シムーン第二章 ~乙女達の祈り~

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もうひとつの06
アニメの第二話:ニーナの回収シーン

 いよいよ運命の日がやって来た。アイラが誕生して今日で9年と4カ月…まもなく81920時間になる。
 この日で、アイラのすべての記憶と人格が失われてしまう…人間で言えば死を迎える事になるのだった。

 ツカサとアイラはいつも通り、二人で揃ってターミナルサービス課に出社して来た。
「じゃ、私はお別れのあいさつ回りに行って来るので」アイラはツカサにそう告げた。
「あァ、行ってらっしゃい」なぜだかツカサはあっさりと彼女を送り出した。
 アイラは、メンテナンスのミキジロウやエルに別れを言い、本社のお世話になった人たちへのあいさつ回りを済ませた。
 ロッカーや台所を整理し、サービス課のスタッフ全員にあいさつを終えたアイラは、感慨深げに事務所の中を見渡した。
 もうすぐ消えるたくさんの思い出を、胸の中にしっかりと焼き付けようとするかのように…愛しそうに机を撫でた。
 とうとう回収車が、事務所の前にやって来て、車の中からミキジロウとエルが下りて来た。
「行こうか、アイラ」ツカサはやさしくアイラの肩に手を置いた。
「うん」アイラはこっくりとうなづいた。

 ツカサは回収車の後部にあるギフティアのデータ消去モジュールにアイラを座らせた。
 ミキジロウとエルが、手際よくうつむいたままのアイラの身体にケーブルを接続して行く。
 アイラとの別れを惜しむターミナルサービスのスタッフ全員が、その作業をじ~っと見守っていた。
 データを消去する準備を終えたミキジロウが、うつむいたままのアイラの肩をポンと叩いて言った。

「何か思い残しはないか?」
「え~っと…みんな長い間お世話になりました」
 ようやく顔を上げてそう言ったアイラは、目に一杯の涙をためていた。
「私のドジのために、みんなに迷惑掛けてごめんなさい」
「いいよ、いいよ、アイラちゃん…誰も迷惑だなんて思ってる人はいないから…」
 山野辺課長がそう言ってアイラを慰めると、アイラはカズキの方を向いて言った。
「私のせいで足を失くしちゃってごめんなさい。カズキ」
「何言ってんだい…足の一本や二本、どうって事ないさ」
 そう答えたカズキも、もう泣き出しそうな顔になっていた。
「こんなドジな私でも、好きだって言ってくれる人がいて…私生まれて良かった」
 アイラは目に涙を浮かべながらツカサの方を向いて、精一杯の笑顔を作って見せた。
「ありがとう。ツカサ…私ツカサと一緒で幸せだった」
 とうとうアイラはこらえきれずに泣き出してしまった。スタッフ全員がもらい泣きし始めた。
「でも、無理してがんばりすぎて、いつもみたいに倒れちゃだめだよ」
「あァ、気を付けるよ…アイラ」ツカサは懸命に涙をこらえながら返事をした。
「シェリー、コンスタンス、ザック…私がいなくなっても、みんなで力を合わせてがんばってね」
「心配しなくていいわよ。後は任せといて…」シェリーもやっとの思いでそう言った。
「それじゃ、先に行くね…みんな」

 やっと涙を振り払って席に座り直したアイラは、ふと思い出したようにポケットから何かを取り出した。
「あ、そうだ!これツカサに返さなきゃ…」そう言ってアイラは、手にした何かをツカサに差し出した。
 それはツカサとの初めてのデートの日に、彼に買ってもらったオバケのキーホルダーだった。
「いいよ…また逢う日まであずけとく」ツカサは、キーホルダーをアイラの手に握らせてやった。
 アイラは、ツカサにプレゼントしてもらったキーホルダーをしっかりと胸に抱きしめて目を閉じた。
 その指に、ツカサはそっとデータ消去リングをはめてやった。
 ギフティアのデータ消去プログラムが、ウィ~ン!と音を立てて動き始めた。
 そうして、静かに眠るようにアイラは逝った。

~続く~

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~ Comment ~


こんにちは!

運命の日。
アイラのように抵抗なく この場所に座ることが出来るのか。
誰か、逃げたしたりすることはないのかな。と思ったりしました。

自分が すべて消えると初めからわかっていても
わかっているから?とても怖い気がしました。
たとえ、アイラのように人じゃなくても、愛が生まれてしまえば
ツカサにとっても、とても辛い現場ですね。

時々、人にも データー消去なんてものが、あるならば
使ってみたい気もしますが、全消去となると考えてしまいます(>。<;)
#2021[2015/05/27 06:29]  yume-mi  URL  [Edit]

Re: yume-mi様 COありがとうございます^^

> アイラのように抵抗なく この場所に座ることが出来るのか。
> 誰か、逃げたしたりすることはないのかな。と思ったりしました。

死を受け入れるのは、誰にとっても容易な事ではありません。
アニメの本番では、たくさんのギフティアが所有者と一緒に逃げ出してしまいます。
人間の場合は「苦しみ」が死を受け入れる補助をしてるのかも知れないですね。
「こんなに苦しいんなら、死んだ方がいい」死の床にある多くの人はそう思うらしい。
辛い事や、苦しい事は、或いは死ぬ為の訓練なのかも知れませんね。
そう言えば、身体が悪いと聞きましたが、大丈夫でしょうか?
#2022[2015/05/27 13:23]  sado jo  URL 

データの消去がギフティアとしての死ですもんね。
人間の様に生命活動の停止ではなくても、
ボディ自体は残っても、記憶や人格が消えてしまうのは、
やっぱりその個体がいなくなると同じですし、
形は違うだけで死んでしまう事になりますし、何よりも別れるのは辛いものですね(><)
#2023[2015/05/27 20:30]  ツバサ  URL 

記憶が消える方も、それを見る方もつらいですね。
泣けてきました。
#2024[2015/05/27 20:39]  マウントエレファント  URL  [Edit]

Re: ツバサ様 COありがとうございます^^

> ボディ自体は残っても、記憶や人格が消えてしまうのは、
> やっぱりその個体がいなくなると同じですし、
> 形は違うだけで死んでしまう事になりますし、何よりも別れるのは辛いものですね(><)


寿命が来たギフティアは、全データを消去しないと、本能?のままに動く危険なロボットになってしまうと言う原作の設定ですからね~><
そこで、人間の手で安楽死させてやる…と言う辛い選択を迫られる事になります。
心を持つアンドロイドの悲劇…確か映画「ブレードランナー」でも観た様な気がします。
#2025[2015/05/27 21:10]  sado jo  URL 

Re: マウントエレファント様 COありがとうございます^^

> 記憶が消える方も、それを見る方もつらいですね。
> 泣けてきました。

アイラもツカサも終わりが近いのを知っててお互いを愛した。
逝く方も、残される方も辛いですよね…それは、いずれ全ての人に訪れる事です。
健気に死に赴くアイラの精一杯の心が伝わっていれば、書いた甲斐があります^^
#2026[2015/05/27 21:18]  sado jo  URL 














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