
<第四節:遠来の友>
イスラム蛮国の補給基地「ハマラ」の攻略に成功した葛城は、艦隊をトルコのイスカンダル湾からシリアに移した。
トルコと違って、シリア沖に停泊する事は公然たる領海侵犯になる。だが意外な事にシリア政府はこれを黙認した。
日本は欧米やロシアと違って、中東に領土的な野心はない。来たのをこれ幸いに反体制派を叩くのに利用してやろう。
狐のように狡猾なシリアのアルド大統領は、そう考えたのだろう。
ブゥ~!ブゥ~!ブゥ~!突如、旗艦「ひだか」の艦内に警報が鳴り渡った。
「不審船が接近して来た。全員戦闘位置に着け!」艦長の大内一左がただちに命令を下した。
DDH空母型護衛艦「あまぎ」と「ひたち」を囲んで警護していた七隻の護衛艦の砲塔が一斉に洋上に向けられた。
一瞬ピリピリとした緊張が走った。ミサイルや魚雷を撃たれたらひとたまりもないからだ。
現代の艦隊は、過剰なまでに警備を厳重にしている。それもそのはず、現代の軍艦には昔のような分厚い鉄の装甲がない。
大砲を撃ち合った昔の海戦と違い、兵器の破壊力が格段に増した近代戦では、どんな分厚い装甲をしても役には立たない。
鉄の装甲は船が重くなるだけで無駄である。従って、現代の軍艦はミサイルや魚雷を一発喰らったら、たちまち沈没する。
それは、1900年のフォークランド紛争で、イギリスの駆逐艦がたった一発の対艦ミサイルで撃沈されたのを見ても分かる。
その代わり、レーダーなどの電子機器を中心とした防御システムと、強大な破壊力を持つミサイルなどの兵器を備えている。
だから、3000トンにも満たない駆逐艦でも、第二次大戦当時の何万トンもの戦艦や空母を、一撃で葬り去る能力があるのだ。
昔と今では船も戦い方もすべてが違う。近代戦とは、コンピューターとミサイルを駆使した電子戦なのである。
現在アメリカが誇る「空母打撃群(旧機動部隊)」と呼ばれる艦隊編成もその近代戦に基づいて構成されている。
航空能力を持つ空母、対ミサイル防御能力を持つイージス艦、対潜駆逐能力を持つフリゲート艦を組合せてできている。
ただ、長距離弾道ミサイルが存在する現代では、かっての機動部隊のように陸上攻撃能力が充分あるとは言いがたい。
むしろ、敵に対する示威行動と、素早く洋上を移動して敵の出鼻を挫く戦略的防衛がその大きな役割だろう。
ちなみに歴史上、空母を中心とした艦隊を運用した経験を持つのは、アメリカとイギリス、そして日本だけである。
その経験を生かすなら、四方を海に囲まれた日本の防衛には、やはり空母打撃群を用いるのがうってつけであろう。
「小さいな」双眼鏡を向けて洋上を見ていた葛城は言った。
「魚雷艇か、ミサイル艇でしょうか?」同じ様にして双眼鏡を覗き込んでいた艦長が言った。
「かもしれん。攻撃してくるつもりかな?」
「照準合わせっ!撃ち方よ~い!」艦長の大内一左の指示がとんだ。
イージス艦「ひだか」のMod4 62口径速射砲がグ~ッ!と動いて、不審船に照準を合わせた。
~続く~

- 関連記事
-
- 砂漠のゼロ戦 - Desert of ZERO -(9)
- 砂漠のゼロ戦 - Desert of ZERO -(10)
- 砂漠のゼロ戦 - Desert of ZERO -(11)
スポンサーサイト
もくじ
シムーン第二章 ~乙女達の祈り~

もくじ
棘(いばら)の記憶

もくじ
ゴジラの子守歌

もくじ
ビーストハンター

もくじ
未来戦艦大和

もくじ
やさしい刑事

もくじ
クロニクル ~カルマ~

もくじ
まぼろし

もくじ
実話「事実は小説より奇なり」

もくじ
「ニッポン」不思議な国の成立ち

もくじ
オリジナル詩集

もくじ
随想/論文集

もくじ
アニメ /コミック

もくじ
死とは何か?

もくじ
未分類
