シムーン第二章 ~乙女達の祈り~

「▼やさしい刑事」
やさしい刑事 小説本編

やさしい刑事 第2話 少年と宇宙人 (1)

宇宙人

<オリジナル/ファンタジー/ミステリー>

 衛里病院の院長宅では、捜査官たちが緊張した面持ちで電話に張り付いていた。
 昨日、院長の幼い長男が誘拐され、犯人から身代金を要求する電話が掛かって来ていたのだ。
「奥さん。お気持ちは分かりますが…もう少し落ち着いて下さい」
 電話の前で、何も手につかずにおろおろしている院長の妻にヤマさんは言った。
「でも、信二の身に何かあったらと思うと…私、生きている心地がしなくって」
「大丈夫ですよ。犯人は金が目当てだ。金が手に入るまで、信二君には何もしませんよ」
「でも、そう言われても…」
「あぁ~、済みません。刑事さん…妻は去年、上の女の子を失くしたばっかりで」
 衛里院長が、ひどく動揺している妻をかばうようにそう言った。
「あ、そうだったんですか~…そりゃぁ、失礼いたしました」
「とっても、弟思いのいい子だったんですけどね。去年、急性白血病で…あの時ほど、医者の無力さを感じた事はありませんでした」
 そう言いながら、院長はサイドボードの上に飾られている写真に目をやった。
 そこには、大きなぬいぐるみを抱いた信二君と、亡くなった姉の杏子ちゃんが、仲良く並んで笑っている写真が飾られていた。
「そうとは知らずに申し訳ない。信二君は、たった一人残されたお子さんなんですね~」
「杏子は信二とは歳が離れてましてね。まるで自分の子供のように可愛がっていました」
「えぇ、よく分かりますよ。世話を焼きたくなるんでしょうね~。女の子は…信二君はぬいぐるみを抱いてますね」
「おと年の祭りの縁日でね。杏子が自分の小遣いで、信二にあのぬいぐるみを買ってやったんですよ。自分の欲しい物も買わずに」
「やさしい姉だったんですね~…ありゃぁ、何かの動物ですか?」
「いぇ、宇宙人です。信二は小さい頃から宇宙人が好きでね…『宇宙人はいる』って信じて疑わないんですよ」
「よく分かりますよ。子供は純粋ですからねぇ~」
「そんな純粋な弟が好きだったでしょうねぇ~。杏子は…あれから信二は、片時もぬいぐるみを手放しません」
「そうですか~。それはお気の毒でしたねぇ…」
「信二は最後の最後まで、杏子にしがみ付いて離れませんでした。『お姉ちゃん、死なないで!僕、ひとりぼっちになったら怖いよ~』って…」
「うん、うん。可哀そうにねぇ~」
「そしたらね。『大丈夫!信二が危なくなったら宇宙人に変身して助けるから…約束するよ』って…それが杏子の最後の言葉でした」
 そう言うと、院長は顔を伏せて目頭を指で押さえた。

 それからしばらくして、院長宅の居間に電話のベルが鳴り響いた。
 院長の妻は、震える手で受話器を取り上げ、捜査官たちは傍聴器のスイッチを入れた。
 受話器の向こうからは、犯人が身代金を要求する声が聞こえて来た。
「あっ!はい。お前一人でタクシーに乗って…はいっ!稲荷神社まで…5000万円ですね。あの~…信二は無事なんですか?」
「ホシからの要求だな。発信源は特定できそうか?」
 ヤマさんは電話を傍受していた平野刑事の耳元でささやいた。
「しっ!ヤマさん。ホシが電話口に信二君を出します」平野刑事がそれを制して言った。
「信二っ!大丈夫なの?怪我してない?…お母さん、すぐにお金を用意して行くからね」
 院長の妻は、電話の向こう側にいる信二君に懸命に呼び掛けていた。
「切れました」平野刑事がそう言った。
「どうだ!発信源は探知できたか?」ヤマさんは尋ねた。
「こりゃあ、携帯電話じゃないですね~…ヤマさん。多分、公衆か何かから掛けて来てますよ」
「今どき公衆か~…手の込んだ事をするやつだな」
「取りあえず、ホシの要求に従うしかなさそうですね~」
「そうだな。だが、黙って従う手もない。こっちにも考えがあるさ」
 そう言いながら、ヤマさんは顔を上げて宙を見つめた。

 衛里病院の院長宅から、身代金の入った鞄を抱えて出て来たのは、婦警の大鳥刑事だった。
 ホシが知能犯だと睨んだヤマさんは、院長の妻と背格好がよく似た婦人刑事とすり替えたのだった。
 しかも、大鳥刑事にはどんな事態にも対応できるように、GPS発信機の付いた携帯電話を持たせていた。
 衛里院長の自宅前でタクシーに乗った大鳥刑事は、身代金の受け渡し場所である稲荷神社に向かった。
 ヤマさんは、犯人に気づかれないように、充分な距離をとってタクシーを追跡した。
 ところが、もう少しで稲荷神社に差し掛かると言う手前で、タクシーは突然方角を変えた。
 GPS発信機から送られて来るナビゲーターを見ていた主任刑事は、急いで大鳥刑事の携帯に電話を掛けた。
「どうした?大鳥刑事。方角が違うぞ!」
「タクシー無線がジャックされました。ホシはS駅で、東行きのT線に乗れと指示しています」
 大鳥刑事の報告を聞いて、ヤマさんと一緒にタクシーを追跡していた平野刑事が言った。
「やはりか~…ホシは一筋縄ではいかないようですね」
「分かった。ホシの指示に従え。後は何とかする」ヤマさんは大鳥刑事にそう伝えた。
「ヤマさん。私らも電車に乗りましょうか?」と、平野刑事が尋ねてきた。
「いや、その必要はない。ホシの意図はだいたい分かった」と、ヤマさんは答えた。
「でも、電車の中で身代金の受け渡しをされたら…」
「いや、ホシは電車には乗っていない。逃げ場のない車内で金の受け渡しはせんだろう」
「じゃぁ?」
「東行きのT腺は、C駅で他社と相互乗り入れになる。そのために、C駅の手前で若干の信号待ちをするはずだ」
「あ!ホシはその隙を狙って、身代金を受け取ろうって寸法ですか?」
「所轄署に手配して、C駅の手前に張り込みを依頼しろ。すぐにだ!」
「了解しました。ヤマさん」
 平野刑事は、即座に警察無線を使って、C駅を管轄する警察署に連絡を入れた。

 ヤマさんの読み通り、大鳥刑事の乗った電車は、C駅の手前で信号待ちのために一時停車した。
「ホシからの電話です。電車のデッキから身代金を入れた鞄を投げろと」大鳥刑事がそう報告して来た。
「言う通りにしろ。もう所轄署の刑事を張り込ませてある」ヤマさんは、大鳥刑事に指示した。
「はい」大鳥刑事は電車のデッキに出て、鞄を線路脇の田んぼに投げた。
「来ましたね~…ヤマさん。ぴったりの勘です!どうしてそんなに勘が働くんですか?」
「まぁな…それは内緒だ」ヤマさんはそう言ってとぼけた

 ヤマさんは平野刑事と共に、大鳥刑事が身代金の入った鞄を投げた現場へと車を走らせた。
 ところが郊外の外れの田舎道で、前の方からやって来たタクシーとすれ違った。
 タクシーはかなりスピードを上げて飛ばしていたので、車を路肩に避けなければならなかった。
「随分、乱暴な運転をするやつだなぁ~」平野刑事が怒ったように言った
「ん…今のタクシーなぁ~」少し小首を傾げながら、ヤマさんは言った。
「はぁ…タクシーがどうかしましたか?」
「いや、何でもない。俺の勘違いのようだ」
 ヤマさんにはピンとくるものがあったが、平野刑事にはそう言ってはぐらかした。

~続く~

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~ Comment ~


このシリーズ待ってました!

拝見させてもらいましたが、早く続きが読みたくなりますねw(^ω^)
なんとなく、ヤマさんの勘が、働くあたりにヒントが隠されているような気がするんですが、正直今後の展開がまったく予想できませんw

次回に期待してます↑↑

#50[2014/02/16 20:07]  gaean  URL 

Re: ファンになっていただきありがとうございます^^

でも、期待していただく様な結末にはならないかも知れませんよ。ヤマさんは事件を解決しない(真相は明かさない)刑事ですから…(笑)
#51[2014/02/17 00:03]  佐渡 譲(じょう)  URL  [Edit]

お姉ちゃんの怨念かUFOが手を差し伸べてくれたのか・・・。
刑事の優しい沈黙はいいですね。
コロンボも時には優しい応対をします。
実は私、UFOを二度目撃しているんです。
#87[2014/03/24 06:44]  エリアンダー  URL 

Re: 私は水子にお乳をやる母の亡霊を見た事があります

> 実は私、UFOを二度目撃しているんです。

小さな光が周りに集う大きな淡い光で、後である方に「それは母犬の霊」だと言われました。
思い出したのを良い機会に、小説にしようと思います。
UFOは残念ながら見た事ないですね~…ぜひ一度見てみたいです^^
良い小説のネタになると思います(笑)
#88[2014/03/24 19:37]  sado jo  URL  [Edit]














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