シムーン第二章 ~乙女達の祈り~

「▼地球年代記 ~カルマ~」
地球年代記 ~カルマ~ 小説本編

地球年代記 ~カルマ~ 第4話「ホモ・サピエンス」 (4)

氷河期4

 白い肌の種族は、生きている間は一言も言葉を発しない。
 そうして死ぬ間際に、それまで生きて来た記憶のすべてを貝に託して、自分の魂を海に還すのだ。
 きっと言葉は神聖な魂であり、話す事自体がタブーなのだろう…喋れば魂が抜け出して、自分が空になってしまうからだ。
 だから、いつも何やら文様みたいな記号を描いて何かを伝えようとしていたのだ。多分それが言葉の代わりなのだろう。
 俺にはさっぱり意味が解らなかったが、そうだったのか…お前は死ぬ間際に自分の魂をこの俺に託したのか。
 ならば、俺はお前の魂を海に還してやらなければならない。

 早速、妻の死を嗅ぎ付けた洞窟の連中が、久し振りのご馳走に有り付こうと周りに群がって来た。
 俺はサーベルタイガーの牙を括り付けた槍で、奴らを追っ払った。
 そして、死んだ妻を抱え、妻に託された二枚貝を手にして洞窟の入り口に向かった。
 食い物を独り占めされると勘違いした奴らが、棍棒や石斧を手にして俺に襲い掛かって来た。
 俺は槍を振り回しながら、やっとの思いで奴らの襲撃をかわして、凍えている洞窟の外に転がり出た。
 外は激しく吹雪いていたが、もう洞窟に戻る訳には行かなかった。

 それからは南へ南へと、死んだ妻を抱えながら、何日も雪原を歩き続けた。
 夜は雪濠を掘ってその中で寝た。食い物も無く腹は減っていたが、妻を食う気にはなれなかった。
 そうして俺はすきっ腹を抱えながら、山を登り、谷を渡って幾つもの氷河を越えた。
 毛皮の靴はすっかり擦り切れ、剥き出しになった脚は凍傷で腫れ上がって、すでに感覚すら無くなっていた。
 それでも、俺は妻の故郷である海を目指してひたすらに歩み続けた。
 そうだ!…海辺にある白い種族が住む村にたどり着けば、息子たちに逢えるかも知れない。
 もしかしたら種族の掟に従って、喋らなくなっているかも知れない…でも、そんな事はもうどうでもいい。
 俺はそう考えて、自分を励ました。妻の死体が手に余るほど重く感じて、這うようにしか歩めなかった。

 果てしない雪原を行く内に、ふっと不思議な匂いを感じた。顔を上げてみると目の前に小高い丘が見えた。
 もしや、これが話に聞いた潮の匂いと言うものなのかも知れないと思った。
 俺は期待に胸を膨らませて、最期の力を振り絞りながら、やっとの思いでその丘の上によじ登った。
 見下ろすと、目の下に流氷の海が広がっていた。海に降りそそぐ雪が、舞い落ちる綿毛のように綺麗だった。
 そうか…これが海と言うものか。何と不思議な光景なんだろうか…俺はとうとう海までたどり着いたんだ。
「おい、お前の故郷に帰って来たぞ」俺は死体の妻に語り掛けた。
 しかし、俺はそこから一歩も進めなかった。凍傷にやられた脚が動かず、飢えと寒さでもう力も尽きていた。
 這いずるようにして、死んだ妻を抱えてここまで登って来たが、もう完全にだめだった。

~続く~

にほんブログ村 小説ブログへ

 
関連記事
スポンサーサイト
 関連カテゴリ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼シムーン第二章 ~乙女達の祈り~
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼未来戦艦大和
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼ビーストハンター
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼地球年代記 ~カルマ~
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼まぼろし
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼やさしい刑事
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼幻影の艦隊
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼その他の小説
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼シムーン第二章 ~乙女達の祈り~
もくじ  3kaku_s_L.png ▼ゴジラ奇譚
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼未来戦艦大和
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼ビーストハンター
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼地球年代記 ~カルマ~
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼まぼろし
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼やさしい刑事
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼幻影の艦隊
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼その他の小説
もくじ  3kaku_s_L.png オリジナル詩集
もくじ  3kaku_s_L.png 随想/論文集
もくじ  3kaku_s_L.png 死とは何か?
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  ↑記事冒頭へ  
←地球年代記 ~カルマ~ 第4話「ホモ・サピエンス」 (5)    →地球年代記 ~カルマ~ 第4話「ホモ・サピエンス」 (3)
*Edit TB(0) | CO(6)

~ Comment ~


なんだか切ないですね。

亡くなった妻をかかえて故郷に連れて帰ってあげる。
雪の寒さや足の凍傷!!
想像を絶します。痛いね 足や体や心。

それ以上に亡くした妻のことが1番・・・
寒さも痛さも感じないほど歩き続けてたどりつけた。
のに・・・

やはり「愛」とは自分のこと以上に思うことなのかな。
続き楽しみです^^
#736[2014/09/19 02:59]  yume-mi  URL 

Re: yume-mi様 COありがとうございます^^

> なんだか切ないですね。
> 亡くなった妻をかかえて故郷に連れて帰ってあげる。
> 雪の寒さや足の凍傷!!想像を絶します。痛いね 足や体や心。
> それ以上に亡くした妻のことが1番・・・
> 寒さも痛さも感じないほど歩き続けてたどりつけた。
> のに・・・
> やはり「愛」とは自分のこと以上に思うことなのかな。
> 続き楽しみです^^

愛は限界を超える自己犠牲の精神…かな?
人がホモ・サピエンスたる由縁に、確かに愛と言う概念がありますね^^
動物ならやめてしまう所をやめない…意思を持つと言うのも人たる由縁かな?
他の動物に無い力が困難を克服させ、文明を切り開いたのかも知れませんね。
#737[2014/09/19 14:48]  sado jo  URL 

食べるのが当たり前という考え方を越えて
人の死体への受け取り方が変容している。

「肉」から「遺体」へと認識が変容したのですね。
その変容をもたらしたのは…妻が体現していた高い精神性なのでしょう。

合理化を越えたところにこそ
人間の精神の進化があるように思いました。
(*´∇`*)
#738[2014/09/19 22:03]  小奈鳩ユウ  URL  [Edit]

Re: 小奈鳩様 COありがとうございます^^

お見通しで恐れ入ります。
この小説は、どうして猿はホモ・サピエンスになったのか?と言うテーマで書きました。
愛を認識し、魂を認識し、人生を記憶する…それは非合理的な事であり、時に災いにもなります。

先頃、英国の考古学チームが発掘した中世の教会遺跡から、男女の人骨が発見されたそうです。
その人骨は、以前、イタリアのベローナ近郊で発見された数千年前の人骨と同じ状態であった。
つまり、人は原始時代から愛を知り、魂を知り、強い意思があると言う事を証明するものです。
次回、最終話の補足として発掘写真を添えて掲載いたします。
#739[2014/09/19 22:35]  sado jo  URL 

なるほど、そういうことでしたか。
切ない話ですね。
でも凍傷になってまで、その想いを遂げさせてやろうとする、夫婦愛は素敵です。
#750[2014/09/21 18:45]  マウントエレファント  URL  [Edit]

Re: マウントエレファント様 COありがとうございます^^

> なるほど、そういうことでしたか。
> 切ない話ですね。
> でも凍傷になってまで、その想いを遂げさせてやろうとする、夫婦愛は素敵です。

単なる原始人から、妻の思いを知り、人の愛に目覚め、意思を持ったのですね。
言葉は魂を持ち、それは文字に刻まれ、魂を永遠たらしめる…人は気付いたんです。
#751[2014/09/21 20:59]  sado jo  URL 














管理者にだけ表示を許可する

~ Trackback ~


  ↑記事冒頭へ  
←地球年代記 ~カルマ~ 第4話「ホモ・サピエンス」 (5)    →地球年代記 ~カルマ~ 第4話「ホモ・サピエンス」 (3)