シムーン第二章 ~乙女達の祈り~

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シムーン第二章 ~乙女達の祈り~ 小説本編

乙女達の祈り 第1話 【散華】その1

simoun-34
嶺国の空母から礁国攻撃に飛び立つ古代シムーン

<二次創作/SF/ファンタジー/アクション>

『人は神の似姿だ』と言う話はにわかには信じ難い。なぜなら人は神の行いをなさず、なそうともしないからである。人は富を求め、力を求め、幸を得て神に近づこうとする。だが不思議な事に、人は、富や力を得ようとすればするほど、神からも幸からも遠ざかる。互いに争い、人と神の世界を壊そうとする。そのような人が神の似姿であるはずはない。いずくかの世界の聖人が言ったそうである「悩める者。貧しき者は幸いである」と…私の知るその少女は貧しき家に生まれ、様々な苦難と戦って、最後に高貴なる神の如き姿を示した。人の手で弔われる事もなく、荒れ野に打ち捨てられた少女は神に召され、彼女亡き後には、神の使いのような少女たちが次々と現れた。まさに神は人をもってその似姿を示し、真意を人に証し賜うたのだ。だから、私はこの書を、今は亡きシュヴィラ・マミーナに捧ぐ ~宮国大聖堂書記官 グラギエフ~

 到着予定時刻が大幅に狂った。その上、嵐の後の湿った風は彼を不愉快にさせた。
 嵐はようやく収まったが、まだ波は高くうねり、空には厚い雲が垂れ込めていた。
 ブルングム嶺国が誇るノルムンド艦隊の指揮官、バレイフェルドは、旗艦グレンデルの艦橋で顔の汗をぬぐいながら考えた。
(このまま作戦を遂行すべきだろうか。もう時計は正午を回ってしまっている…どうしたものか)
 様子を見かねた艦隊参謀がバレイフェルドに進言した。
「提督、到着が遅れた以上、日が暮れるまで待って、夜襲を仕掛けた方が無難かと思います」
「安全策かね。だが、今夜は晴れそうもない。暗がりで目標を打ち損なったら、何のためにわざわざここまで来たか分からんよ」
「しかし、せめて海が収まるのを待ってからの方が…」
「忘れちゃいかんぞ。ここは敵の領海内だ。グズグズしていたらいつ発見されるとも限らん」
 彼はこちらの置かれた状況を考えながら、敵の事情を推測した。 
(敵の輸送船は、嵐を避けて湾内に集結しているに違いない。高波が収まるまで荷揚げもできまい。むしろ攻撃するなら今の内だ!)
 バレイフェルドの判断は間違ってはいなかった。
 ことわっておくが、バレイフェルドは誰かが想像するような王族上がりの無能な将軍ではない。それどころか嶺国の古き伝統を受け継ぐ立派な海の男なのだ。
 長い冬に閉ざされる嶺国では、古くから食料などの物資を得るため、沿岸に住む男たちを中心に外洋遠征に出掛ける風習があった。
 大空陸のバイキングとも言える彼らは、一本マストの帆船に乗り組み、オールを漕いで、遠くはアルゲントゥム礁国南端まで航海し、交易や略奪を行った歴史を持っている。
 そんな伝統を誇りとする嶺国の中でも、王子は優秀な船乗りであり、卓越した艦隊指揮官でもあった。少なくともこの時点までは…
「ようし!攻撃開始だ。空母に伝達。ただちにシムーンに爆弾を搭載し、発艦準備に取り掛からせろ」
 戦闘開始の汽笛が鳴り響き、装甲戦艦グレンデルのメインマストには、高々と戦闘旗が掲げられた。
「全艦隊、風上に向かって回頭!最大戦速を保て!」バレイフェルドの命令が下った。
「機関全速、おも舵一杯!風上へ向かって前進。ようそろ~!」艦長の声が伝声管を通して艦内に響き渡った。。

 宮国を二つに割って礁国と争う嶺国は 日増しに増強される敵兵力の前に苦戦を強いられていた。
 そこで、嶺国が誇るノルムンド艦隊とシムーン隊を南方海域に派遣し、礁国最大の兵站拠点であるクロム傀市を攻撃して、敵の補給を封じる作戦に出た。
 プルンブム嶺国王の第三王子、アドミラル・バレイフェルドがじきじきに指揮を取るノルムンド艦隊は、装甲戦艦グレンデルを旗艦とした3隻の大型戦艦と6隻の重巡洋艦、シムーンの航空母艦として新たに建造された2隻の空母、アルヴァクとアルスヴィズを中心に、護衛の軽巡洋艦、多数の駆逐艦からなる総勢40隻以上の大艦隊だった。
 目標である礁国北部最大の工業都市・傀市は、山岳によって嶺国や宮国との国境を接する南の沿岸に位置し、多数の大型船が停泊できる港があり、古くは海峡を挟んだ貿易港としてにぎわった。
 その後、礁国北部でアリメンタが産出されるようになると工業化が進んだが、同時に大気や水などの環境汚染が深刻化した。
 現在は第一次シムーン戦争に伴って軍事基地が設けられ、港は軍港となり、渡洋攻撃の拠点として、また軍需物資の補給拠点として、礁国にとっては戦略上の重要な要衝となっている。
 作戦は、夜の間に傀市の沖合いまで進出したノルムンド艦隊が、夜明けと共にシムーン隊を発進させ、敵の軍事拠点を空爆、機能をマヒさせた後、軍港に近づいた艦隊が艦砲射撃を加え、敵の補給施設や軍需物資、港に停泊中の輸送船団を壊滅させると言うものだった。

 ハイデローゼは空母アルヴァクのシュヴィラ待機室で、ブリュムヒェンの介抱をしていた。
 妹のように可愛がっていたこの子は、あの嵐で船酔いしてしまっていたのた。
「うう~っ…気持ち悪~い」
「大丈夫?ブリュム」
「もうやだぁ~、こんなの…大きいお船は揺れないって聞いたのに~」
「仕方ないわ。ものすごい嵐だったもの」
「海はいやっ!早くお空を飛びたいよ~」
「もうちょっとしたら飛べるからね。それまで辛抱しよ」
「うん…ハイデ姉さん」
「私と一緒にデッキに出て風に当たってみる?少しは気分が良くなるわよ」
「うん…ブリュムそうする」
 ハイデローゼはブリュムヒェンの肩を支えて立ち上がった。
 その時、足元にグンと来る振動を感じた。船が速度を上げたのだ。
 続いてシュヴィラ待機室に集合合図のサイレンが鳴り響いた。
「シムーン・シュヴィラに告ぐ!シムーン・シュヴィラに告ぐ!全員出撃準備を整え、ただちに飛行甲板に集合せよ」
(来たっ!その時が…)ハイデローゼはブリュムヒェンの顔を見て言った。
「大丈夫、ブリュム。飛べそう?」
「うん、私飛べるよ。お空なら大丈夫」少しは元気が出たようだった。
 ハイデローゼはブリュムヒェンと別れて、すぐにパルのイリスと合流した。
「行くわよイリス!準備はできてる」
「うん、いつでもOKだよ。ハイデ」
 以前なら額にアムニスの印を描いて出発するところだが、今ではそれはない。戦争は迅速が肝心だからだ。
 飛行服もそれまでの巫女装束ではなく、活動に適した宮国式のボディスーツを着用するようになっていた。
 ハイデローゼとイリスは、一緒に階段を駆け上って飛行甲板まで出た。
 甲板には次々に少女たちが集まって来ていた。こんなに大勢のシムーン・シュヴィラが揃うのは始めての事だ。
 彼女たちの乗る古代シムーンの翼には、すでに大型爆弾が取り付けられ、甲板では大勢のフライトスタッフが慌しく発艦準備に取り掛かっていた。
 急いで全員の点呼を済ませたハイデローゼは、イリスと共にシムーンに搭乗して、キスを交わし、ついでシムーン宮に口づけした。
 ハイデローゼが前席のアウリーガで、イリスが後席でサジッタを務める。
 ハイデローゼは、アニムス大法院の第三位巫女・ロイテンであり、オーバスであるガルトルートが率いる6つのコールの一つ、ムントのレギーナだった。
 この戦いには、4人の上位巫女・オーバスが率いる24のコールが、空母アルヴァクとアルスヴィズに分乗して参加していた。
 嶺国の巫女団には階級があり、王さえ膝を屈する黄金の巫女・アウレアを頂点に、その下に上位の巫女・12神将が控える。
 その巫女はオーバスと呼ばれ、次のアウレア候補であると同時に、6コールのシムーン隊を率いる部隊長でもある。
 そして、第三位の巫女・ロイテンは、各コールのレギーナであり、オーバスに仕えている。
 奇妙なのは、アウレアと言う称号がシムラクルム語なのに、後の二つはブルングム語なのだ。
 多分、第一次シムーン戦争の時に、少女たちを兵士として再編成するために設けられた階級なのだろう。

「第一攻撃隊隊長、オーバス・ガルトルート。及びコール・ドラーゲン発艦!」
 ガルトルートが見事な離陸で、直属のコールを率いて空に舞い上がった。
 ハイデローゼにとって彼女はあこがれの人だ。いや、好きで好きでたまらない…と言った方がいいかも知れない。
「続いてコール・ムント、及びコール・エルダ発艦。各コールは離陸後、艦隊上空で待機中のオーバス・ガルトルートの指揮下に入れ!」
(さぁ!いよいよだ)ハイデローゼは操縦桿を握ると、スロットルを全開にして空母の甲板を蹴った。
 大型爆弾の重みで少しシムーンが傾いたが、サジッタのイリスが巧みな修正をして、すぐに水平に戻してくれた。
 マルギットとイルマ、クラリスとモーン、ナルテッセとカメリア、船酔いしていたブリュムヒェンも、コール・ムント全員が、無事に空母から飛び立った。
「みんな集まって~。ガルトルート隊長のコールと編隊を組むわよ」と、ハイデローゼが言うと「はい、ハイデ姉さん」と、ブリュムヒェンの明るい声が返って来た。
(空の上だとすっかり元気になっている。げんきんな子だなぁ…でも、とっても可愛い)ハイデローゼは笑った。
 下を見ると、空母アルヴァクとアルスヴィズから、次々とシムーンが舞い上がって来る。
 ハイデローゼはコール・ムントを連れて、艦隊上空で旋回中のガルトルートの編隊に加わった。
「ガルトルート隊長、コール・ムントです。指揮下に入ります。よろしくお願いします」
 ハイデローゼは、シムーン攻撃隊隊長ガルトルートの指示を仰いだ。
「あらハイデ、上がって来たのね。ムントは右上についてちょうだい。視界が悪いから気をつけてね」
「はい、了解しました」ハイデローゼたちは、ガルトルートの後ろに回り込んでから右上に出ようとした。
 その時だった。突然、前方の雲の切れ間をぬってシミレの編隊が現れたのだ。
「右前方30度、雲の間に敵機発見。礁国の高速シミレです。こちらに向かってきます」
「左後方80度、雲の上から高速シミレの編隊がやってきます。数およそ30」
「120度後方にも敵機の編隊。数は20、いや40.雲海から次々に出現して来ます」
 それはあっと言う間の出来事だった。
 ぶ厚い雲の中から湧き出るかのように次々と現れた敵のシミレは、シムーン隊とノルムンド艦隊に襲い掛かって来た。

 デッキの上で見張りの甲板員が叫んだ。
「敵襲!敵襲!」
(しまった!雲の中に隠れていたか。まさかこちらの作戦が読まれていたとは…)バレイ提督は、すぐに全艦隊に退避命令を出した。
「各艦、ただちに陣形を崩して回避運動に入れ!対空戦闘開始!」
 バレイの指令が伝わらない内に、轟音とともに空母アルスヴィズの甲板に火柱が吹き上がった。敵の爆弾が直撃したのだ。
 シムーンに乗って発艦を待っていた大勢の少女たちが、爆発に巻き込まれて死んだ。飛べないままに…
 四方八方からの突然の奇襲を受けて、ノルムンド艦隊は混乱してしまった。
「上空のシムーン隊に告ぐ。ただちに爆弾を捨てて敵機を攻撃せよ!このままではやられるぞ!」
 慌てふためいた艦隊付デュクスが無線で叫んだ。
「ばかもの!貴様は味方の頭上に爆弾を落とすつもりか」バレイ提督が叫んだ。
 とたんに艦橋の近くで爆発音が響いた。風防ガラスが割れて飛び散り、艦橋にあったあらゆる物が吹き飛んだ。
「殿下っ!バレイ殿下ぁ~!」艦隊参謀が叫んだ。
 嶺国王子・バレイフェルドは、すでに頭から血を流して倒れていた。

~続く~

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