シムーン第二章 ~乙女達の祈り~

「▼地球年代記 ~カルマ~」
地球年代記 ~カルマ~ 小説本編

地球年代記 ~カルマ~ 第6話 「嘆きのクローン」 (7)

警官隊

 やっとの思いでここまでたどり着いて、牛が飼われている牧場を見つけた。
 人が住んでいそうな家があったので、何か食べ物を分けてもらおうと思って近付いて行った。
 そうして、祖父がコヨーテ避けに仕掛けておいた罠に掛かってしまったのだった。

 祖父は、尻尾の生えた女の子の話を聞いている内に涙が出て来た。
 何とかこの女の子を助けてやりたい…どこか遠くへ連れて行って逃がしてやりたいと思った
 だが、もうすでに手遅れだった…牧場の前に止まったパトカーから、数人の警察官が下りて来た。
 しまったっ!と思った祖父は、急いで女の子を抱え上げて奥の部屋に隠した。
 部屋の前に立って入り口を塞ぎながら、入ってきた警官に「知らぬ存ぜぬ」とシラをきった。
 けれども、警官は乱暴に祖父を突き飛ばし、づかづかと奥の部屋に入って行った。
 でも、そこにはもう女の子はいなかったらしい。窓から逃げ出した後だった。
「裏口の方に回れっ!」警官のリーダーが大声で部下たちに怒鳴った。
 足の折れたままの女の子が、どうして屈強な警官たちから逃げおおせる事ができるだろう。
 まもなくして、何発かの銃声が聞こえて来た。
 祖父が窓の外を見ると。警官たちが撃ち殺した女の子の脚を無造作に掴んで、ズルズルと引き摺っていた。
 それは、まるで狩りで仕留めたヘラ鹿でも引き摺って行っているようだった。
 それが、祖父が尻尾の生えた可哀相な女の子、ルーシーを見た最期だった。
 仕事を終えた警官は、出て行く間際に呆然と立ち尽くしている祖父に、凄みのある声で言った。
「命が惜しかったら、今日見た事は誰にも喋るなっ!国家はお前一人ぐらい消すのはわけないんだからな」
 祖父はただただ恐ろしかった。国家は、事故死でも毒殺死でも、誰にも疑われぬように国民を殺せるのだ。
 そう思った祖父は、今日の今日まで、その事を誰にも話さずに隠し通して来た。
 第一、仮に誰かに話しても、きっと誰も信じてはくれないだろうと思っていた。

「なぁ、マーサ…わしは牧場でずっと牛を飼って来た。餌をやり、安全な寝場所を与え、あいつらの世話をした。そうしておいて屠殺業者に売り渡した。あいつらは自分が殺されるために育てられているとは、これっぽっちも思わなかっただろうなぁ」
 そう言って、祖父は悲しそうな目をしてじ~っと私を見た。
「考えてみりゃ、育てる者…屠殺する者…肉をさばく者…肉を売る者…食べる者。どこがどう違うんだろうな…みんなおんなじ罪を犯している共犯者じゃないか?きっと、神様から見りゃぁこの世は罪人だらけに見えるだろう。この世には、ただの一人だって善良な人間なんぞいやぁしないよ」
 そうして、話を終えた祖父は、天を仰ぐように上を向いて静かに目を閉じた。
 痴呆症も進行していたし、きっとおかしな夢でも見て、現実と混同しているんだろう…と私はその時は思った。

~続く~

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~ Comment ~


生きていくこと=他の命を奪うこととはいえ
肉類もブランド化しているので快適な環境から突然殺され
品評会をされているのもなんだか惨い話ですね。
そうやって命に値段を付けるのも人間だけですし。
#3385[2016/01/14 10:39]  西條すみれ  URL 

Re: すみれ様COありがとうございます^^

> 生きていくこと=他の命を奪うこととはいえ
> そうやって命に値段を付けるのも人間だけですし。

「命」とは何か?…手塚治虫的な永遠の問いになりますね。
人は命を救いもし、反対に命を奪いもする…人は神なのか?それとも悪魔か?
いいぇ、人はただの罪人です。もしかして地球は流刑の星かも知れませんよ。
中国・韓国人より日本人の命が尊い。ユダヤ人・アラブ人より欧米人が上。
そんな考え方では、いつまで経っても流人同士で命を奪い合う事になります><
#3386[2016/01/14 11:12]  sado jo  URL 

こんにちは~♪
予想外の展開ですね。
もう少し別の世界があるのかなと思いましたが見事に外されましたね(*^^)
#3387[2016/01/14 17:50]  まり姫  URL  [Edit]

Re: まり姫様COありがとうございます^^

> 予想外の展開ですね。
> もう少し別の世界があるのかなと思いましたが見事に外されましたね(*^^)

最初にお断りした通り、可哀相な女の子の話なのでハッピーエンドはありません。
最も、小説の後半は悲惨すぎたのか?見てられなくて読者が減ってしまいました><
悲惨な事も世の中の真実の側面なので、読んで考えて欲しかったんですけどね(笑)
#3388[2016/01/14 18:31]  sado jo  URL 

「この世には、ただの一人だって善良な人間なんぞいやぁしないよ」
そういうことだったんですね。
納得。
#3389[2016/01/14 19:34]  マウントエレファント  URL  [Edit]

Re: マウントエレファント様COありがとうございます^^

> 「この世には、ただの一人だって善良な人間なんぞいやぁしないよ」
> そういうことだったんですね。納得。

ただでさえ、生き物の命を奪いながら生きている人間と言う呪われた種族。
その人間が、さらに自分の分身であるクローンの命を奪っても長生きしようとする。
この小説はそんな人間の醜い欲望と、そんな欲望が組織化された恐ろしさを描きました。
ここまで来ると、もう人間そのものが救いようがないですよね(笑)
#3390[2016/01/14 20:02]  sado jo  URL 

ルーシーは結局殺されてしまったんですね……。
人の欲望は限りないですし、
それのせいで誰かが満たされたり救われたりする一方で、
死ぬ命もありますしね(><)
#3391[2016/01/14 20:13]  ツバサ  URL 

Re: ツバサ様COありがとうございます^^

> ルーシーは結局殺されてしまったんですね……。
> 人の欲望は限りないですし、

可哀相なクローンの少女「ルーシー」は警官隊に射殺されてしまいました。
人間の欲望が産み出した不条理ですよね><…命に変わりはないのにね~
こんな事をして人が命をもてあそんだら、やがて天罰が来るでしょうね。
#3392[2016/01/14 21:51]  sado jo  URL 

>国家は、事故死でも毒殺死でも、誰にも疑われぬように国民を殺せるのだ。

去年、北朝鮮でとある穏健派の、確か政権のNo.2的立場の方が交通事故で亡くなりましたね

きっと消されたんでしょう(汗)

最近行われた核実験決行の邪魔になるとかで(汗)

この件を見て、ふと思いました

しかし、ルーシーはやはり、でしたか…

それにしても設定がエグい(汗)

自分も人のこと言えないですが(汗)
#3393[2016/01/14 22:41]  blackout  URL 

こんばんは!

ルーシーがここで亡くなってしまうとは。

確かに、牧場で飼われている牛たちも
人の食事の元になると、誰もがおかしい?と思わず
食べている。
牧場に行けば、可愛いと言いながら撫でたその手で、
その牛の肉を食べている。

うん。恐ろしいものはやっぱりと言うか、当然と言うか
人間なのね。
#3394[2016/01/15 00:15]  ミノリ  URL  [Edit]

Re: blackout様COありがとうございます^^

> >国家は、事故死でも毒殺死でも、誰にも疑われぬように国民を殺せるのだ。
> 去年、北朝鮮でとある穏健派の、確か政権のNo.2的立場の方が交通事故で亡くなりましたね
> きっと消されたんでしょう(汗)
> それにしても設定がエグい(汗)自分も人のこと言えないですが(汗)

北朝鮮の事は言えないですね。日本も戦時体制の中で大勢の人間が消えてます。
キリスト教の牧師などの平和主義者や、社会主義者の人々、反体制派の知識人。
国家はその気になったら、自分の小説よりはるかにエグい事をやりますよ。
自分も国家の役人だったらやるかも知れないな~…保身の為に(笑)
#3395[2016/01/15 00:23]  sado jo  URL 

Re: ミノリ様COありがとうございます^^

> ルーシーがここで亡くなってしまうとは。
> うん。恐ろしいものはやっぱりと言うか、当然と言うか人間なのね。

人間ほど呪われた邪悪な生き物は、地球上にはいないですよね。
他の動物を殺して食べるばかりか、スポーツや遊びとして他の生き物を狩る。
その上自らの欲望から、戦争をして同族殺しまでやってのけます。
本当は地球上にいてはいけない種族なんじゃないかな?(笑)
#3396[2016/01/15 00:35]  sado jo  URL 














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