シムーン第二章 ~乙女達の祈り~

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砂漠のゼロ戦 - Desert of ZERO -(12)

十字軍の攻防

「お羨ましい。私たちも海の国だったら、こんな艦隊を持ちたい。けれど、今は国家すらない有様で…」
「クルドの窮状はよく存じ上げております。だが、あなた方はイスラム蛮国に勇敢に立ち向かっておられる」
「はい、何とか持ち堪えておりますが、何せ武器が寄せ集めなものでして…苦戦しています」
「その局面をわずかでも打開するお手伝いができれば、日本から来た甲斐がありますよ」
「ありがとうございます。葛城閣下」
「いぇ、いぇ、あなた方の先祖はヨーロッパ人と袂を分かって、古くからアラブ地域に住み着いた白系人種だと聞いています」
「そうですな…宗教は違いますがヨーロッパ人とは親戚関係になりますかな」
「獅子王リチャード *1」率いる十字軍をエルサレムから撃退したアラブの英雄「サラディン *2」も、ティクリート出身のクルド人だと聞き及びます」
「よくご存知で…恐れ入ります。確かにサラディンが率いたのはクルド兵でした」
「言わば、あなた方には勇敢な英雄の血が流れている訳だ。どうりでお強い」

*1)獅子王リチャード:イングランド・プランタジネット朝の第二代国王。十字軍の英雄であり、騎士道の鑑と謳われ、エルサレムの攻防でサラディンと激闘を演じた。生涯のほとんどを海外での戦いに明け暮れ、本国にいたのはわずか6カ月。後継者が悪名高い愚昧なジョン王だったため、イングランドの混乱を招いた。

*2)サラディン:1187年~92年、聖地エルサレムを巡る戦いで、ヨーロッパ十字軍のテンプル騎士団やヨハネ騎士団と激しい戦いの末、これを撃退。シリアからエジプトに及ぶアイユーブ王朝を建国。知略に長けた名将であり、公明正大な名君としても名高い。クルド人が誇りとする英雄で、その目は青かったそうである。

「お褒めに預かり恐れ入ります。ただ…」
「ただ…どうされました?」
「今の時代は強いだけでは生きて行けません。学がなくては…」
「確かに…教育は何にも増して重要です」
「オマルはトルコで高等教育を受けましたが、動乱さえなければ大学で学ばせてやりたい将来のある若者です」
「勿体ないですなァ…将来性のある若者がペンよりも、銃を取って戦わねばならんとは…」
「娘のスラバニは初等教育しか受けておりません。平和なら学校へ行かせてやりたいと思いますよ」
「その親心はよく分かります。あなた方はみな13才頃から男女問わず銃を取って戦われてるんでしたなァ」
「はい、サダム・フセインの弾圧に遭って以来、戦の絶える事がありません。たくさんの若者が戦場で死んでしまいます」
「ご心痛お察し申し上げます。何と申し上げてよいやら…一日も早い平和を望まずにはいられませんね」
「いつか日本のような国を作りたい。私の代でだめでも次の代で…そのために若者を学ばせてやりたいと思います」
(日本人は幸せだ…けれどその幸せはいつまで続くだろうか?すべては日本人の心掛け次第なのだ)
 葛城は絞り出すようなザイードの言葉を聞いてそう思った。

~続く~

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<エルサレム攻防戦を巡る逸話>
上記の二人の英雄は、聖地エルサレムの攻防戦でたくさんの面白い逸話を残している。
当時においては、異教徒の捕虜は殺すのが当たり前だった。これは現在のIS(イスラム国)も同様の事をしている。
だが、リチャードと会見したサラディンの弟アーディルは、金のある貴族からは身代金を取り、金の無い兵士は無償で釈放した。
理由を聞かれたアーディルは「これが一番神のご意思に叶う事だから」と、平然として言ったと伝えられている。
それを聞いたリチャードは「余の妹をやるから、ぜひイングランドに来てくれ」と、アーディルに申し出たそうである。
戦の原因である宗教さえ無視したリチャードの言葉には、さすがのサラディンも呆れたらしく、婚姻は実現しなかった。
しかし、リチャードが正々堂々と戦う勇敢な騎士だと知ったサラディンは、戦の最中に病気で倒れたリチャードの元に自分の主治医を遣わし、彼を治療させたとも伝えられている。
人は誰しも寛大で公明正大な好人物に惹かれるものである。
人を隔てるものは、恨みや憎しみであって、宗教や民族などの人が作ったことわりでは無いのであろう。
 
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おはようございます。

サラディンはクルド人だったのですね。それは知りませんでした。
十字軍戦争で一番の英雄は彼ですね、アラブの歴史でも一番光っている人に思えます。
そういう人がいるのは民族の誇りですね。クルドの皆さんにも平和に暮らせる日が来ますよう。
日本にも平和が続くよう……。
#1621[2015/03/12 07:15]  椿  URL 

こんにちは^^

若者が学ぶためにペンよりも銃を取る(>。<;)
学は本当に大事ですよね。
学があるだけで、見る目が変わってきます。社会においても
まず、大きな門すら開けてもらえない。

リチャードの妹とアーディルがもし結婚していたら・・
どうなっていたのでしょうね^^
#1622[2015/03/12 07:39]  yume-mi  URL  [Edit]

Re: 椿様 COありがとうございます^^

> サラディンはクルド人だったのですね。それは知りませんでした。
> 十字軍戦争で一番の英雄は彼ですね、アラブの歴史でも一番光っている人に思えます。

ヨーロッパの騎士団を撃退したサラディン。ISを撃退しているペシュメルガ。
クルドの戦乙女などは、ゲルマンのワルキューレを連想します。やはり同族ですね。
十字軍戦争の英雄、サラディンの血は脈々と受け継がれているんですね^^
ただ、髪の毛や目など毛色の違うクルド人は、アラブ地域では迫害されてるそうです。
#1623[2015/03/12 12:25]  sado jo  URL 

Re: yume-mi様 COありがとうございます^^

> 若者が学ぶためにペンよりも銃を取る(>。<;)

若者から大事な人生の基礎を奪ってしまう…戦争は哀しい事です><

> リチャードの妹とアーディルがもし結婚していたら・・
> どうなっていたのでしょうね^^

少なくとも、英国ではイスラムへの理解が深まったんではないですか?
今日の様な悲惨な事にはならなかったと思いますね^^
#1624[2015/03/12 12:33]  sado jo  URL 

ちゃんとした教育を受けられている日本人も、この異常事態に危機感を抱かない人が多いのは不思議でなりません。
平和がいつまで続くか…。
#1625[2015/03/12 20:49]  マウントエレファント  URL  [Edit]

力も国家にとっては確かに必要なものですが、
まずはちゃんと学べる環境があってこそ、力も生きてくるものですしね~。
まずは安全に学べる環境が整わないと、
力だけの国家にしかならなくなりますしね(><)
#1626[2015/03/12 20:50]  ツバサ  URL 

Re: ツバサ様 COありがとうございます^^

> 力も国家にとっては確かに必要なものですが、
> まずはちゃんと学べる環境があってこそ、力も生きてくるものですしね~。

銃は持ってるが、文字を知らないISなどの過激派は、上の人間に言われるままに人を襲い、少女は自爆してしまいます><
世界で10億近い人が文盲で、その大半が中近東やアフリカに集中しています。
文字も読めず、善悪も分からず、人生を選べない…それが彼らの不幸の元ですよ。
#1628[2015/03/12 21:23]  sado jo  URL 

Re: マウントエレファント様 COありがとうございます^^

> ちゃんとした教育を受けられている日本人も、この異常事態に危機感を抱かない人が多いのは不思議でなりません。
> 平和がいつまで続くか…。

おっしゃる通りです…去る11日、世界各地で東日本大震災の追悼行事が行なわれました。
アメリカ、ヨーロッパは勿論、あの戦火の中でエジプトでも行なわれたそうです。
なのに、日本人は世界の出来事には関心が無い…一国平和主義でいいんですかね?
うっかりしてると元総理大臣(鳩山さん)が、あちこちであらぬ事を喋ってますよ~
あァ、そうか!北方四島はロシアの物、尖閣諸島は中国の物なんだ~…なんて事に(笑)
#1629[2015/03/12 22:06]  sado jo  URL 














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