シムーン第二章 ~乙女達の祈り~

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シムーン第二章 ~乙女達の祈り~ 小説本編

乙女達の祈り 第6話 【陰謀】 その3

ラクリマ鉄橋
宮国南部の渓谷に架かるラクリマ鉄橋

 アルハイト総督は、宮守・エルフリンデの部屋に集まったコール・ブルーメの少女たちに言った。
「今日から君たちを嶺国の正式なシムーン・コールとする。立派な戦果も立てた事だしな」
 少女たちは一様に驚いた。まだ訓練は完全に終わってはいない。
 ここしばらくは、ブリュンヒルデたちを手伝うのに忙しくて訓練どころではなかったのだ。
 しかし、そんな少女たちの事情などお構いなしにアルハイト総督は言った。
「レギーナはハイデローゼとする。イラでの要人救出の功績もあるし、以前にレギーナの経験もあるからな…異議はないな」
(責任感も強いし、リ・マージョンも一番うまい…異議はないけど、でもアーエルとネヴィリルはどうなるんだろう?)
 少女たちはみんなハイデローゼを見て思った…だが、真っ先にそのハイデローゼがアルハイトに異議を唱えた。
「ちょっと待って下さい。私たちコール・ブルーメにはレギーナに相応しいアーエルとネヴィリルがいます」
「君たちは嶺国の正式なコールとなったのだ。宮国人をレギーナにする訳にはいかんよ」
「でも、私たちは訓練コールです…今は事情があって首都防空隊を援護していますが、本来は戦場には出ないはずでは」
「確かに宮国の二人はそう言う約束で教官に任命しました。でも、あなたたちは嶺国の国民です。国家の戦争には参加する義務があります」
 エルフリンデにそう言われると、コール・ブルーメの少女たちは否応なしに従わざるを得なかった。
 アーエルとネヴィリルはただ黙って話を聞いていた…二人は自分たちの立場よりも少女たちの今後の身の上を案じていた。
「じゃぁ、アーエルとネヴィリルはどうなるんですか。解任されるんですか?それとも?」ハイデローゼは尋ねた。
「宮国の二人が傭兵としてあなたたちと戦うか、戦わないかは本人たちの自由です。何ならシムーンを降りて泉で還俗してもらっても構わないのよ」
「そんな無茶なっ!アーエルとネヴィリルにシムーン・シュヴィラをやめろって言うんですか?宮守様は」
(アーエルとネヴィリルには、何があっても一緒にいてもらいたい)ハイデローゼは二人の事が気掛かりだった。

 アーエルとネヴィリルはただ黙って顔を見合わせていた。それからしばらくしてネヴィリルが静かに言った。
「分かりました…では、私たちは傭兵としてハイデローゼに従います」
(良かった~…アーエルとネヴィリルは私たちと一緒にいてくれるんだ)
 ネヴィリルの言葉を聞いたコール・ブルーメの少女たちは内心ホッとした。
「それで私たちはどの部隊に所属するんですか?」一安心したハイデローゼはエルフリンデに尋ねた。
「あなた方はどの部隊にも所属しません。アルハイト総督様が直々に命令を下すコールとなります」
 少女たちは全員イヤな予感がした。イラの街の件以来アルハイト総督が油断のならない人物である事は分かっていたからだ。
 しかし、占領地の全権総督であり、コール・ブルーメの司令官でもあるアルハイトに正面切って逆らう訳にもいかなかった。
「では、えぇっとコール・ブルーメだったか…君たちに最初の任務を与えよう」
 アルハイトは、早速コール・ブルーメに命令を伝え始めた。
「現在、南部にあるラクリマ谷の鉄橋が我が軍を脅かしておる…敵がヘリカル列車を使って鉄橋を渡り、最前線に兵員や物資をどんどん送り込んでおるからだ」
「ラクリマ谷と言えば、山に挟まれた渓谷の多い山岳地域ですよね」南部生まれのアーエルは言った。
「そうだ。わしは再三ゲリラ部隊を送って鉄橋を爆破しようと試みたが、敵の警備が厳重で橋に近づけんのだ」
「分かりました。私たちコール・ブルーメでラクリマ鉄橋を破壊すればいいんですね」ハイデローゼは言った。
「その通り…だが、敵のシミレが上空を哨戒しているので、鉄橋に近づくには低空から狭い渓谷をぬっていかねばならん」
「近づくのはむずかしそうですが何とかします…それでどうやって鉄橋を爆破すればいいんでしょうか?」
「鉄橋は両側の谷に掛かる二本の橋脚で支えられている。その橋脚を爆撃すれば鉄橋は崩れるだろう…ただし、昼間は警戒が厳重だから夜間に渓谷をぬって鉄橋に近づき、目標を視認できる夜明けに爆弾を投下するしかない」
「でも暗い夜間に狭い渓谷をシムーンで飛ぶのは、ほとんど不可能ではないでしょうか?」
「心配するな…君たちの夜間飛行を援護するために本国から暗視装置を備えた新型シムーンがやってくる予定だ」
「了解しました。その暗視装置を備えた新型シムーンの誘導に従えばいいんですね」
「そういう事だ。爆撃隊の編成はレギーナである君に一任する…では解散してよろしい」

 作戦会議を終えたコール・ブルーメの少女たちは、思い思いに地下倉庫の部屋に戻って行った。
 一人だけ宮守の部屋に残ったハイデローゼは、エルフリンデと話をするとすぐにアーエルとネヴィリルの部屋を訪ねた。
「どうしたの?ハイデローゼ」出迎えたネヴィリルは尋ねた。
「私たちのコール・ブルーメに残っていただいてありがとうございます」ハイデローゼはお礼を言った。
「いいのよ。どうせ私たちは行く所がないんだもの」ネヴィリルは微笑みながらハイデローゼに言った。
「実は、宮守様にレギーナとしてこの部屋を使うよう勧められましたがお断りしました」
「あら…私たちはあなたとイリスに部屋を譲ってみんなと一緒の部屋にいってもいいのよ」
「お二人を部屋から追い出すような事はできません…だから『みんなと一緒の方が連帯できる』って宮守様には言いました『お好きなように』って言われましたが」ハイデローゼは苦笑いしながら言った。
「無理しなくてもいいのに。疲れるわよ~…ハイデ」ネヴィリルはそう言って笑った。
「いぇ、無理なんかしてません…宮守様はお二人がお嫌いなようですが私たちはみんなお二人が好きです」
「仕方ないわ。私たちは宮国人だもの…差別されても」
「私は嫌です!だって嶺国人だろうと宮国人だろうとみんなおんなじシムーン・シュヴィラじゃないですか」
「そうね~…民族とか、国とか、身分とか、なぜ人は人を差別するんでしょうね。バルザミーネとネルケも随分悩んでいたわ」
「大丈夫ですよ。今は二人ともすっかり打ち解けています。これもお二人のお陰です」
「今度の任務は大変そうね。私も経験あるけどレギーナって責任重いから…困った事があったら何でも話してちょうだい」
「実はそうなんですよ~…ラクリマ鉄橋の橋脚は二つあって、引き受けた責任上一つは私が爆撃しますが、後の一つを誰に頼んだらいいか悩んでいます」
「いいわよハイデ…私たちが爆弾を積んで行くわ」
「いえっ!そんでもない。爆弾を積んだら動きが鈍る上に敵地の真っ只中でしょ…とてもお二人にそんな危険を負わせる訳にはいきません」
「大丈夫よ。シムーンに輸送コンテナを下げて兵士を運んだ事もあるんだから」
「でも、本当はお二人とも戦いたくはないんでしょ?」
「あなただってそうじゃない…神に仕える巫女が人を殺すなんておかしいと思ってるでしょ」
「正直言えばそうです。私が大好きだった神託の巫女・ガルトルートも言ってました『神と人のために祈る巫女』だって…戦いで亡くなりましたが」
「そうね…さぞ立派な神託の巫女だったんでしょうね。戦争はそんな人の命まで奪ってしまう」
 ハイデローゼは、自分たちを守るために死んだガルトルートを思い出すと涙が出そうになった。
「お二人ともありがとうございました。危険な役割を押し付けてすみません…ではこれで」
 そう言ってハイデローゼは、目頭を押さえながらアーエルとネヴィリルの部屋から出て行った。

~続く~

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女子同士、同じ部屋で大勢の場合と
2人きりの場合では、気の遣い方も変わりますねヾ(・_・;)

わたしは気まずくなるのが嫌で、つい何か話をしてしまいます。
沈黙が怖くて・・
知らない方なら黙っていますが(笑)

身分によりやはり差別とかってありますよね。

ネット社会は、そういう意味では平等に接してしまいます。
本来知り合わない職業や年代地域・・・

本当の仕事や本名。住む場所すべて知らないのにって思うと
ほんと不思議です('v')
#614[2014/08/20 01:49]  yume-mi  URL  [Edit]

Re: y様 COありがとうございます^^

> 女子同士、同じ部屋で大勢の場合と
> 2人きりの場合では、気の遣い方も変わりますねヾ(・_・;)

女子同士の付合いは難しいらしいですね…お互いにDNAの存続を賭けたライバルだから。
男子も利害関係が多いから、ホントに友人なのかどうか?…腹の中は解らない(笑)

> 身分によりやはり差別とかってありますよね。
> ネット社会は、そういう意味では平等に接してしまいます。

ネット社会では、個人も、国家も、企業も、横一線に同じラインに並んでいる。
つまり、大統領も、国も、会社もお隣さん。こんな環境は歴史上かって無かった事です。
これは人類意識の大きな革命です。現実世界は飽和状態で衰退してるが、ネット世界は、今後発展する可能性大です。
今は現実世界の悪意をネットに持込む低レベルの人もいますが、我々は実際、人類史に刻まれる重要な革命期にいるのですよ。
#616[2014/08/20 12:37]  sado jo  URL 














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