シムーン第二章 ~乙女達の祈り~

「▼地球年代記 ~カルマ~」
地球年代記 ~カルマ~ 小説本編

地球年代記 ~カルマ~ 第4話「ホモ・サピエンス」 (5)

氷河期5

「すまん…せっかくここまで来たのに、海まで連れて行ってやれなかった」
 俺は、どうする事もできぬまま、妻の死体の傍らに倒れ込んでしまった。
 様々な思いが胸にあふれ出して来て涙となり、頬を伝わってポトリと魂の貝の上に落ちた。
「ラ・ルゥゥ~…ルル・ラララァ~…ヒュゥ・ヒュララァ~」
 突然開いた二枚貝から、最初で最期に聞いた妻の声が…魂の歌が流れて来たような気がした。
 俺は何かを掴みたい衝動に駆られて、手を伸ばして虚ろな宙をまさぐった。
 雪交じりの冷たい風が、凍傷に罹って腫れ上がった指の間を吹き抜けて行った。

 人に知恵があると言うのは、果たして善い事なのだろうか?…他の生き物より賢いと言う事は幸せな事なのだろうか?
 知恵があるから色々な物を作り、色々な事ができる。しかし、なまじ知恵があるから、要らぬ事まで考えてしまう。
 記憶した事がいつまでも頭から離れず、あれこれ考えて思い悩み、余計にもがき苦しまにゃァならん。
 喜びや楽しみも思い出となるが、悲しかった事や、辛かった事もず~っと思い出として残ってしまう。
 だが、人はいつかは死ぬ…
 強かろうが弱かろうが、豊かだろうが貧しかろうが、幸福だろうが不幸だろうが、すべての生き物は必ず死ぬのだ。
 なのに、なぜ人は擦り切れるほど頭を使い、悩み苦しみ、足掻きながら、いずれは失われる生に執着するのだろう。
 幾ら財産があろうが、知識を持っていようが、思い出があろうが、結局は無意味なものでは無いのか?
 もしかして、妻はその訳を知っていたのかも知れない…だから子供たちに何かを伝えて、旅立たせたのだろうか?
 そう言えば、俺は最期の最期まで自分の妻の名前も知らず、妻が何者なのかすら分からなかった。
 そんな事を考えている内に、猛烈な眠気が俺に襲い掛かって来た。
 あァ、これで楽しかった思い出も、辛かった思い出も、何もかも全部消えるんだな…俺はそう思った。
 俺が最期に聞いたのは妻の魂の記憶だったのだろうか?
 それともひゅうひゅうと吹く風の音だったのだろうか?

 ようやく吹雪が止んだ翌日、狩りに出かけたザガリは、丘の上に並んで倒れている父と母を見つけた。
 父は魂の貝を握り締めたまま死んでおり、母の遺体はミイラと化していた。
 ザガリは丘の上に穴を掘って父と母を埋め、魂の貝を「言霊の巫女」クヌの所へ持って行った。
 クヌは母の形見の貝を見ると、無言のままうなづき、それを愛おしそうに抱いて浜辺へ向かった。
 そして、名も無き二つの小さな魂は流氷の海に還って行った。

第4話 「ホモ・サピエンス」 (完)

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先頃、イギリス・レスター大学の考古学チームが古い教会の遺跡から、手をつないで埋葬された男女の遺骨を発見したそうです。
付近には戦乱の痕跡が残っており、もしかしたら戦いに巻き込まれて死んだのかも知れません。
極限状態にあっても、手を離さなかった二人も凄いが、その愛に報いて一緒に葬ってやった牧師も人情のある人だと思います。
以前、イタリア・ベローナの近郊で、同じ様に体を寄せ合って眠る、数千年前の男女の人骨が発見された事があります。
あの世でも二人は一緒…きっとホモ・サピエンスは、最初に愛を知り、魂の存在を知った「賢い猿」だったのでしょう。
愛を知り、生きる事を知ると言うのは、別れを知ると言う事でもあり、哀しくもありますけどね…それが人間のサガ(カルマ)です。

人骨
 
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~ Comment ~


そうですね。
人は ほかの生き物より 多くの知恵があり
いろいろなことができてしまう。
できてしまうからこその、不具合もあるけれど。

記憶は消せない。
そして いくら考えても 仕方なくても
考えては悩む。

悩む・考えると・・・頭を常に稼動させて?
疲れて夜 寝てしまうのでしょうかね。

手をつなぐ遺骨を見て 目に見える 愛なんて
存在しないのかも? なんて思いました。

こんな深い愛を目の当たりにして・・・
#746[2014/09/21 02:39]  yume-mi  URL  [Edit]

 佐渡様

 いつもサイトを訪問して頂き、ありがとうございます。
 人間の祖先であるホモ・サピエンスはやはり、高い知能
 を持っていたように思えます。我々人類は、高度な知識を
 得ました。それによって平和、戦、喜び、哀しみなど、様々
 なものに翻弄されます。それがある意味、私は神から与えら
 れた代償だと思います。苦しんで苦しんで、最後この世を終
 えるとき、自分の答えを知るのだと感じます。
#747[2014/09/21 08:42]  otometubaki  URL 

Re: yume-mi様 COありがとうございます^^

> 人は ほかの生き物より 多くの知恵があり
> いろいろなことができてしまう。
> できてしまうからこその、不具合もあるけれど。記憶は消せない。
> そして いくら考えても 仕方なくても考えては悩む。

人は何処から来て、何処へ行こうとしているのか?
何を成そうとしているのか?…未だに答えは見つかっていません。

> 手をつなぐ遺骨を見て 目に見える 愛なんて
> 存在しないのかも? なんて思いました。
> こんな深い愛を目の当たりにして・・・

信じる…その人を信じ、その人と一緒の未来を信じる。
宗教が生まれたのは、人が愛の存在を知ったからだと思います。
#748[2014/09/21 12:18]  sado jo  URL 

Re: otometubaki様 COありがとうございます^^

> いつもサイトを訪問して頂き、ありがとうございます。
> 人間の祖先であるホモ・サピエンスはやはり、高い知能
> を持っていたように思えます。我々人類は、高度な知識を
> 得ました。それによって平和、戦、喜び、哀しみなど、様々
> なものに翻弄されます。それがある意味、私は神から与えら
> れた代償だと思います。苦しんで苦しんで、最後この世を終
> えるとき、自分の答えを知るのだと感じます。

生・老・病・死…苦があるからこそ、人は善く生きようとする。
otometubakiさんの思いは、釈迦の悟りに通じるものがあると思います。
せっかく、進化の果てに高い知能を得たのだから、有益な事に使わなければ…
エゴに執着し、他に害を及ぼしては、自他共に滅ぶ事になりかねませんね^^
#749[2014/09/21 13:02]  sado jo  URL 

「手をつないで埋葬された男女の遺骨」ですか。
愛ってよく聞くのですが、僕はまだよく分かっていなかったりします(><;)
手を繋いだまま死ぬってなかなかないと思うので、
死ぬ直前まで繋ごうとするほど互いに大事だったんでしょうね~。
いつか『愛』が分かるようになれば、この遺骨の彼らの心も分かるような気がします。
#752[2014/09/21 23:03]  ツバサ  URL 

愛を知った時に人間は「人間」になったのだ、という考えにすごく感銘を受けました。
なるほど、確かに。

愛は万能ではないですが、自分以外の誰かを大切に思う気持ちはやっぱり尊いと思います。
原始の時代から、そうやって生きてきたのですね。
#753[2014/09/21 23:49]  椿  URL 

Re: ツバサ様 COありがとうございます^^

> 愛ってよく聞くのですが、僕はまだよく分かっていなかったりします(><;)
> 手を繋いだまま死ぬってなかなかないと思うので、
> 死ぬ直前まで繋ごうとするほど互いに大事だったんでしょうね~。
> いつか『愛』が分かるようになれば、この遺骨の彼らの心も分かるような気がします。

今、大地震、又は戦災(爆弾が落ちた)が起きたとします。
隣に愛する人が居たら、その人の手をギュッ!と握る。又は抱き締めるでしょう。
愛情があれば、誰に言われなくても自然にそうすると思いますよ^^
(経験者は語る(笑))
#754[2014/09/22 00:27]  sado jo  URL 

Re: 椿様 COありがとうございます^^

> 愛を知った時に人間は「人間」になったのだ、という考えにすごく感銘を受けました。
> なるほど、確かに。> 原始の時代から、そうやって生きてきたのですね。

愛を知ると言う事は、同時に愛する人の心(魂)を知ると言う事ですね^^
魂を知ると言う事は、知性を持つと言う事です…そして獣から脱却出来たのです。
代りに、諸々の悩みや苦しみを持つ様にもなりましたが…
#755[2014/09/22 00:36]  sado jo  URL 

ごぶさたしました

黄昏時が早まり、ようやく我に返りつつあります。

たいへんごぶさたいたしました。

また、ときどき立ち寄らせていただきます。
#756[2014/09/22 16:41]  majikanakajima  URL 

Re: majikanakajima様 COありがとうございます^^

> 黄昏時が早まり、ようやく我に返りつつあります。
> たいへんごぶさたいたしました。
> また、ときどき立ち寄らせていただきます。

黄昏時はいいですね~^^
ギラギラ輝いていた陽が落ち、漆黒の闇が訪れる束の間の合間。
私の知り合いは、みんな昼よりも夜。太陽よりも月が似合う人が多い様です。
貴女もその一人かな…長らく夜の商売をしてたので、引き寄せるんでしょうかね?
#757[2014/09/22 21:10]  sado jo  URL 

こんばんは。

何千年前に、確かに生きていた人達。
何を思い、何を伝え合ったのでしょう・・・

知ることは出来ないけれど、
姿形が変わり果てても微かに感じる二人の絆に
心が温かくなりました。

#776[2014/09/25 21:08]  月夜野  URL 

Re: 月夜野様 COありがとうございます^^

> 何千年前に、確かに生きていた人達。
> 何を思い、何を伝え合ったのでしょう・・・
> 知ることは出来ないけれど、
> 姿形が変わり果てても微かに感じる二人の絆に
> 心が温かくなりました。

この様に、男女が一緒に合葬された発掘例が幾つかあるそうです。
どの時代、どの地域においても人の愛は変らないと言う証明でもあります。
死んでも一緒に居たい…と言う思いは、現代の我々にも充分伝わって来ますね^^
#777[2014/09/26 01:47]  sado jo  URL 














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