シムーン第二章 ~乙女達の祈り~

「▼やさしい刑事」
やさしい刑事 小説本編

やさしい刑事 第2話 少年と宇宙人 (2)

空と雲

 ヤマさんと平野刑事が現場に着くと、どうやら所轄署の刑事がすでに容疑者を逮捕したらしく、報告にやって来た。
「あぁ、本庁の刑事さん。ご苦労様です。たった今犯人を検挙しました」
 見ると、一人の農夫らしい男が手錠を掛けられたまま、懸命に刑事たちに無実を訴えている。
「俺は誘拐犯じゃないってば~!田んぼを見に来たら鞄が置いてあったから、それで…」
 どうやら張り込んでいた刑事たちは、完全に人違いの人物を捕まえたらしかった。
 さすがに勘の鋭いヤマさんも、土壇場の番狂わせまでは読む事ができなかった。
 多分、犯人は張り込んでいた所轄所の刑事に農夫が逮捕されたのを見て、あわてて逃げ出したのだろう。
 身の危険を感じたのか?それっきり犯人からの音信は途絶えた。

 誘拐事件の場合、時間が経てば経つほど、人質の命は危険になる。『信二君誘拐事件捜査班』の焦りは募った。
 ところが、信二君誘拐事件は意外な急展開を見せた。
 港町付近を巡回パトロールしていた巡査から、目撃情報が入ったのだ。
「目撃情報が入りました。港町付近で、ぬいぐるみを抱いた子供連れの男を見掛けたと…」
「何っ!それは本当か?」
 八方ふさがりになっていた捜査班は、その報告を受けて色めき立った。
「それが、職務質問しようとしたらしいんですが、旧倉庫街付近で見失ったと…」
「よしっ!みんな行くぞ~」ヤマさんの指示が、捜査室に詰めていた捜査官たちに飛んだ。
 応援の警官も含め、捜査班は全員でパトカーに分乗して、港町に向かった。

 港町は新旧二つに分かれ、小さな方の旧港には、古い倉庫が立ち並んでいる。
 新しい大きな港ができてから、この小さな港の倉庫は、あまり使われなくなっているらしかった。
「目撃情報があったのはこの辺りですね~」目撃報告を受けた刑事が言った。
「手分けして探せ。特にタクシーを見掛けたら、すぐに俺に連絡しろ!」
 ヤマさんが全員にそう指示すると、平野刑事が怪訝そうに尋ねて来た。
「タクシーですかぁ~?」
「地理に詳しくって、電車の運行状況にも通じ、タクシー無線をジャックする知識がある、そんな職業は何だ?」
「あっ!タクシー業界の関係者…なるほどぉ」
 ヤマさんにそう言われて、平野刑事はようやく納得した。

 捜査官たちと応援の警察官は、全員でしらみつぶしに旧倉庫街を捜索した。
 しばらく経ってから、ヤマさんの警察無線には、捜査官からの報告が入って来た。
「倉庫の側でタクシーを見つけました!傍に信二君がいました!ぬいぐるみを抱いて…今、無事保護しました」
「そうか、信二君が無事で良かった~…で、ホシは?」
「それがえらい事になっています。すぐに来て下さい」
 ヤマさんと平野刑事は、ただちに信二君が保護された倉庫の前に駆けつけた。
 子供がやっと通れるほど開いた倉庫の鉄の扉の向こうからは、男のわめき声が聞こえていた。
 ヤマさんは倉庫の扉を開けようとしたが、重い鉄の扉はピクリとも動かなかった。
「みんな手を貸せっ!しっかし、重いなぁ~…この扉」
 刑事たちが開けようとしている扉に掛かっていたはずの錠は、バールで捻じ曲げられたように歪んでいた。
「錠が捻じ曲げられてますねぇ~…何かものすごい力で捻ったみたいだ」平野刑事が言った。
 やっとの思いで鉄の扉を開けて倉庫の中に入った捜査官たちは、目の前に信じられない光景を見た。
「なんじゃ!ありゃぁ~?」
 倉庫の中に入った刑事たちは、あっけに取られたまま上を見上げた。
「バッ・ケッ・モッ・ノッ・ガァ~!ばけものがぁ~!…助けてくれ~ぇ!」
 一人の男が、天井からクレーンに吊るされて、手足をバタつかせながら、何やら訳の分からない事を喚いていたのだ。
「あぁ、大人しく逮捕されりゃぁ~、助けてやるよ」ヤマさんは、吊るされている男に言った。
「分かった、分かった。何でも言う事を聞くから、早く降ろしてくれぇ~!」
 すっかり何かに怯えきってしまっていた誘拐犯は、こうして無抵抗のまま逮捕された。

 母親に連れられ、ぬいぐるみを抱いて警察署にやって来た信二君に、刑事たちは手を焼いていた。
 今回の誘拐事件の事情聴取が、一向に進みそうもなかったからだ。
「ねぇ、信二君…誰が君を倉庫の中から助けてくれたのかな?」事情聴取担当の刑事が尋ねた。
「宇宙人だよ」信二君は、事もなげに答えた。
「鉄の錠を壊したのも?重い扉を開けてくれたのも?」
「そうだよ。全部宇宙人がしてくれたんだよ」
「じゃ、閉じ込められていた君を助けてくれたのは宇宙人なのかな?犯人の他に人はいなかったのかな?」
「だから、宇宙人だってばぁ~…宇宙人が僕を助けてくれたんだよ」
 担当刑事と信二君のやり取りを聞いていた平野刑事は、部屋に入って来たヤマさんに言った。
「さっきから、ず~っとあの調子なんですよ。ヤマさん」
「あの調子って…何をシケタ面してんだよ、平野刑事」
「だって、子供に鉄の錠が曲げられますか?重い倉庫の扉を開けられますか?絶対に誰かがいたに違いない!」
 小さな子供が、どうやって頑丈な倉庫の錠を壊して、外に逃げられたのか?
 どうして、犯人がクレーンで宙吊りになっていたのか?…捜査官たちは誰もが首をひねっていた。

 ヤマさんはニコニコしながら少年の傍らに行って、彼の目線と同じ高さにしゃがみこんだ。
 少年は、自分の言う事を分かってもらおうと、一生懸命にヤマさんに訴えた。
「宇宙人が助けてくれたんだ。ねぇ、おじさん。宇宙人はいるんだよ…本当だよ」
「あぁ…宇宙人はいるよ。君を助けてくれたんだから…」
 そう言ってヤマさんは、少年が抱いていた宇宙人のぬいぐるみの頭をなでてやった。
 それから心の中でこうつぶやいた。(ちゃんと約束を守ったんだよな…お姉ちゃん)
 どうせ、誰にも事の真相は理解できないだろう…ならいっそ、本当の事は言わない方がいい。
 それがヤマさんにできる せめてものやさしさだった。
「ヤマさん。どうやって調書をまとめりゃいんですか~?」
 平野刑事が、困り果てたような顔をしてヤマさんに聞いて来た。
「信二君の言った通りに書いときゃいいだろ」ヤマさんはそっけなく言った。
「宇宙人が誘拐犯をやっつけて、子供を救出したって…ですか?」
「ありのままの事実を、ありのままに明らかにするのが刑事の仕事だろ」
「そんな~、上に怒鳴られますよ~…お前、ふざけてるのかって」
「なら、お前さんが助けた事にすりゃぁいい。そうすりゃ、警視総監賞ものだな…出世できるぞ~、平野刑事」
 そう言うとヤマさんは、情けない顔をして突っ立ている平野刑事を残して、笑いながら部屋を出て行った。
「ちょっと、ちょっと、ヤマさんってば~…もう~」
 困り果てた平野刑事の声が、その後を追いかけて来た。

 平野刑事に知らん振りをして、警察署の庭に出たヤマさんは、上着のポケットからゴソゴソとタバコを取り出した。
 そして、くしゃくしゃになったタバコに火をつけて、うまそうに一服吸った。
(大人には世界の半分も真実が見えちゃぁいない。純粋な子供には全部が見えているんだろうな~)
 そうつぶやきながらヤマさんが見上げた空には、ぽっかりと白い雲が浮かんでいた。

やさしい刑事 第二話 少年と宇宙人 (完)

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後編、拝見させてもらいました。

今回は意外な展開でしたねw
こういうファンタジーな要素のあるお話好きです(*´∀`)

信二君が大きくなったら、宇宙人の正体に気づくんでしょうか??
お姉ちゃんとの約束を思い出して…

心温まる素敵な物語でした↑↑
#52[2014/02/19 18:26]  gaean  URL 

Re:いつもありがとうございます^^

実は、作者は最初に姉の正体を明かしてました。衛里杏子(エイリアン・子)
一話の「蜃気楼の町」も同様です。少年は、鞍出隆宣(アンデルセン)少女は、シレーナ・ドゥーシャ(人魚姫の魂)でした。
作者はこんな言葉のパズルが好きです(笑)それが物語を解く鍵になるかも知れませんね^^
#53[2014/02/19 19:39]  佐渡 譲(じょう)  URL  [Edit]














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