
「お羨ましい。私たちも海の国だったら、こんな艦隊を持ちたい。けれど、今は国家すらない有様で…」
「クルドの窮状はよく存じ上げております。だが、あなた方はイスラム蛮国に勇敢に立ち向かっておられる」
「はい、何とか持ち堪えておりますが、何せ武器が寄せ集めなものでして…苦戦しています」
「その局面をわずかでも打開するお手伝いができれば、日本から来た甲斐がありますよ」
「ありがとうございます。葛城閣下」
「いぇ、いぇ、あなた方の先祖はヨーロッパ人と袂を分かって、古くからアラブ地域に住み着いた白系人種だと聞いています」
「そうですな…宗教は違いますがヨーロッパ人とは親戚関係になりますかな」
「獅子王リチャード *1」率いる十字軍をエルサレムから撃退したアラブの英雄「サラディン *2」も、ティクリート出身のクルド人だと聞き及びます」
「よくご存知で…恐れ入ります。確かにサラディンが率いたのはクルド兵でした」
「言わば、あなた方には勇敢な英雄の血が流れている訳だ。どうりでお強い」
*1)獅子王リチャード:イングランド・プランタジネット朝の第二代国王。十字軍の英雄であり、騎士道の鑑と謳われ、エルサレムの攻防でサラディンと激闘を演じた。生涯のほとんどを海外での戦いに明け暮れ、本国にいたのはわずか6カ月。後継者が悪名高い愚昧なジョン王だったため、イングランドの混乱を招いた。
*2)サラディン:1187年~92年、聖地エルサレムを巡る戦いで、ヨーロッパ十字軍のテンプル騎士団やヨハネ騎士団と激しい戦いの末、これを撃退。シリアからエジプトに及ぶアイユーブ王朝を建国。知略に長けた名将であり、公明正大な名君としても名高い。クルド人が誇りとする英雄で、その目は青かったそうである。
「お褒めに預かり恐れ入ります。ただ…」
「ただ…どうされました?」
「今の時代は強いだけでは生きて行けません。学がなくては…」
「確かに…教育は何にも増して重要です」
「オマルはトルコで高等教育を受けましたが、動乱さえなければ大学で学ばせてやりたい将来のある若者です」
「勿体ないですなァ…将来性のある若者がペンよりも、銃を取って戦わねばならんとは…」
「娘のスラバニは初等教育しか受けておりません。平和なら学校へ行かせてやりたいと思いますよ」
「その親心はよく分かります。あなた方はみな13才頃から男女問わず銃を取って戦われてるんでしたなァ」
「はい、サダム・フセインの弾圧に遭って以来、戦の絶える事がありません。たくさんの若者が戦場で死んでしまいます」
「ご心痛お察し申し上げます。何と申し上げてよいやら…一日も早い平和を望まずにはいられませんね」
「いつか日本のような国を作りたい。私の代でだめでも次の代で…そのために若者を学ばせてやりたいと思います」
(日本人は幸せだ…けれどその幸せはいつまで続くだろうか?すべては日本人の心掛け次第なのだ)
葛城は絞り出すようなザイードの言葉を聞いてそう思った。
~続く~

<エルサレム攻防戦を巡る逸話>
上記の二人の英雄は、聖地エルサレムの攻防戦でたくさんの面白い逸話を残している。
当時においては、異教徒の捕虜は殺すのが当たり前だった。これは現在のIS(イスラム国)も同様の事をしている。
だが、リチャードと会見したサラディンの弟アーディルは、金のある貴族からは身代金を取り、金の無い兵士は無償で釈放した。
理由を聞かれたアーディルは「これが一番神のご意思に叶う事だから」と、平然として言ったと伝えられている。
それを聞いたリチャードは「余の妹をやるから、ぜひイングランドに来てくれ」と、アーディルに申し出たそうである。
戦の原因である宗教さえ無視したリチャードの言葉には、さすがのサラディンも呆れたらしく、婚姻は実現しなかった。
しかし、リチャードが正々堂々と戦う勇敢な騎士だと知ったサラディンは、戦の最中に病気で倒れたリチャードの元に自分の主治医を遣わし、彼を治療させたとも伝えられている。
人は誰しも寛大で公明正大な好人物に惹かれるものである。
人を隔てるものは、恨みや憎しみであって、宗教や民族などの人が作ったことわりでは無いのであろう。
上記の二人の英雄は、聖地エルサレムの攻防戦でたくさんの面白い逸話を残している。
当時においては、異教徒の捕虜は殺すのが当たり前だった。これは現在のIS(イスラム国)も同様の事をしている。
だが、リチャードと会見したサラディンの弟アーディルは、金のある貴族からは身代金を取り、金の無い兵士は無償で釈放した。
理由を聞かれたアーディルは「これが一番神のご意思に叶う事だから」と、平然として言ったと伝えられている。
それを聞いたリチャードは「余の妹をやるから、ぜひイングランドに来てくれ」と、アーディルに申し出たそうである。
戦の原因である宗教さえ無視したリチャードの言葉には、さすがのサラディンも呆れたらしく、婚姻は実現しなかった。
しかし、リチャードが正々堂々と戦う勇敢な騎士だと知ったサラディンは、戦の最中に病気で倒れたリチャードの元に自分の主治医を遣わし、彼を治療させたとも伝えられている。
人は誰しも寛大で公明正大な好人物に惹かれるものである。
人を隔てるものは、恨みや憎しみであって、宗教や民族などの人が作ったことわりでは無いのであろう。
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