
「君、上手いじゃないか」視察に来ていた海上自衛隊の幕僚が言った。
「はっ!ありがとうございます。でも…」吾妻三尉は、席を立って幕僚に敬礼しながら答えた。
「でも…何だね?」
「本官よりもはるかに上手な者たちが民間におります」
「ほぅ…それはいったい誰だね?」
「ゲームオタクと呼ばれる無職のニートたちであります」
「ははは…君は冗談も上手いね~」
それを聞いた幕僚や左官たちは、吾妻三尉の言葉を一笑に付した。
だが、ただ一人葛城海将だけは、彼の言葉に耳を傾けていた。
孫と遊ぶ事を何よりの楽しみにしている葛城は、よく孫と戦争ゲームをやって遊んでいた。
「お爺ちゃん弱いね~…本当に兵隊さんなの?」
葛城はいつも孫にやり込められていた。ゲームの世界では若い世代には勝てない事をよく知っていた。
中東遠征隊の指揮官に任命された葛城海将は、早速民間のゲーマーを募集する事にした。
彼は、零式無人艦上攻撃機 NA-22型を中心とした対イスラム蛮国作戦を現地で実施するプランを考えていたのだ。
自衛隊員を危険にさらす事なく、潜んでいるテロリストに有効な打撃を与える無人ゼロ戦は、確かに絶好の兵器だった。
だが、多くの幕僚や防衛省幹部は、葛城海将がニートのゲーマーを自衛官に採用する事に反対した。
副官に任命された権田陸相などは、葛城海将は頭がおかしいのではないかとさえ思った。
「葛城さん。そんな仕事もしていないダラけた連中を自衛官に採用して、何の役に立つんですか?」
葛城は微笑みながら、自分に疑いの眼差しを向ける生粋の名古屋人の権田に答えた。
「権田さんは名古屋の連隊におられた頃、地元チームの野球の監督をされていたそうで…」
「はァ、野球が好きなもんで、若い連中と一緒に楽しみましたが…でも、それとこれと何の関係が?」
「もしかしたら、権田さんはドラ(中日ドラゴンズ)ファンでは?」
「えぇ、そりゃもう…少年時代は名古屋ドームによく行ったもんです。落合監督の時代は強かったですなァ」
「ははは…落合博満さんですか。あの方はまるで知略に長けた軍師のようでしたなァ」
「はい、寡兵よく大兵に勝つ。桶狭間で今川義元の大軍を破った織田信長のような方でしたよ」
権田が野球の話をしだしたら留まる所がない。とうとうと野球の話をする権田を、葛城は笑いながらさえぎった。
「ところで権田さん。あなたが落合監督だったら、ここ一番の試合でどんな投手を登板させますかな?」
「と、おっしゃいますと…?」
「ブルペンで仕事はしないが150キロの速球を投げる投手と、ブルペンでも働き、ソツなく投げるそこそこの投手と…」
「そりゃァ、やっぱり150キロの速球を投げる奴でしょう。中田とか浅尾とか、ここぞと言う時は頼りになりますもん」
「じゃァ、今そいつらに投げさせる時ですよ」
~続く~

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