
「街道を遮断しない限り、ラッカやモスルから兵員や物資の補給が可能ですので、我々も手を焼いています。頻繁に出撃して来ては、クルドの町や村を襲ってますのでね」
「バーディヤを制圧すれば、兵站線を遮断して敵に大打撃を与えると共に、クルド地域への脅威も排除できる訳ですな」
遠征隊副官の権田陸将は、我が意を得たりと言うような顔をしてそう言った。
「その通りです。今、我々はイラク軍と共に、米国を始めとする多国籍軍の支援を得て、モスルの奪還を計画している所です」
「なるほど。それならバーディヤの攻略はより重要ですな。兵站線を遮断してモスルの敵軍を孤立させる事ができる」
権田は事もなげに言ったが、五十嵐作戦統括参謀はそれを遮るようにスクリーンの画像を入れ替えた。
「ところが、その邪魔になるのがこの城塞です。昨日やたがらすが撮って来たものですが、ご覧下さい」
スクリーンには、イスラム蛮国によって完全に武装化された城塞の画像が映し出されていた。
「ご覧のように城塞の窓という窓にはロケット砲や狙撃兵が配置され、塔の上には対空機関砲が並べられています。また、石造りの堅固な城壁は、現代兵器をもってしても破壊する事が困難です」
「こりゃァ、陸戦部隊はうかつに近寄れませんなァ…狙い撃ちされてしまう」御子柴陸上作戦参謀は言った。
「そこで、巡航ミサイルと無人ゼロ戦隊をもって、ある程度の脅威を排除してから、空挺部隊による奇襲を掛け、城塞と街との間にある街道を遮断して、同時にザイード将軍にバーディヤの街を制圧し、城塞を包囲していただきたいのです」
「了解いたしました」ザイードはそう答えた
「しかし、敵は7~8000の大軍ですぞ。ペシュメルガはどれくらい動員できますか?」
「援軍を合わせて最大で4000と言った所でしょうか」
「う~ん、厳しいなァ」
「心配には及ばない。敵の戦力はすぐに半分以下になるよ」
葛城は、不敵な笑みを浮かべながら遠征隊の幹部やザイードたちを見回して言った
(なんと言う自信だろう…何事か策略でもあるのだろうか?)居並ぶ一同はみなそう思った
作戦会議を終えた中東遠征隊の幹部たちが全員解散すると、葛城は頭を下げてザイードに謝った。
「申し訳ありません。ザイード将軍。官僚と言う人種は頭が堅いもんで、どうかお気に障ったらお許し下さい」
「いや、いや、もう慣れてますよ。シリアやイラクの役人たちはもっとひどい。何事も強引に押し付けて来ますから」
「そうですか~…クルドの方々も弱い立場にあると言うのは、さぞお辛いでしょうなァ」
「私はこれで軍の方に戻りますが、若い二人は連絡係として閣下にお預けします。まァ、人質だと思って下さい」
「人質なんてとんでもない。大切なお客人として責任をもってお預かりさせていただきますよ」
「それでは、作戦決行の日時が決まりましたら、委細はオマルを通じてご連絡下さい」
「承知いたしました。日本語の堪能な部下を残していただいて感謝します。ところで…」
「ところで…何でしょうか?」
「まもなくラマダン(断食)の月に入りますが、あなた方も当然ラマダンの行をされるのですな」
「はァ、一応、最前線にいる者以外は…」
「宗教的に大事な行事だと言う事は充分存じ上げておりますが、今回は少しお控え願えませんでしょうかな」
そう言ってザイードを見た葛城の目は、ギラギラとした光を放っていた。
(この男は何事か考えている?何をするつもりなのか?羊のように柔和だが、目は狼そのものだ)
ザイードは、一瞬背筋に戦慄が走るのを覚えた。
~続く~

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