
マリクの後退命令が、後方の戦闘車に伝わるより早く、日の丸のマークを付けた小型飛行機の大編隊が上空に現れた。
DDH護衛艦「あまぎ」から飛び立った鷹隊と鶴隊「ひたち」から飛び立った鷲隊と燕隊、総勢48機の無人ゼロ戦だった。
「この前の仕返しばしちゃるけんね~!」
「そうだ!そうだっ!俺の大事なゼロ戦おしゃかにしやがって~!」
次々と翼をひるがえして降下して来るゼロ戦から、混乱している敵軍に向かって対地ミサイル、すずめばちが発射された。
ドッガ~ン!ドッゴ~ン!300両近い敵の車列のあちらこちらから、爆音と火の手が上がり、戦闘車が粉砕された。
「狙い撃ちされるぞ!かたまるな~っ!」マリクはそう叫んだ。
だが、彼の命令も虚しく、道路を捨てて荒野に逃げ出した戦車や装甲車の前に、新たな強敵が立ちふさがった。
ロシア軍最強の戦車と言われるT-90 ウラジミールの装甲さえたやすく撃ち破る漆黒の怪鳥、10機の攻撃ヘリかるらだった。
シュッ!シュッ!シュ~ッ!かるらの側面に取り付けられた筒巣から、勢いよくすずめばちの群れが飛び出した。
群れをなして襲い掛かる猛毒蜂の前には、ソ連製T-72戦車の旧式装甲はブリキのオモチャのようなものでしかない。
たちまち数台の戦車が、爆焔を噴き上げて燃え上がった。装甲車の兵士があわててハッチを開けて、対空機銃を構えた。
今度は、それを目掛けて7.62ミリ対人機銃が嵐の様に降りそそいだ。体中を蜂の巣にされた敵兵は無残な最期を遂げた。
街道に立ち往生したままの4600のモスル救援軍は、容赦のない無人ゼロ戦とかるらの攻撃にさらされた。
周囲には何一つ掩蔽物はない。破壊された車両の陰に隠れて散発的な抵抗をする者も、空からの銃撃に次々に倒れた。
走って逃げようとした敵兵も、対人機銃のバイタルセンサーにことごとく察知され、格好の標的にされて命を奪われた。
計算上では、AK-47の三倍以上の発射速度を持つ対人機銃は、密集した敵の一個中隊をたった一分で殲滅する事ができる。
この戦闘では、その能力が如何なく発揮された。何と戦闘開始からわずか15分で敵軍の半数以上の兵が戦闘不能に陥った。
麦の穂を刈ると言う例えがあるが、近代軍が、時代遅れの軍隊を相手に、その力を解放すればまるで殺戮戦のようになる。
「あァ~っ!」「アッラー・アクバル!」
銃を突き付けられた捕虜たちは、嘆きの叫び声を上げながら、仲間たちがバタバタと倒れて死んで行くのを見るしかなかった。
そこには、ただの瓦礫になった戦車や装甲車、燃えて燻り続ける戦闘車の周辺には、累々と兵士の死体が散らばっていた。
そうして、わずかに生き残って戦場から逃亡を図った敵も、あらかじめ包囲していたクルド軍の網に掛かって殺害された。
戦闘開始から30分。すでに負傷して動けなくなっていたマリクは、部下に命じて白旗を掲げさせて降伏した。
この戦闘で2800人のイスラム蛮国兵が戦死、1500人以上の兵士が負傷。かろうじて生き残ったのはわずか数百人だけだった。
自衛隊とクルド軍にとっては大戦果だった。何とモスル守備隊の半数近くが、バーディアの郊外の戦いで壊滅したのだ。
だが、勝利の報告を聞いて駆けつけた現地指揮官の宇賀多一左は、死体が散乱した現場の惨状に吐き気すら覚えた。
戦場を検分して回ると、外国からテロに参加したヨーロッパ系の白人や東洋人、そして年端も行かぬ少年兵の死体もあった。
「親不孝者どもが~っ!」宇賀多は累々と横たわる敵兵の死体を見て、やりきれぬようにつぶやいた。
~続く~

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シムーン第二章 ~乙女達の祈り~

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棘(いばら)の記憶

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ビーストハンター

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未来戦艦大和

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やさしい刑事

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