シムーン第二章 ~乙女達の祈り~

随想/論文集

6000人の命を救った日本のシンドラー 「杉原千畝」

杉原千畝02 杉原千畝03
(←)欧州訪問時に、記念碑の前で杉原千畝を讃えられる天皇・皇后両陛下
(→)杉原千畝のミュージカルは、異色の「吉川晃司」と「中島みゆき」が演じた


これほどの偉大な日本人がいただろうか?人々がいがみ合い、憎しみ合う世の中だからこそ、なおさらその存在は輝く。
早稲田大学で外国語を習得した杉原は外務省に就職し、外交官としての出世コースである満州国のハルピンに赴任した。
彼は現地でロシア人の娘・クラウディアと結婚して新居を構え、外交官としての華々しい第一歩を踏み出したはずだった。
当時の満州国は様々な民族が暮らす国際地域で、体面上は独立国だが、実際は日本軍が全てを支配する日本の属国に過ぎなかった。
そこで杉原は、略奪・誘拐・麻薬売買・処刑…主義主張や金の為なら、あらゆる悪事を働く横暴な日本軍の実態を見る事になってしまった。
彼は日本軍に抗議し、その悪事を外務省に報告した。杉原が煙たくなった軍部は、妻のクラウディアにスパイの嫌疑を着せ、追放しようと企んだ。杉原は妻の身を案じて已む無く離婚し、財産の全てを彼女に渡して、無一文で満州を離れざるを得なくなった。
うん、男らしい!…後に満州外交官を辞めた理由を問われた杉原は、堂々とこう答えている。
「日本人は中国人に対してひどい扱いをしている。まったく同じ人間だと思っていない。それが、我慢出来なかったんだ」
全ての日本人が中国人や朝鮮人を侮蔑していた暗黒の時代…杉原の放ったこの一言に、彼の人間の全てが現れている。

無一文で帰国した杉原は、幸子夫人と再婚し、欧州に赴任…今度は出世コースから外れた北欧の辺境・リトアニアの領事代理だった。
当時のヨーロッパはナチズムの嵐が吹き荒れ、ナチスの迫害を逃れて脱出して来た大勢のユダヤ難民が北欧諸国に押し寄せていた。
ところが日本政府は、国際的な体面上はユダヤ難民の保護を唱えながら、裏では外交官に「見て見ぬ振りをせよ」と命令していた。
杉原のいたカウナスは、侵攻してくるドイツ軍とリトアニア併合を企むソ連軍の両方から狙われ、危機的な状況が迫っていた。
ヨーロッパから逃れて来た大勢の難民は、極東の日本の支配地域に行くしか道は無く、ソ連領内を通過するビザが必要だった。
だが、ユダヤ難民の願いを聞き入れてビザを発行すれば、日本政府の命令に背いた反逆者となってしまう。杉原は迷い苦しんだ。
寒い屋外で凍えながら夜を過ごす大勢の人々、飢えて路上をさまよう子供達、赤ん坊のミルクを求めて懸命に扉を叩く母親。
「領事の権限でビザを出したい。全てを失う事になっても、この人達を救いたい」決心した杉原は、幸子夫人にそう告げた。
「貧しさに飢えるよりも、人の道に外れて後悔する方が辛い」そう夫人は答えた。この夫にしてこの妻あり…夫人も偉大だった。
そして、杉原は不眠不休でビザを発行した。疲労で手が動かなくなっても、夫人にマッサージしてもらいながらビザを書き続けた。
こうして杉原千畝は、6000人に上るユダヤ難民の命を救った。彼の名は「センポ・スギハラ」として世界の人々に知られている。
だが日本政府は、そんな杉原を命令違反で公職追放にした。その後、杉原は一家と共に戦火のヨーロッパをさまよう事となった。
食べる為に、語学を生かして危険な諜報活動までやった。欧州での苦労は筆舌に尽くせぬものであり、妹や子供まで失っている。
戦争が終って、やっと日本に帰国したものの公職を追われた杉原には職が無く、進駐軍PXで働いたり、バーの支配人をしたと言う。

戦後、杉原に救われたユダヤ人達は杉原を探した。外務省に問い合わせたが「そんな外交官は存在しない」と冷たくあしらわれた。
彼らがようやく杉原を見つけた時、杉原は不遇の身だった。恩を返そうと各国に働き掛けて、杉原の業績を顕彰する様に努めた。
杉原は各国で認められ、教科書にも偉大な日本人としてその名が記載され、各国は杉原の名誉を回復する様日本政府に働きかけた。
だが、戦後の民主主義政府になってるにも拘らず「政府の命令に背いた人物だから」と言う理由で取り合わなかったそうである。
前述した様に、私は以前から杉原を知り、日本政府と海外とのそうしたやりとりを見て来た。そして、完全に日本政府に失望した。
この国の政府は、大戦前の政府と体質が全然変っていない。日本政府には本物の「人道」や「人権」と言う概念は存在しないのだ。
スピルバーグの映画「シンドラーのリスト」が世界的大ヒットを記録し、合わせて杉原の名が世界で大きく叫ばれる様になった2000年、
日本政府はようやく杉原の家族に謝罪した。だが、その時はすでに杉原は故人になっていたのだ。遅すぎるにもほどがある!
杉原千畝は、近代日本における最も偉大な日本人だ…諸国の教科書に載り、外国人でありながら切手や貨幣に肖像が描かれている。
悪しき大日本帝国と決別できずに、未だに過去の栄光を追い求めてたわ言を言う政治家や、一部の右傾化した日本人がいたりする。
だが、杉原千畝は、大日本帝国の時代を生きた官僚でありながら、大日本帝国と決別し、人間を見つめていた本物の日本人だった。
あの暗黒の時代に、杉原の様な日本人がいた事こそが、現代に生きる日本人の誇りである…何と偉大な日本人だった事だろうか。
杉原は、自らの行動をもって日本人に人の道を示し、ユダヤ人ばかりか、全ての日本人を「野蛮な日本人」と言う汚名から救った。
どうか心ある日本人は、杉原千畝が切り開いた「人」の道を歩んで欲しいと切に願う。それこそが世界を開く道なのだから…


映画「杉原千畝」~スギハラチウネ~ 12月5日公開予告

日本のみならず、世界中に悪しきナショナリズムがはびこり、戦前の様な殺伐とした時代を迎えようとしている。
誰もが、自分と自分の国家、自分の民族、自分の宗教、自分の主義主張のエゴに染まってゆき、命の重さを省みようとしない。
そんな世相だから、そんな時代だからこそ、本物の人間の姿を、人間の良心を、その生き様を心に焼き付けて欲しいと思います。

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<杉原千畝の光と影>
実は、杉原千畝はその語学力を買われて、各国の情報を収集する為に、外交官と言う肩書きを持って暗躍した諜報員でもあった。
当時の大日本帝国が掲げていた理想を信じ、戦後の東京裁判で、A級戦犯として処刑された広田弘毅首相を深く尊敬すらしていた。
皆が平等に暮らせる理想の共和国を信じて満州に渡り、日本軍の暴虐と、日本人は主人、他民族は家畜の実態を目の当たりにした。
それでも、国家を信じ「アジアを欧米の植民地から開放する」理想に燃えて、ヨーロッパ各地で国家の為に諜報活動を行なった。
だが、国家が杉原に命じたのは、理想どころか「ユダヤ人を見捨てよ」だった。そして、ユダヤ人を救った彼も国家に見捨てられた。
杉原は、当時を生きた多くの青年がそうだった様に、国家を信じ、国家の大義や理想を信じ、挙句の果て国家に騙されたのだった。
大日本帝国に手を貸した官僚としての杉原は、悪人だったかも知れない。それでも、多くの人々の命を救った杉原は偉大だった。
今の日本には、国家を信じ、政治家の言う事を正しい大義であると信じて、理想に燃えて活動している若者達が大勢いる様である。
宗教なら「信じる者は救われる」かも知れないが、国家や政治家を信じる者は救われない!裏切られた経験者として断言して置く。
当時の杉原千畝にこんな事を言ったら、国家の裏切り者として憲兵に突き出されるかも知れないなァ…だが、事実である(笑)


2005年日本TVスペシャル:日本のシンドラー「杉原千畝物語 ~六千人の命のビザ~」(全編ご覧になれます)
 
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~ Comment ~


<杉原千畝追放劇 : 日本政府の内幕>

実は日本政府にとっては、6000人の命などはどうでもよかった。ドイツへの体面が第一だった。
そこで表向きは杉原を命令違反で追放処分にし、裏では欧州に留まらせて諜報活動をさせた。
彼は5カ国語を操り、聞いた事を詳細に記憶する才能を持つ国家にとって都合のいい官僚だった。
実際、満州軍部とは衝突したが、当地から杉原が齎した情報を、外務省は高く評価しています。
が、戦後の米国主導の日本政府にとって、彼は余りにも裏の極秘情報を知る邪魔な人間だった。
それで、杉原を外務省から追放した。外交官の守秘義務もあり、彼は国家に闇に葬られても、一生極秘情報を明かさなかった。いかにも日本人らしい官僚と言える。
(一部の極秘情報は、後に幸子夫人によって手記で明かされました)
官僚は国家の手駒に過ぎません。今も昔も、例え理不尽でも政府の命令に従う義務があります。
そんな国家に翻弄されながらも、人間として6000人の命を救った事が偉大なのだと思います。
政治は駆け引きです。綺麗な政治などは無い!杉原は穢れた泥の中に咲いた一輪の花でした。
今の政府の官僚の中に、彼の様に人を大切にする人間は果たしているのだろうか?
#2981[2015/11/07 00:33]  sado jo  URL  [Edit]

こんにちは^^

誰かを救うのにその気持ちをためらってはいけないんですよ。
住んでるところが違うだけで同じ人間なんだから
当然すぎて言うまでもないけどいがみ合うより助け合うことのほうが大事。
それに比べて政治家なんて自分が存在し続けるエゴで動いてるし
安倍ちゃんもいつまで残る気でいるのかな(笑)。
#2982[2015/11/07 11:24]  西條すみれ  URL 

Re: すみれ様COありがとうございます^^

> 誰かを救うのにその気持ちをためらってはいけないんですよ。
> 住んでるところが違うだけで同じ人間なんだから
> それに比べて政治家なんて自分が存在し続けるエゴで動いてるし

政治の世界にいる人間に、綺麗な人はただの一人もいません。現実に見て来てます。
善い事をして怒られる。悪い事をして褒められる。世間とは逆の論理が働いています。
政治家や官僚は基本的に悪人です。悪人でないと、政治の世界で生きていけません。
だから国民は、常に政治家や官僚を監視しなければならない。油断すると酷い目に遭う。
その汚れた政治の中枢にいながら、杉原千畝は人の心を持ってた。そこが偉大なんです。
#2983[2015/11/07 11:48]  sado jo  URL  [Edit]

英語が話せるだけではない、こういう人こそ、真の国際人なんでしょうね。
#2984[2015/11/07 16:58]  マウントエレファント  URL  [Edit]

Re: マウントエレファント様COありがとうございます^^

> 英語が話せるだけではない、こういう人こそ、真の国際人なんでしょうね。

世界の人を差別無く平等に見れる…杉原千畝のその才能が偉大な業績を生んだと思います。
偉大な人です…ただ、語学力と類稀な記憶力を、国家の政略に利用されたのは悲劇でした。
彼の業績は国家によって闇に葬られましたが、死後、世界に認められて一層輝いています。
杉原千畝は、これからの未来を生きる日本人の鏡になる人物だと思いますよ^^
#2985[2015/11/07 17:25]  sado jo  URL  [Edit]

国家の利益と人として良き行いは時として相反するものですが、
相反するからと言って、
実際のやった良き行いが悪くなるという事もないですしね(´∀`)
#2986[2015/11/07 22:14]  ツバサ  URL 

Re: ツバサ様COありがとうございます^^

> 国家の利益と人として良き行いは時として相反するものですが、
> 相反するからと言って、
> 実際のやった良き行いが悪くなるという事もないですしね(´∀`)

日本国家を裏切り、ユダヤ人を救えばナチスにも狙われる事になる。
当時の状況を考えれば命がけだったと思います…勇気ある行動を讃えたいです。
家庭も危なくなるのに、夫を支えた幸子婦人も立派でした^^
#2987[2015/11/08 01:09]  sado jo  URL 

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#2992[2015/11/10 17:40]     

Re: COありがとうございます^^

国民挙げて右傾化していた、暗黒の大日本帝国時代。
「杉原千畝」の様な正常な日本人がいた事こそが、日本の誇りだと思います。
いかなる時代であっても、自由と人権、何よりも人命は守らなければなりません。
杉原千畝は政府の官僚でありながら、普遍の正義を貫いた偉大な人間だと思います。
#2994[2015/11/10 21:32]  sado jo  URL 

こんにちは🎶

こちらのサイト…「杉原千畝」さんの件で、リンクさせて頂きました。
歴史好きな家人、歴史を知らない私ですが、
この話題で、盛り上りました(*^-^*)。
表に出てこない埋もれた英雄が沢山いらっしゃいますね。
ありがとうございます。
#2998[2015/11/11 11:57]  kanmo  URL  [Edit]

Re: kanmo様COありがとうございます^^

> こちらのサイト…「杉原千畝」さんの件で、リンクさせて頂きました。
> 表に出てこない埋もれた英雄が沢山いらっしゃいますね。

「杉原千畝」は日本人から見れば、国家の命令に従わなかった裏切り者。
だが、世界から見れば大勢の命を救った偉大な英雄…日本人の了見は何と狭い事か(笑)
どんな状況でも 「人として人であれ」 それが世界の標準たる人間の条件です。
リンクありがとうございました^^
#2999[2015/11/11 13:51]  sado jo  URL 














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