
「ちょっと待てっ!どうも普通のクルーザーのようだ」葛城は艦長の大内一左を制止した。
「何か発光信号を出してるようですな」慌てて双眼鏡を覗き直した大内一左も、それを確認した。
「ふむ、ふむ、そうか…どうも防衛省から連絡のあったクルド人のようだな」
「あァ、ペシュメルガのカンダハル…何とか言う将軍ですか?」
「船に白旗を立ててるぞ。間違いない。そのカンダハル・ザイード将軍だろう」
「どうされます?」
「一応、乗船させる。私は下に下りて出迎えるから、後は頼んだよ」
葛城は大内一左にそう言って艦橋を下りて行った。
イージス艦「ひだか」に係留された小型のクルーザーから三人の人物が甲板に上がって来た。
一人は顎鬚をたくわえたいかにも戦士らしい大柄な男。一人はヨーロッパ人と見間違うような若い好青年。
そしてもう一人は頭にヒジャブを巻いた年の頃17歳くらいの少女だった。
「初めまして、ザイード将軍。私が当艦隊の指揮を執っている葛城です」
葛城は大柄な男に挨拶をしながら手を差し出した。
すると、それを聞いた若い青年が、大柄な男に何やら耳打ちした。
「お招きに預かり光栄です、葛城閣下。私はペシュメルガの指揮官、カンダハル・ザイードと申します」
若い青年はザイードの言葉を日本語に通訳して葛城に伝えた。
「こりゃ、驚いた。あなたは日本語がお出来になるのですな。いや~、通訳は要りませんでしたな」
葛城は連れて来たクルド語の通訳の隊員を見ながら笑った。
「部下のオマル・シュタルクはトルコの出身でして、国際援助隊の日本の教師に学校で日本語を学びました。それから…」
と言って、ザイードはシュタルクの後ろに恥ずかしそうに隠れている少女の手を引っ張った。
「娘のスラバニです。連れて来るつもりは無かったんですが、付いて来てしまいまして…」
ザイードはそう言いながら照れ笑いをした。
「それは、それは、娘さんでしたか。ようこそひだかへ…歓迎しますよ」
「まァ、何と言いますかスラバニとオマルはホレッ…そんな仲でして、連れて来た方が安全でもありますので…」
「よく分かります。お国は戦場ですからなァ…父親として娘の安全を考えるのは当然ですよ」
「いや、お恥ずかしい」
「立ち話もなんですから、取り合えず船の中へご案内しましょう」
そう言って葛城は部下を連れて先に立って甲板を歩き出した。
「それにしても立派な船ですな~…向こうの二隻の軍艦などはまるで山のように見えます」
「あァ、あまぎとひたちですか。日本では一番大きな護衛艦になります」
そう言ってザイードと葛城が見やった先には、海に浮かぶ巨城のような二隻のDDH護衛艦の雄姿があった。
~続く~

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