シムーン第二章 ~乙女達の祈り~

「▼クロニクル ~カルマ~」
クロニクル ~カルマ~ 小説本編

クロニクル ~カルマ~ 第6話 「嘆きのクローン」 (8)

フェンス

 こうして祖父はこの世を去り、それから私は、しばらくして大好きな彼氏と結婚して家庭を持った。
 夫婦の仲もよくて、一緒に食事に行ったり、二人で映画を観たり、毎日幸せな結婚生活が続いていた
 ところが、夫がふとした過失から、一生掛かっても払えないような莫大な負債を背負ってしまった。
 途方に暮れている私たちの元に、ある日一通の書簡が届いた…その書簡にはこう書かれてあった。

 「代理の母親をしていただければ、当方が負債をすべて肩代りし、報酬もお支払いいたします ~保健衛生局~」

 保健衛生局…と言えば国が管轄している公社だ。何でこんな書簡を私たちのところに送って寄こしたのだろうか?
 最近は医学が発達して、人工授精が盛んに行なわれていると聞くが、大金を払って代理出産する人を募集してるのだろうか?
 にっちもさっちも首が回らなくなっていた夫は、送られてきた書簡の内容を見るなり乗り気になった。
 そこで私たちは保健衛生局まで足を運び、負債の肩代りと高額の報酬と言う好条件を提示され、契約書にサインをした。
 まぁ、3~4年で夫が背負ってしまった巨額の負債が返済できる上、報酬までもらえるなら悪くはない話だと思った。

 そして、契約を果たすためにある町に住む事になった私たち夫婦は、保健衛生局の職員の運転する車に乗った。
 引越し費用も荷物も何もいらなかった。住む家も用意されていて、家具も調度品もすべて整っているとの事だった。
「風光明媚ないい町ですよ。あっ、そうだっ!町の中ではこれを着ける決まりになっていますので…」
 そう言って職員に手渡されたのは、奇妙なベルトだった。そのベルトには不思議な事に、動物の尻尾が付いていた。
 私は、とっさに祖父から聞いた話を思い出した…なんと言う因果だろう。祖父の話は本当だったのだ。
「さぁ、着きましたよ…ここがあなた方ご夫婦の職場になるグロウレイクタウンです」
 保健衛生局の職員は事もなげにそう言った。私は暗澹とした思いに囚われた。
 ロッキーの麓に建つ湖畔の町、グロウレイクタウンは高いフェンスに囲まれ、出入するゲートは一つしかない。
「綺麗な町じゃぁないか。景色もいいし…こんな所に住めるなんて夢みたいだ」何も知らない夫は気楽そうだった。
 人は誰しも、知らず知らずの内に自分が重い罪を重ねている事に気付いていない。
 人の生は、それが動物であれ人間であれ、誰かの犠牲の上に成り立っているものなのだ。
 これから私は、クローンの卵子を子宮に移植され、要人やセレブのために人間の姿をした家畜を産み落とすのだ。
 その子は、産まれるとすぐに尻尾を移植される。持ち主を表す牛の焼印と同じであり、人と家畜を識別する目印でもある。
 そして、その子は祖父が牧場で飼っていた牛のように、何も知らずに育ち、やがて人間に屠殺される運命にある。
 すべては人間の欲深い業(カルマ)の為せる技から出た事だ…私はつくづく人の罪深さを思い知った。

 だから、もしあなたが不幸に見舞われたとしても、決して人を憎んだり、恨んだりしてはいけない。
 人はみんな罪を犯しながら生きているからだ…例え不幸になっても、あぁ、やっぱりそうだったのかと思うだけだ。
 人に欲深い業がある限り、人は誰しもみんな救いようがないし、この世には誰一人救われる者などいないだろう。
 だって、この世は罪人だらけで、ただの一人も善良な人間などいやしないのだから
 ~マーサ・ブライアン~

※この小説を21年前の今日の震災で逝った妻に捧げます ~佐渡譲~

第6話 「嘆きのクローン」 (完)

にほんブログ村 小説ブログへ
クリックをお願いします
 
関連記事
スポンサーサイト
 関連カテゴリ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼シムーン第二章 ~乙女達の祈り~
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼未来戦艦大和
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼ビーストハンター
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼クロニクル ~カルマ~
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼まぼろし
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼やさしい刑事
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼幻影の艦隊
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼その他の小説
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼シムーン第二章 ~乙女達の祈り~
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼未来戦艦大和
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼ビーストハンター
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼クロニクル ~カルマ~
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼まぼろし
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼やさしい刑事
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼幻影の艦隊
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼その他の小説
もくじ  3kaku_s_L.png オリジナル詩集
もくじ  3kaku_s_L.png 随想/論文集
もくじ  3kaku_s_L.png 死とは何か?
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  ↑記事冒頭へ  
←第6話 「嘆きのクローン」を書き終えて    →クロニクル ~カルマ~ 第6話 「嘆きのクローン」 (7)

~ Comment ~


テレビで見たけど酪農関係の学校だったかな。
みんなで育てた豚を卒業するときに食べるって話になってみんな泣いてましたよ。
かわいがっていたからこそかわいそうだという感情が湧くのはわかりますが
いくら泣いたってそれ以前に豚なんてそういうことは何とも思わずに食べていたわけだし
直接触れ合おうがそうでなかろうが同じ命なのにね。
#3397[2016/01/16 10:16]  西條すみれ  URL 

Re: すみれ様COありがとうございます^^

> テレビで見たけど酪農関係の学校だったかな。
> みんなで育てた豚を卒業するときに食べるって話になってみんな泣いてましたよ。
> かわいがっていたからこそかわいそうだという感情が湧くのはわかりますが

それは「銀の匙」って言うアニメじゃないでしょうか?
「情が移るから、家畜には名前を付けるな!」って農学校の先生が指導してましたね。
まぁ、育ててもどうせ殺す命なんだけど…食べる時「いただきます」と言うのは、命をいただくのだから、ちゃんとお礼を言って食べるのだそうですよ^^
#3398[2016/01/16 11:11]  sado jo  URL 

奥さまのご冥福を深く祈らせていただきます。

とても心を切り刻む、深いエピソードでした。
『殺すために可愛がって育てる』または『可愛がって育てた末に殺す』というのは、農耕・牧畜の技術により食料を手にすることを覚えた故に人間が抱え込んでしまった、他の生物にはない大きな罪ですね。

もし彼らが人間と同じように考え、話すことが出来たら、何と言うのか。そういう思考実験だったのだと受け取りました。

個人的には、『食べるために他種を捕食するための工夫』と、『個体が生き延びるために自らのコピーを作り道具として扱う』ことは倫理的に別問題なのかな、と考えますが。
毎日、食料の心配をせず生きていけること(お金さえあれば食べ物を手に入れられること)、それだけで罪を背負っているのだということは常に意識して生きるべきなのだと改めて思いました。

肉にされる鶏、豚、牛だけでなく。レタスだってニンジンだってもっと生きていたかっただろうし。お米だって芽吹いて稲として生きたかっただろう。閉じ込められて卵製造機として扱われる雌鶏たちも、他の生き方を夢見る瞬間もあるだろう。
犠牲にしている全ての命に対して敬意を忘れずに生きていきたいです。

忘れられないだろう物語をありがとうございました。

#3399[2016/01/16 13:39]  椿  URL 

Re: 椿様COありがとうございます^^

> とても心を切り刻む、深いエピソードでした。
> 『殺すために可愛がって育てる』または『可愛がって育てた末に殺す』というのは、農耕・牧畜の技術により食料を手にすることを覚えた故に人間が抱え込んでしまった、他の生物にはない大きな罪ですね。

ありがとうございます^^
自らの生が、他の生き物の犠牲の上に成り立っている点では、虎やライオンも同じです。
ただ、人は考えて行動する事が出来ます。犠牲になった生き物達に感謝し、他の生き物達が生きてゆくのを助けてやる…それが人間に出来る唯一の罪滅ぼしだと思います。
震災で死んだ妻の夢から出た「生と死に纏わる不条理」を描いた物語でした。
#3400[2016/01/16 14:42]  sado jo  URL 

ただいま京都から帰ってきました(*^^)
今日は訪問のご挨拶と応援だけにさせていただきますね(^_-)-☆
#3401[2016/01/16 19:17]  まり姫  URL  [Edit]

Re: まり姫様COありがとうございます^^

> ただいま京都から帰ってきました(*^^)

お帰りなさい^^
今の季節、京都は底冷えがして、寒かったんではないですか?
#3402[2016/01/16 22:16]  sado jo  URL 

法に照らし合わせた罪がないからといって、
だから穢れなき善良とはならないのが世界ですしね。
食べるのも争うのも、生きていく上ではどうしても起こる事なので、
誰しも罪があるといえばそうですね(-ω-)
#3403[2016/01/16 22:17]  ツバサ  URL 

Re: ツバサ様COありがとうございます^^

> 法に照らし合わせた罪がないからといって、
> だから穢れなき善良とはならないのが世界ですしね。
> 誰しも罪があるといえばそうですね(-ω-)

人間界の法律でも「生きる為に已む無く」の場合は情状酌量されますよね。
だが、私利私欲や利己的な強欲から罪を犯した場合は刑罰が重くなります。
生きなければならない以上、他の生き物の命を奪うのは仕方ないと思います。
だからこそ、他の生き物を助けて罪を購う贖罪をしなければなりませんね^^
#3404[2016/01/16 22:25]  sado jo  URL 

ああ、不幸な結末に・・・
お爺様の、お話し、真実だと知った、衝撃は、如何ばかりでしょう?

子を産んだ事のない、私には、想像でしか、出来ませんですけれども。
街から、逃げたく、なるかも、知れません。

もし、お金の為、と、飲み込めても。
後悔は、残るでしょうね・・・
自分の子は、持てなくなるかも・・・

命の大切さ、身に染みます。

かしこ
#3405[2016/01/16 23:04]  みかんゼリー  URL 

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
#3406[2016/01/17 00:10]     

Re: みかんゼリー様COありがとうございます^^

> 子を産んだ事のない、私には、想像でしか、出来ませんですけれども。
> 街から、逃げたく、なるかも、知れません。
> もし、お金の為、と、飲み込めても。後悔は、残るでしょうね・・・
> 命の大切さ、身に染みます。

女性ならいたたまれない気持ちになるでしょうね^^
クローンとは言え、自分のお腹を痛めて産んだ子…お金で割切れるものではないです。
でも、国家ぐるみの組織にとっては、代理の母も子供も単なる道具に過ぎません。
目的の為には尊い命すら犠牲にする…そんな人間たちの恐ろしさを描いてみました。
#3407[2016/01/17 00:29]  sado jo  URL 

Re: c様COありがとうございます^^

ありがとうございます^^
あの震災では大勢の人が被災しました。叔父様も苦労されたお一人だったんですね。
私は「宮崎駿さん」とは比べ物になりませんが、同じ映画人として想像力は持ってます。
自分で企画を練った作品を、脚本家に提出して世に出していただいた事もありました。
この小説は命をテーマに、震災で死んだ妻への供養として綴ってみました。
#3408[2016/01/17 00:39]  sado jo  URL 

誰しも罪を犯さなければ生きていけない。
悲しい運命ですが、それを認めないと、重すぎて生きていけませんね。
#3409[2016/01/17 06:14]  マウントエレファント  URL  [Edit]

Re: マウントエレファント様COありがとうございます^^

> 誰しも罪を犯さなければ生きていけない。
> 悲しい運命ですが、それを認めないと、重すぎて生きていけませんね。

真面目に生と死を直視するとそうなりますよね^^
ただ悲しむだけでなく、その自覚から他の人や動物への思いやりが出ると思います。
#3410[2016/01/17 10:30]  sado jo  URL 

こんばんは^^

次のシーンで、初めの話と繋がるのですね。
永遠に今もどこかで、存在するのかもしれない。

代理母、お腹で1年間守ってしまうと
誰かに渡してしまう辛さがあるでしょうね。
人は知らない間にも、誰かを傷つけ生きていく。
自分もその人間なんだと恥じて生きて行かなきゃ(>。<;)

奥様へのメッセージがsado joさんの本名で終わられているのが
とっても心に深く感じました。
21年経ってしまいましたが心の中ではいつまでも色褪せずに・・・
夢の中の奥様からのメッセージが
この小説が生まれるきっかけになったのですね。
いろいろ考えられる深い深い、そして素敵な小説でした^^
#3411[2016/01/17 18:37]  ミノリ  URL  [Edit]

Re: ミノリ様COありがとうございます^^

> 21年経ってしまいましたが心の中ではいつまでも色褪せずに・・・
> 夢の中の奥様からのメッセージがこの小説が生まれるきっかけになったのですね。
> いろいろ考えられる深い深い、そして素敵な小説でした^^

ありがとうございます^^
あの大災悪から21年が経ちましたが、妻の面影はいつまでも消えません。
自分が自分らしく…そして、人が人らしく生きていける様、願いを込めて書きました。
みなさんが、改めて命と言うものを見つめ直すきっかけになれば幸いです^^
#3412[2016/01/17 19:20]  sado jo  URL 














管理者にだけ表示を許可する

~ Trackback ~


  ↑記事冒頭へ  
←第6話 「嘆きのクローン」を書き終えて    →クロニクル ~カルマ~ 第6話 「嘆きのクローン」 (7)