シムーン第二章 ~乙女達の祈り~

「▼まぼろし」
まぼろし 小説本編

まぼろし 第1話 「電球の少女」

妖精

<オリジナル/ファンタジー/ミステリー>

人の目はすべてを見ている訳ではありません。この世には人に見えない世界があります。
これから、あなたの目はあなたの体を離れ、この不思議な時間と空間に入って行くのです。

 浪人生のタカシは、Y予備校の掲示板に張り出された模擬試験の結果に肩を落とした。
(後ろから三番目…これではとてもT大になんか行けるはずがない)
「お~い、タカシ。スタバでお茶しないか?」友人のアキオが声を掛けてきた。
 アキオはいつも10番以内に入っている。大して勉強もせずに遊んでいるのに、根っからの頭のいい優等生だった。
「ごめん…オレ家に帰って勉強しなきゃならないから」タカシはそう言って断った。
「なんだ、付き合い悪いなぁ…閉じこもって勉強ばっかりしてると、頭が変になるぞ~」
「あぁ…でもオヤジやオフクロがうるさいから」
「そうか~…じゃぁ、しょうがないな」
(みんな気楽でいいなぁ…それに引き換え、オレは家と予備校の往復ばっかりで、青春なんてどこにもない)
 タカシはそう思いながら、仲間たちと遊びに行くアキオをうらやましそうに見送った。

 ブルーな気分のままで家に帰ると、夕食の準備が整ったテーブルには、オヤジとオフクロが座っていた。
「あぁ、お帰りタカシ。模擬試験どうだった~?」オフクロがそう尋ねてきた。
「うん、まぁまぁ…だった」とタカシは笑ってごまかした。
「期待してるぞ~…オレみたいに三流大学出だと、昇進コースから外されるからな~」
 読んでいた新聞を閉じながらオヤジが言った。
 タカシの父は官公庁務めの公務員だった。いつも三流大学出で出世できない事をぼやいていた。
「お座りタカシ。今日のオカズはイワシにしたのよ~…DHAがたくさん入ってて頭が良くなるって言うから」
「う~んと食べて、がんばって勉強して、T大を出てもらわなきゃな~」
(我が家の食卓は、いつもこんな話ばっかりだ)タカシにはプレッシャーになるだけだった。

「ごちそう様」
 針のむしろのような食卓では、食事もおいしくはない…タカシはそうそうに箸を置いて立ち上がった。
「あら、もういいの?」オフクロが、そんなタカシの気持ちも知らずに言う。
「うん、模擬試験で迷ってしまったところを、もう一度復習しなきゃいけないから」
「おぅ…がんばれよ~」オヤジが、さらにプレッシャーを掛けて来る。
 タカシは夕食をそこそこ済ますと、二階の勉強部屋に上がり、窓を開けて新鮮な空気を入れた。
 勉強机に座って参考書を開いてみたが、模擬試験のショックからか今日は集中できそうもなかった。
 そうして、勉強に集中できないままにいつしか時間は過ぎてしまった。
(疲れた~…家と予備校の往復ばっかりで自由が無い。これじゃぁ、まるで籠の鳥だな~)
 タカシがそんな事を考えていると、ドアをノックしてオフクロが部屋の中に入って来た。
「お夜食、どこに置いとこうかしら?」オフクロが持って来た夜食の置き場所を尋ねた。
「あぁ…机の端にでも置いといて」タカシはそっけなく答えた。
「それじゃ、がんばってね~…タカシ」オフクロは夜食を置くと部屋を出て行った。
(取りあえず、夜食でも食ってから気合を入れてやるか~)
 タカシは、落ち込んでいる気分を入れ替えようと、オフクロが持ってきたラーメンをすすった。
 夜食を食べ終わってから再び机に向かったが、食後の満腹感の上に、疲れていたせいかついうとうとしてしまった。

 しばらくして目を覚ますと、辺りはぼんやりとしていた…何だか頭がシビれたままではっきりとしない。
 目の前の電気スタンドの電球だけが、やけに明るく光っていて、何かがチラチラと動いて見えた。
(アレッ?…電球の周りに虫でも飛んでるのかな~?)
 奇妙に思ったタカシは電球に顔を近づけてみた。
 電球の周りには何もいなかった。どうも、電球の中で何かが動き回っているらしかった。
(おかしいなぁ~…虫が電球の中に入るはずはないし?)
 タカシは机の引き出しから虫眼鏡を取り出した。小さく書かれた注釈などを見るために用意して置いたものだ。
 それから、虫眼鏡を電球に近づけてみた…何かが電球の中でしきりに飛び回っているみたいだった。
「あっ!」タカシは、虫眼鏡の向こう側に見えたものにびっくりして息が止まりそうになった。
 電球の中では、背中に薄い羽根を生やした小さな少女が踊っていた。
(もしかすると、ティンカー・ベル!?)
 彼は「ピーターパン」に出て来る妖精のティンカー・ベルを思い出した。
 でも、それはティンカー・ベルではなかった…もっとず~っと小さかったのだ。
 タカシは、もっとよく見ようと思って虫眼鏡を電球に近づけた。とたんに虫眼鏡が電球に当ってしまった。
 驚いたのか?電球の中にいた羽根の少女は、一瞬踊るのをやめた。そして、じ~っとタカシを見た。
「ゴメン、悪かった。踊りの邪魔をして…本当にゴメン」タカシはそう言って少女にあやまった。
 少女はニコッと笑うと、再び電球の中でくるくると踊り始めた。
 タカシは虫眼鏡をかざしたまま、電球の中の羽根の生えた少女が踊る様子をじ~っと見ていた。

 次の日も、タカシが勉強をしようと電気スタンドを点けると、やはり電球の中の少女は踊っていた。
 それからは毎晩、タカシは受験勉強も忘れて、虫眼鏡をかざしながら電球の少女の踊りに見とれた。
 けれども、じ~っと見ていると、時折少女は勢い余って電球のガラスにぶつかってしりもちをついていた。
(ちっちゃな電球の中じゃぁ狭いよなぁ~…もっと広い場所だったら自由に踊れるのに)
(まるでオレとおんなじ籠の鳥だな)タカシは自由に飛べない羽根の少女を可哀そうに思った。
 そして、何とか出してやれないものだろうか?とあれこれ考えた。
(でも、もしかしたら外の空気に触れたら、死んでしまうかも知れないしな~)
 電球の中の少女は、そんなタカシの思いなど知らぬげに、ただ楽しそうに踊り続けていた。
(よしっ、いつか電球の中から出して自由にしてやろう…こんな狭い籠の鳥じゃ可哀そうだ)
 そう思いながら、タカシは電気スタンドを消して眠りに着いた。

後半は右下の [続きを読む] からご覧下さい
 


 そんなある日、タカシはアキオに誘われて、いやいやながらコーヒーショップに行った。
 コーヒーショップのマスターは、カウンターにある大きなサイフォンでコーヒーを沸かしていた。
 タカシの目はその大きなサイフォンに釘付けになった。
(そうだ、これだっ!)
 タカシは思った(これであの子のために大きな家を作ってやろう)
(熱にも強いし、二階建てでスペースも充分だ…上は踊る部屋、下は眠る部屋にできる)
 そう思い立ったタカシは、貯めていた小遣いで大きなサイフォンと電球型蛍光灯を買ってきた。
 そうして、オヤジやオフクロに見つからないように、こっそりと勉強部屋に持ち込んだ。
 電圧の安定器や、電気の配線などの材料はホームセンターで揃えた…後は中に入れるアルゴンガスだけだった。
(こうして考えてみると、理科の受験勉強もたまには役に立つもんだ)タカシは一人悦に入った。
 それからは、毎日予備校から帰ると、受験勉強そっちのけでサイフォンの蛍光灯作りに熱中した。
 オフクロが夜食を持って来る時は、材料を押入れの中に隠して勉強をしている振りをした。
 別に罪悪感はなかった(な~に…理科の実地勉強をしているだけだ)タカシはそう思った。
 電球型蛍光灯を分解して、芯を手作りの安定器に繋ぎ、それから電灯用に改造したサイフォンに取り付けた。
(後はアルゴンガスをサイフォンに注入して、電球から羽根の少女を移すと同時に密閉すればいい)
(配線はだいぶん雑になったが準備は整った…これで彼女に自由に踊れる大きな住まいを与えてやれる)
 タカシはワクワクしながら、スタンドから電球を外した。点灯していない電球の中には小さな点が見えた。
(どうやら彼女は眠っているみたいだ。サイフォンの蛍光灯の新居で目が覚めたら、きっと喜ぶだろうなぁ~)
(けれども、慎重にやらなければいけない…急激な気圧の変化が、羽根の少女に害を及ぼすかも知れないから)
 タカシは、サイフォンと電球をくっ付けると慎重に電球を解体して、彼女をサイフォンの蛍光灯の中に移した。
 アルゴンガスをサイフォンに注入して、すぐさま蛍光灯を密封した。
(やった~っ!何とか成功したようだ)タカシは小踊りしたくなるほどうれしかった。
 それから、勉強机のコンセントに取り付けた手作りの蛍光灯安定器のスイッチを入れた。
 とたんにサイフォンの蛍光灯はピカッと光って、鮮やかに輝き出した。
 けれども、何だか様子が変だった…いつも中で踊っているはずの少女の影が一向にチラチラしないのだ。
 タカシは、机の引き出しから虫眼鏡を取り出して、サイフォンの蛍光灯の中を覗いてみた。
 サイフォンの蛍光灯の中では、羽根の生えた小さな少女が苦しそうにもがいていた。
(しまったっ!何がいけなかったんだろう?…そうかっ!アルゴンガスだ。環境が違ったんだ)
(すぐに助けなきゃぁ、彼女が死んでしまう!)タカシは自分の誤りに気づいてすっかりあわてた。
 そうして、ひとまず安定器のスイッチを切って、サイフォンの蛍光灯を消そうとした。
 ところが、すっかりあわてていたせいか手作りの雑な配線をショートさせてしまった。
 火花が机の上にあったノートに飛び散って、ノートが燃え始めた。
 けでども、タカシにはそんな事はどうでもよかった…今は少女を助ける事が先決だった。
 あわてて電源を切ったタカシは、密封してあるサイフォンの蛍光灯をこじ開けた。
 中からは蛍のような…いや、まるで火の粉のように発光した少女が飛び出して来た。
(よかった~!何とか生きていたくれた)タカシはほっとした。
 机の上のノートから燃え出した火は、次第に勢いを増して部屋の中に広がっていった。
 羽根の少女は、燃えている部屋の中にいるタカシの周りを「ありがとう」とでも言うかのように飛んだ。
 それから、開けてあった部屋の窓から外に飛び出して行った。
 それはまるで、燃える火の中から生じて飛んでいく火の粉のようにも見えた。
(あぁ~、やっと自由になれたんだ…やっと自由に)
 タカシには、籠の鳥から解放されて自由になれた羽根の少女がうらやましく思えた。

 メラメラと燃える部屋の中で、タカシは羽根の少女が飛んで行った窓の外を見ていた。
 階下からは、オフクロの悲鳴と、オヤジがわめく声がしていた。
 そして、遠くの方からは消防車のサイレンの音が聞こえてきた。

まぼろし 第1話 「電球の少女」(完)

今は亡き 金城哲夫先生を偲んで…

原案:かさかさ 嬢 「140文字で紡ぐ恋」 より

原案を提供していただいた「かさかさ様」には厚くお礼を申し上げます
彼女の発想は、生の現場にいた者から見ても、素晴らしいものがあります。
もっと早く生まれて、スタッフになって欲しかった(笑)今後も時折お借りしますのでよろしく^^

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~ Comment ~


読みました

佐渡さん、いつもお世話になっております。
読みました。
あの話がこんな風になるとは、
やはりプロの方の手にかかると違いますね。
深いですね、話の構成や、オチが。

私の方こそ、大変勉強になりました。
ありがとうございました。
#61[2014/02/23 07:48]  かさかさ  URL 

Re: こちらこそ良いネタを頂きました^^

え~、大昔はプロの端くれなのかも?…でも、今はただの素人ですよ(笑)
実は少女なんていなかった。追い詰められた受験生の妄想(電球のゴミや火の粉)ってのがミソです。
彼は焼け死んで、文字通り解放されて自由になる訳ですが…
親御さん(社会)は子供を追い詰めない様に気をつけましょう。と言う教訓でした。
#62[2014/02/23 12:34]  sado jo  URL  [Edit]

精神的重圧は空想、妄想に逃げ込みがちです。
今の子供って我々大人の想像以上に追い込まれているんですよね。
ある意味、そう言うストレスが内向に発せられず、外力に出力される場合、悪質なイジメになるのかもしれません。
火事と電車飛び込みだけはやっちゃだめですね。(いろいろ迷惑が)

意外なオチ、よかったです。
ゆっくりですが、他の作品も拝見させて頂きます^^
#228[2014/05/17 16:39]  青井るい  URL 

Re: CO ありがとうございます^^

> 精神的重圧は空想、妄想に逃げ込みがちです。
> 今の子供って我々大人の想像以上に追い込まれているんですよね。

進学するのに、塾へ行くのが当たり前では、子供を追い込んでますよね。
日本人の教育費の支出は、世界的にも異常だそうです。
子供に金が掛かる現実は、同時に大人自身を追い込んでる訳ですから、
大人は、自分の姿を子供と言う鏡に映して見てる様なもんですね(笑)
#230[2014/05/17 20:38]  sado jo  URL  [Edit]

リンクがあったので飛びました^^

凄い中に入り込み読んでしまいました!

特に親御さんが医療関係や大学の先生関係だと
お子様はプレッシャーになりますよね。

親御さんも周りの目を気にされるし
お子様も小さい頃からそんな親の下で随分
刷り込まれてしまう。

友達にもいました。幸いわたしは普通の家だったのでよかったですが(;^-^)

この彼の勉強や未来へのストレスから
出来てきたティンカーベルのような妖精。

彼女のために一生懸命考えて作ることで
いろいろなことが忘れられたのですよね。

妖精は本当にいたのかわからないけど
彼の妄想なら、決してサイフォンへの成功は無かったのか?
それともサイフォンへの移行がうまく行っていたら
どうなっていたのかな?とか

いろいろ考えちゃいました。
でも彼はいろいろな呪縛から逃れられて
自由を手に入れたのですね。

凄く考えさせらるお話でした。
#319[2014/06/15 20:03]  yume-mi  URL 

Re: y様 CO ありがとうございます^^

> 凄い中に入り込み読んでしまいました!
>
> 特に親御さんが医療関係や大学の先生関係だと
> お子様はプレッシャーになりますよね。
> 親御さんも周りの目を気にされるし
> お子様も小さい頃からそんな親の下で随分
> 刷り込まれてしまう。
> 友達にもいました。幸いわたしは普通の家だったのでよかったですが(;^-^)
>
> 凄く考えさせらるお話でした。

私の実家にある隣の家も、ドラマと変わらない様な様子でした。
高学歴=良い人材(駒)と言う世間の物差しが子供を追い込んでいますね。
<PC遠隔操作事件>の片山被告の出現は、これからの社会を暗示しています。
平気で嘘を付き、善悪の観念が無い、人格欠如者(サイコパス)が増えると思います。
教育は人間を作るのが基本のはずです。
#320[2014/06/15 21:15]  sado jo  URL  [Edit]

さりげなく深くて…

今晩は。

精神的な籠の鳥が 電球の少女を自分と重ね 彼女を助けることによって
自分も救われる…そう思っているようにも見えました。
悲しいお話でした。
自由とは何だろうとも考えました。
#426[2014/07/07 18:01]  花音  URL  [Edit]

Re: k様 COありがとうございます^^

> 精神的な籠の鳥が 電球の少女を自分と重ね 彼女を助けることによって
> 自分も救われる…そう思っているようにも見えました。
> 悲しいお話でした。
> 自由とは何だろうとも考えました。

悲しい話…そうですね^^
このお話は、投稿してる小説サイトなどでも良くコメントをいただきます。
精神的に追詰められると、人は何かに縋りたい。何処かに救いを求めたい。
「電球の少女」は本当は彼の幻影だった…と暗に暗示してあります。
#429[2014/07/07 22:03]  sado jo  URL  [Edit]














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