
「早く正規の作業服に着替えて来い!」
強引に押し付ける広瀬二左を前に、若い隊員は不服そうな顔をしていた。
その様子を見ながらしばらく考えていた葛城は、やおら二人の間に割って入るように言った。
「ちょっと待ってくれないか。広瀬二左」
それから若い他員の方に向き直って、微笑みながら尋ねた。
「君はその服装が気に入ってるのかね?」
「はい、だって気分が乗ってヤル気が出ます。みんなも似合うって言ってくれてますし…」
「分かった。作業の邪魔にならないならそうしなさい。但し、海上自衛隊の徽章と階級章は付けるように…」
「わァ~、ありがとうお爺さん」若い隊員は喜んで礼を言った。
「こらっ!葛城司令に向かって何て事を言う…司令、甘やかされては困りますよ~」
今度は広瀬二左の方が不服そうに葛城に言う。
「押し付けでやらされるのと、自分から進んでやるのとでは仕事をする意欲が違わないかな?広瀬二左」
「しかし、葛城司令。規律は規律ですから…」
広瀬二左はそう言い掛けたが、若者たちはもうすっかりその気になっていた。
「それ、僕も欲しいわ。秋葉原のどの店で売ってんの?教えて」
「ゼロ戦ぽくってカッコいいやん」
「私も着てみたい。色はピンクがいいなァ…そんなのある?」
「分かった。分かった。それじゃ、ゼロ戦隊の正規の制服を作らせよう。それでいいかな?」
葛城は、飛行服の隊員を囲んではしゃいでいる若者たちに向かってそう言った。
「わァ、ほんとうですか~?ありがとうございます」
「楽しみだなァ~…できたら真っ先に着させて下さい」
葛城は喜んでいる隊員達を見ながら、なお不満そうな顔の広瀬二左に笑いながら言った。
「君も着てみたまえ。きっと似合うぞ~」
こうして、海上自衛隊・無人ゼロ戦隊のオペレーターの制服が決まった。
実際、上官たちは、ニートのゲーマーから自衛官になった彼らに、実技よりも規律を教えるのに苦労していた。
自衛隊の常識に掛からない彼らは、いつもこんな調子だったから、広瀬二左の苦労は分からぬでもなかった。
だが、戦争は結果がすべてなのだ。戦に勝つ事が何よりも優先される事実を葛城はよく知っていた。
実際の戦場では規律の整った軍隊よりも、優れた個人や集団を持っている軍隊の方が勝利するケースが多い。
「アレクサンダー」「シーザー」「ナポレオン」彼らの傍らには、必ず戦の技量に優れた勇者たちがいた。
後に、腕の立つゲーマー上がりの彼らが中東で見せた活躍は、世界の軍事常識を根底から覆すものだった。
~続く~

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