偉い人は人一倍「執着心」が強く、それが切れた時「な~んだ。夢か」となるのかも…
ブログでも、何でも「存在させよう」と執着するからある訳で、「どうでもいいや」
と思えば、無くても良い。人間の存在は「執着心」の存在だけなのかも知れません。
あ!もしかしたら、それを捨てる事が釈迦の言う「解脱」の鍵になるのかも…(笑)
#359[2014/06/25 21:51]  sado jo  URL  [Edit]

今晩は。
今の生活が夢と知っていたら…色々楽しむことが出来るのに。
現在の生活も夢と仮定して生きてみて 亡くなったとき
夢のような生き方だったと思うのでしょうか?
だとしたら 悔いの無いように 精一杯生きてみたいと思う。
それが夢だとしても…。
はなね
#495[2014/07/20 19:47]  花音  URL  [Edit]

Re: h様 COありがとうございます^^

> 今の生活が夢と知っていたら…色々楽しむことが出来るのに。
> 現在の生活も夢と仮定して生きてみて 亡くなったとき
> 夢のような生き方だったと思うのでしょうか?
> だとしたら 悔いの無いように 精一杯生きてみたいと思う。
> それが夢だとしても…。

逆説的ですが「人生は夢の如し…だった」と言える人は、
精一杯生きてきたからそう言えるんじゃ無いでしょうか?
中途半端に生きてたら、悔いばかりが残って、
とてもそんな気分になれないだろうと思います(笑)
#496[2014/07/21 00:42]  sado jo  URL 














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