シムーン第二章 ~乙女達の祈り~

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シムーン第二章 ~乙女達の祈り~ 小説本編

乙女達の祈り 第6話 【陰謀】 その6

ユン
元はコール・テンペストのメンバーだった「泉の大宮煌・ユン」

 すでに日は昇って、辺りは明るくなってきていた。
 礁国のシミレが空を飛ぶ爆音が少女たちの耳に聞こえて来た。空の上には黒い航跡が見えた。
「敵のシミレが飛んでいる…きっと私たちを探しているんだわ」ハイデローゼが言った。
「ラクリマ鉄橋が爆撃された報告が届いたんだろうね…早く逃げなきゃまずいな」イリスが警告した。
「でも、バルザミーネとネルケはどうするの?」キルシュは二人の遺体が気掛かりだった。。
「もう、埋めてやる暇も墓を作ってやる暇もない」イリスは切ない思いを振り払うように言った。
「こんな所に置き去りにしたままで可哀そうじゃない」カメリアは二人の遺体をそのままにしておけなかった。。
「ごめんよ…バルザミーネ。ネルケ。でも私たちは行くしか仕方がないんだ」アーエルが痛む心を抑えて言った
「さようなら…バルザミーネ。ネルケ」ネヴィリルはそう言いながら、二人の遺体を愛おしそうに撫でた。
 アーエルとネヴィリルは二人の遺体から、血に染まったアニムスのロザリオを形見に取り外した。
 少女たちはみんなで涙を流しながら、有り合わせの布でバルザミーネとネルケの遺体を覆った。
 そうして、バルザミーネとネルケを失った少女たちは涙を拭ってラクリマの谷から飛び立っていった。
 貧しくとも、懸命に美しく咲こうとしていた『鳳仙花』と『なでしこ』の花は、こうして無残にも散った。
 少女たちは生涯忘れる事はないだろう…葬られる事もなく死んだバルザミーネとネルケを…悲劇のラクリマ=涙の谷を。
 それからは、二度と使われる事のない二人のベッドの上に、いつも鳳仙花となでしこの花が飾られるようになったそうだ。

 アーエルとネヴィリルは、死んだバルザミーネとネルケの形見のロザリオを携えて泉に行った。
 大宮煌・ユンが差し出した揺り篭の中には、ネヴィリルと嶺国の巫女たちをかばって死んだマミーナの遺髪が入っていた。
 二人はバルザミーネとネルケの形見のロザリオを、その籠の中に一緒に納めた。
 大宮煌・ユンは静かに揺り篭を天に掲げると、鎮魂の儀式をおこなってから言った。
「命なかばで手折られた二人の少女の魂は、天に昇っていった」
「バルザミーネとネルケの魂は、安らかにしているでしょうか?」ネヴィリルは尋ねた。
「二人の魂は、あなたたちを守れた事にとても満足していた」ユンはそう答えた。
「バルザミーネとネルケは貧しい家に生まれて苦労の多い少女でした。それでも懸命に生きようとしていたのに」
 ネヴィリルは声を詰まらせた。アーエルも目頭を押さえながらうつむいていた。
「俺は…いゃ、私が受け継いだオナシアの記憶の中に、同じような境遇の少女がいた…生き方は違っていたが」
「どんな少女でしたか?私たちに聞かせて下さい」
「オナシアがまだコール・デクストラのレギーナだった頃、司兵院の者が一人の幼い少女をオナシアに預けた」
「それで?」
「その少女は移民の子で、とてもシュヴィラになれるような身分ではなかった…だが『水碧のリ・マージョン』を完成させるための実験台を探していた司兵院は、貧しい親からその少女を一切れのパンと引き換えに引き取った」
「たった一切れのパンと引き換えに親が我が子を売ったんですか?…移民がそんなに貧しかったなんて」
「オナシアは幼い少女にシムーンの乗り方を教えた。少女は綿が水を吸い込むように操縦を覚えてめきめき上達していった」
「その少女って、まるでリモネみたいだね」とアーエルは言った。
「やがてその少女はシムーンに魅入られた…ただ誰よりも強くなり、より高く、より早くシムーンを飛ばす事に夢中になった。そんな彼女を案じたオナシアは何度も諭したが成長した少女は頑として聞き入れなかった」
「その話ってどっかで聞いた事があるよ…まさかその少女って?」アーエルは心当たりがあるように言った。
「『私の教え方が間違っていたのだろうか?』絶望したオナシアは還俗する決心をして泉に行き、先代の大宮煌の前に出た…宮煌はオナシアに言った『何をしに来た?』オナシアは答えた『性別を選ぶために』宮煌は尋ねた『男か女か?どちらを選ぶ』オナシアは迷ったままでどちらも選べなかった」
「あぁ、それでオナシアは男にも女にもなれなかったのか~」アーエルは、以前にオナシアから聞いた話を思い出した
「そんなオナシアに宮煌は言った『お前は男にもなれず、女にもなれない。どちらも選ばず、また選べない。お前は少女である事に未練があり、大人になる事を恐れて人の魂を受け止める事ができない。人を許し…また人を真に愛する事ができない』」
(あのオナシアが、自分が育てた少女のためにそんなに苦しんでいたなんて)ネヴィリルは思った。
「本心を見透かされて戸惑うオナシアに宮煌は言った『私の側に来なさい。悩める愛し子よ』オナシアは宮煌の側へ行き、宮煌はオナシアを抱きしめた。そして、宮煌は結晶化して消えて代わりにオナシアが大宮煌となったのだ」
「その貧しい移民の少女とは、もしやドミヌーラでは?」ネヴィリルは思い切ってユンに尋ねた。
「その通りだ…ドミヌーラが幼いリモネを可愛がったのは、育ての親であるオナシアの影響なのだろうと思う」
「そうだったのか~…それで自分がオナシアに教えてもらったようにリモネを教えたのか」アーエルは納得した。
「『神の民』が封じたシムーンを復活させたのはドミヌーラだ。そのためにたくさんのシムーン・シュヴィラが苦しんでいる。だが、ドミヌーラはその罪を贖うために…多くの少女たちを救うために、再び大空陸に帰ってくるような気がする」
 そう言うと、大宮煌・ユンはテンプスパティムの柱の向こうに立ち去っていった。

 縁とは不思議なものでオナシアが立った同じ場所に、やがてドミヌーラも立つ事になる。

第6話【陰謀】終了 → 第7話【異郷】へと続く

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前半のヤマ場を終えて、一区切り付いた所で、後半の構想を練る為「シムーン第二章~ 乙女達の祈り~」を暫くお休みさせていただきます。
後半は「殉教物語」 「戦場の恋物語」 「非運の親子物語」 「姉妹の悲劇の再会」など、様々な人間模様を交えて描く予定でいます。
また、アーエルとネヴィリルの空白の五年間が明かされてゆく中で、謎めいたシムーンの秘密や、現在の悲劇に繋がる「大空陸世界」の、何処か地球に似ている不幸な歴史も語ってゆこうと考えています。再開を楽しみにお待ち下さい。
 
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~ Comment ~


ん・・・たったパン1個でわが子を?手放されたのですね。

昔はそういう事もあったのでしょうかね。
どちらの立場も辛いですね。

近所のお婆さんが80歳を超えてられますが
3人姉妹の真ん中の自分だけが、親戚に貰われたと
何度も話されるのです。
後の2人は親元で暮らせたと。
何歳になっても小さい頃のそういう思いって消えないのだと
思いました。逢うたびにその話をされるのです(;^ー^)

わたしも初めて聞いたように毎回聞いています(汗)
#625[2014/08/26 02:52]  yume-mi  URL  [Edit]

Re: y様 COありがとうございます^^

> ん・・・たったパン1個でわが子を?手放されたのですね。
> 昔はそういう事もあったのでしょうかね。
> どちらの立場も辛いですね。
>
> 近所のお婆さんが80歳を超えてられますが
> 3人姉妹の真ん中の自分だけが、親戚に貰われたと
> 何度も話されるのです。
> 後の2人は親元で暮らせたと。
> 何歳になっても小さい頃のそういう思いって消えないのだと
> 思いました。逢うたびにその話をされるのです(;^ー^)

私の母姉妹も一人は里子に出されたそうです。
昔は食べるのに必死で、子供を手放す事も多かった様ですね~
昭和40年位まで日本は貧乏で、三日間何も食べなかった記憶があります。
トラウマと言うのか?小さい頃の辛かった記憶って、容易に消えないですね~
病気で少食なのに、安い食品があれば、つい買ってストックしちゃいます(笑)
#626[2014/08/26 12:39]  sado jo  URL 

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#1750[2015/04/01 07:03]     

Re: C様 COありがとうございます^^

清らかなものは、常に穢れたものに踏みにじられてゆく。
人も、正義も、神さえもいつしか偽物にすり替わる救いようのない世界の有様。
「シムーン」の原作者は、自分が業界に居た頃、お世話になった方と繋がりがあると聞きます。
その方は、いつも怒りと悲しみをもって少年・少女の為の作品で訴えていらっしゃいました。
「清らかさの喪失」と「穢された世界」の物語…は人にとって永遠のテーマでもあります。
二次作品とは言え、数年掛けて本気で書く予定でいますので、よろしくお付合い下さい。
#1752[2015/04/01 14:23]  sado jo  URL 














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