シムーン第二章 ~乙女達の祈り~

「▼クロニクル ~カルマ~」
クロニクル ~カルマ~ 小説本編

クロニクル ~カルマ~ 第6話 「嘆きのクローン」 (6)

臓器移植

 それからの母は、どんどん身体が弱っていって、ベッドで寝ている時間が多くなった。
 とうとう家事もマトモにできなくなり、私が母の代りに家事をしながら、母を介護する事になった。
 そんな生活が続いていたある日、また白衣を着た数人の男たちが、私たちの所にやって来た。
 それを見た母は、何かを覚悟した様にじっと私を見て、ベッドの脇にある机を指差して言った。
「ねぇ、ルーシー…今まで世話を掛けたわね。もし私が帰って来なかったら、机の引き出しにある手紙を見て頂戴ね」
 母は、私にそう言い残すと車椅子に乗せられて、白衣の男たちと一緒に部屋を出て行った。
 私が母を見たのはそれが最期だった。それっきり、母は帰っては来なかった。
 私は母に言われた通り、机の引き出しを開けて、中に置かれていた母の手紙を読んだ。
 その手紙にはこう書かれてあった。

「愛しいルーシー…私はもうあなたを抱きしめてあげる事ができません。独りぼっちになってしまったあなたは、もう用済みとなって、飼い主に棄てられた犬や猫のように殺処分される運命にあります。あなたの尻尾の模様は、人間が植え付けた廃棄処分の印なのです。だからすぐに施設から逃げて!」

 そう言えば、母の尻尾はカラフルなまだら模様なのに、なぜか?私のは黒と白のシンプルな縞模様だった。
 何で母から生まれたのに、尻尾の模様が違うんだろう?といつも不思議に思っていたが、やっとその意味が飲み込めた。
 それは、ナチスの強制収容所で殺処分されたユダヤ人たちが着ていた囚人服の模様と同じ意味が込められていたのだった。

「あなたがこの手紙を読む時、私はあなたのお父さんと同じように、身体から心臓を抜き取られて、もうこの世にはいないでしょう。でも、あなたはどんな事があっても生きていて欲しい…あなたがそこから逃げられるように、部屋の隅にトンネルを掘って、カーペットで隠しておきました。この手紙を読んだらすぐに逃げなさい!そして、どんなに苦しくても辛くても、一生懸命生き抜いて… ~私の愛しいルーシーへ : 母より~」

 私は部屋の隅まで行って、カーペットをめくり上げた。そこには小さなトンネルが掘ってあった。
 母は、私を逃がすために、あんなに弱り切った身体に鞭打って、少しづつトンネルを掘ってくれていたのだ。
 私が寝ている間に、私の知らない間に掘ったのだろう…どんなに苦しかった事か、どんなに辛かった事だろうか。
 私は涙があふれ出てきて止まらなくなった。でも、いつまでも悲しんでぐずぐずしてはいられなかった。
 私はすぐに母が掘ってくれたトンネルを通って、矯正施設の外に逃げ出した。
 懸命に町の中を駆け抜けて、グロウ湖に跳び込み、ひたすら泳いで向こう岸までたどり着いた。
 すぐに、私が町から逃げた事に気付いたらしく、パトカーがあっちこっち走り回って私を探していた。
 パトカーに見つからないように、夜は茂みの中でコヨーテに怯えながら眠った。
 生きるために、飢えを凌ぐために、食べられる物なら、木の根でも虫でも何でも食べた。
 寒かった…ひもじかった…苦しかった…辛かった。

~続く~

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~ Comment ~


保健所の犬猫殺処分も残酷ですね。
人間だけの都合でそれ以外何の意味もなく殺されていく。
とはいえもともと飼われていたのが野良でやっていけるのかはともかく
生きていたいのは人も動物も変わらないというのに。
#3375[2016/01/12 10:30]  西條すみれ  URL 

Re: すみれ様COありがとうございます^^

> 保健所の犬猫殺処分も残酷ですね。
> 人間だけの都合でそれ以外何の意味もなく殺されていく。
> 生きていたいのは人も動物も変わらないというのに。

保健所のペットの殺処分は残酷ですよね~><
人間の都合で生き物の命をもてあそぶ…それが法律では正当な行為とされている。
人は何様なんでしょうか?…もし、それが正しいなら人は皆、罪人だと思いますよ。
危険なチェリー君は元気ですか?(笑)
#3376[2016/01/12 11:48]  sado jo  URL 

悪魔の飽食を連想させますね。
旧日本陸軍防疫研究所の悪行、捕虜や民間人を「丸太」と称して人体実験をした石井四郎軍医中将以下、当時の将校たちは一人も戦争犯罪に問われていません。
それどころか米国に人体実験の記録を提出し先般逃れをしただけでなく、のちにミドリ十字製薬を創業し、あろうことか薬害エイズを起こした連中たちと同じ精神構造でしょう。
この小説は、ナチスの残虐行為に負けない、悍ましさとどこか共通点があるのではないでしょうか。
#3377[2016/01/12 18:36]  まり姫  URL  [Edit]

Re: まり姫様COありがとうございます^^

> 旧日本陸軍防疫研究所の悪行、捕虜や民間人を「丸太」と称して人体実験をした石井四郎軍医中将以下、当時の将校たちは一人も戦争犯罪に問われていません。
> この小説は、ナチスの残虐行為に負けない、悍ましさとどこか共通点があるのではないでしょうか。

人間を人体実験に使った日本軍「731部隊」の残虐非道な行為は許されざるものです。
それを承認した国家も断じて許せない!あの時代の日本は「悪の帝国」だったと断言します。
最近、全ての人道も人命も踏みにじった悪人達の子孫が、またまた何かを企んでいますね。
心ある日本人が止めなければ、再び全ての日本人が罪悪を背負う事になってしまいます><
#3378[2016/01/12 18:56]  sado jo  URL 

これは切ない。
人間の心をもっているのに酷いですね。
#3379[2016/01/12 19:54]  マウントエレファント  URL  [Edit]

だからこの施設から逃げ出せたんですね。
母の愛情を感じつつも、
これは一人で逃げ出すしかないですもんね(><)
#3380[2016/01/12 20:18]  ツバサ  URL 

Re: マウントエレファント様COありがとうございます^^

> これは切ない。
> 人間の心をもっているのに酷いですね。

自らの欲望を遂げる為に、他者の命を平気で奪う!!
まさに人間の邪悪さがそこにあり、それは最大の罪でもあります。
今、世界で行われている戦争や迫害は、真剣に問われなくれはなりません。
#3381[2016/01/12 22:21]  sado jo  URL 

Re: ツバサ様COありがとうございます^^

> だからこの施設から逃げ出せたんですね。
> 母の愛情を感じつつも、これは一人で逃げ出すしかないですもんね(><)

どんなに自分の身体を犠牲にしてでも、我が子が生きる事を願う。
海より深い母の愛ですね~…書いている作者自身が涙が出ましたよ(笑)
おかぁさ~ん!…そう叫んで死んで行った特攻兵もたくさんいたっけなぁ~
#3382[2016/01/12 22:27]  sado jo  URL 

こんばんは!

心臓を取られてはどうしようもない。

母は最期を知っていて、ルーシーのために一生懸命に
掘った穴。書いた手紙。
母の愛をしっかり受け止めたルーシー。
そうして、祖父との出会いが待っているのですね~
生きる為には食べないと!そうなると人はなんだって食べれるのですね。
#3383[2016/01/13 01:57]  ミノリ  URL  [Edit]

Re: ミノリ様COありがとうございます^^

> 母は最期を知っていて、ルーシーのために一生懸命に掘った穴。書いた手紙。
> 生きる為には食べないと!そうなると人はなんだって食べれるのですね。

さすがにこのシーンを書いた時は、我ながら泣けました。
母の深い愛と子供の苦難…映画にしたら最もグッ!と来る一幕でしょうね。
人間でも生きるのは大変…まして差別されるクローンの辛さが滲み出てます。
#3384[2016/01/13 09:35]  sado jo  URL 














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