
(してやられた。見るべきところをちゃんと見ている)
一見、のほほんとして昼行灯のように見えるこの男は、只者ではないと権田は思った。
『無人機オペレーター募集 ~趣味を仕事にしてみませんか?~ 海上自衛隊』
全国津々浦々から、募集広告を見たゲーム自慢のニートの若者たちが集まって来た。
そして、健康診断、体力測定、学科試験が行なわれ、多くのニートたちが自衛官に採用された。
みんな腕に自信のあるゲーマーたちであり、その実力は半信半疑で見ていた幕僚や防衛省幹部をあっ!と言わせた。
普通の自衛隊員なら数カ月は掛かるシュミレーターを使った訓練を、彼らはわずか一カ月でマスターしたのだ。
精密に作製された3Dマップを見て、その地形を把握し、どこに敵が潜んでいるか?どんな武器で攻撃すればよいか?
それを瞬時に判断する事を日常的にやっていた。また、実際のバトルゲームでは、突如現れて襲い掛かって来る敵もある。
彼らはそんな高いステージも、難なくクリアして来て、モニターから目を離さない集中力も備えていたのだ。
そうして、さらに驚いた事に、彼らは模擬弾を使った実戦訓練をまったく必要としなかった。
彼らにとってはモニターの中が完結した世界であり、そこで勝てばもうそれでゲームはオーバーする。
シュミレーション訓練で出したスコアと、実戦訓練で出したスコアはまったく同じ結果だったのだ。
とは言え、さすがの彼らも実物の零式無人艦上攻撃機 NA-22型にじかに触れた時は、たいそう興奮していた。
「わァ、これミニチュアのゼロ戦じゃん」
「小っちゃくて、可愛い~」
ヴァーチャルの世界に閉じこもっていた彼らも、ナマで触れたこのゼロ戦の機体はとても気に入ったらしい。
ところが、この無人ゼロ戦に愛着を感じた彼らは、後になってちょっとしたトラブルを起す事になった。
ある日、無人ゼロ戦オペレーターのシュミレーション訓練を視察に行った葛城は、上官と言い合いしている若者を見た
「どうしたんだね?」葛城は無人ゼロ戦隊の統括責任官である広瀬二左に尋ねた
「はっ!司令。この者が服装規程違反をいたしまして…」
見ると、一人の隊員が海上自衛隊の作業服(戦闘服)では無く、古めかしい時代物の飛行服を着て訓練していた。
「ちゃんと決められた作業服に着替えて来い!」広瀬二左はその隊員に命じた。
「何でいけないんですか?せっかく買って来たのに~」若い隊員は反発した。
「いかん物は、いかん!海上自衛隊には決められた制服があるんだ」
「だって~…わざわざ秋葉原まで行って買って来たんですよ」
よく見ると、それは太平洋戦争でゼロ戦のパイロットが着ていた飛行服のコスプレだった。
「成りきり」なのだ。孫がヒーローの仮面を被ってゲームをするのと同じ心理なのだろう…と葛城は思った。
きっと、空を飛ばない…いや、飛べないパイロットである彼は、精一杯の自己主張をしているのだろう。
そう考えてみると、葛城には何だか彼らが孫のようにほほ笑ましく見えた。
~続く~

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