シムーン第二章 ~乙女達の祈り~

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シムーン第二章 ~乙女達の祈り~ 小説本編

乙女達の祈り 第7話 【異郷】 その2

 けれども、敗戦後の宮国を共同統治する礁国と嶺国は、そんなパライエッタの小さな贖罪さえ許してはくれなかった。
 思想も政治体制もまったく異なる両国は、戦後そうそうから宮国の統治権を巡って争い合いを始めた。
 敗れた宮国の有力者たちは、礁国と嶺国の顔色をうかがいながらどちらに付いた方が有利かで意見が分かれていった。
 そして、国民を巻き込んで小競り合いをした挙句、とうとう宮国は南部礁国派と北部嶺国派の二つに分裂してしまった。
 礁国は嶺国との同盟を破棄し、南部の占領地域を一方的に自国に併合し、嶺国もそれに対抗して北部の占領地域を併合した。
 北部と南部の間には国境線が引かれ、北部出身のパライエッタは故郷にすら帰れなくなってしまった。
 互いに一歩も譲らない両大国の利権争いは、こうして小さな宮国を再び戦禍の中へと投じたのだった。

 礁国と嶺国が宮国の国民を動員して始まった内戦は、科学力と物量にものを言わせる礁国側の優勢で進んでいた。
 事実、パライエッタが目にする新聞には、相次ぐ礁国軍の勝利を伝える見出しが並んでいた。
 にも関らず戦争は一向に終わる気配がなく、親を失った戦災孤児は増え続ける一方だった。
 しかも妙な事に、いつごろからか孤児院の玄関に度々礁国人の赤ん坊が置き去りにされるようになった。
 宮国や嶺国には古来からの宗教教義にのっとって、17才になるまでは子供を女の子として育てる慣習がある。
 だが、古い時代に邪教教団による専制支配を受けて、苦難を舐めさせられた礁国人は宗教そのものを嫌っていた。
 だから礁国では、産まれて間もない赤ん坊に手術を施して早くから性別を決定するするのが決まりになっている。
 孤児院の玄関に捨てられていた赤ん坊にはその手術の跡があり、パライエッタには一目で礁国人の子だと分かった。
 けれども、戦争に勝っているはずの礁国の人々が、なにゆえにわざわざ宮国にまで子供を捨てにくるのか?
 パライエッタは、孤児院の玄関で泣いている赤ん坊を抱き上げながら不可解に思った。
 赤ん坊を捨てなければならないほどの異様な事態か何かが、戦勝国の礁国で起きているのだろうか?
 先の戦争に負けた後、大勢の宮国兵の捕虜が礁国に連れていかれた。家や財産を失って礁国に渡っっていった人もいた。
 だが、誰一人礁国から帰ってきた者はいない…宮国の人々は礁国については何一つ知らされてはいないのだった。

 そこで、思いあぐねたパライエッタは、孤児院の玄関を陰からそっと見張ってみる事にした。
 そしてついにある日、自分の産んだ赤ん坊を捨てにきた礁国人の母親を見つけた。
 その母親は、最期の別れをするように赤ん坊を抱きしめると、玄関の前に置いて立ち去ろうとしていた。
「お待ちなさいっ!」パライエッタは、後ろからその母親を呼び止めた。
 驚いた母親は、力が抜けたように座り込むとそのまま泣き崩れてしまった。
「なぜ自分のお腹を痛めて産んだ子供を捨てるのですか?」パライエッタは母親に問うた。
「お願いです。見逃して下さい…どうか子供をお願いします」母親は泣きながらそう答えた。
「どうしてわが子を捨てるのか?と聞いているのです」
「詳しい事情は言えません。事情を喋ったら処罰されます…でも、私は夫と一緒に行かなきゃならないんです」

~続く~

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しかし、子育て環境に乏しい日本もそうですが
子供を捨てなければいけないというのはそれ以上に厳しいものですね。
戦いに勝っても人々の心は豊かではなかった。
何が起きたのか気になりますね。
#4695[2016/08/20 11:18]  西條すみれ  URL 

Re: すみれ様COありがとうございます^^

> しかし、子育て環境に乏しい日本もそうですが
> 子供を捨てなければいけないというのはそれ以上に厳しいものですね。
> 戦いに勝っても人々の心は豊かではなかった。

戦争を遂行する国家は、兵隊が欲しいので国民にたくさん子供を産む事を奨励します。
その一方で戦費を調達する為に増税をし、軍需品以外の生活物資の生産を制限します。
いきおい、庶民の生活は苦しくなる…国家は、成人するまで庶民に子供を育てさせて、徴兵すればいいが、庶民は子供が大きくなるまで養わなきゃならない。
この矛盾は、戦争中の日本でも現れました。当然、食えなくなる人も出てきますよね。
あ、これはネタバレだったかな?(笑)ま、そうならない様にしたいものですけどね^^
#4696[2016/08/20 13:05]  sado jo  URL 

こんにちは~♪
どの時代でも軍国主義は決して勝てないことがわかっているのに、軍事力増強のために庶民を犠牲にするのは世界共通です。
武力による威嚇や武力行使をすべてなくす唯一の方法こそ庶民が追求すればいずれ武器の内世界の実現はできるはずですが、悲しいかな国家権力を握っている一部の人間の業欲を許さない仕組みをつくらないと無理でしょうね。
孤児院が増えるのは貧困の象徴のようなものです。
#4697[2016/08/20 16:56]  まり姫  URL  [Edit]

Re: まり姫様COありがとうございます^^

> どの時代でも軍国主義は決して勝てないことがわかっているのに、軍事力増強のために庶民を犠牲にするのは世界共通です。

その一党独裁や、軍国主義政策を熱狂的に支持する庶民も問題があります。
国威の高揚感から政府を応援した自分自身が犠牲になる。昔の日本やドイツがそうでした。
身から出た錆になるのがオチだからやめとけ!…と、何度言っても直らない国民が多い><
オリンピックの金メダルを喜ぶ分には死人は出ないが、戦争となると国民が死ぬんです。
国と個人の間には冷静な距離感が必要だ…のめり込むと民主主義が機能しなくなります。
#4698[2016/08/20 17:36]  sado jo  URL 

もしくは、生まれてきた子供が兵力にならないオナゴだったから、捨てざるをえなかったか?、とも思いました

状況は違いますが、日本でも、確か1950年代から1990年代まで、人口抑制的なことをやってましたよね

各国から中絶大国だと大いに非難されたみたいです

その影響か、今の40代は男女比では男の方が多いらしく、売れ残った連中がそれなりにいることから、全体の未婚率が上がり、少子化の一因でもあるんだとか(汗)

そして、草食化も進んでて、外国人も増えてきたので、ますます日本の男どもは相手にされなくなっちゃうのかなって思ったりします(汗)
#4699[2016/08/20 18:10]  blackout  URL 

Re: blackout様COありがとうございます^^

> もしくは、生まれてきた子供が兵力にならないオナゴだったから、捨てざるをえなかったか?、とも思いました
> 状況は違いますが、日本でも、確か1950年代から1990年代まで、人口抑制的なことをやってましたよね

えぇ、日本でも1990年まで、戦前の優勢思想を基にした「優生保護法」がありました。
健全な母体と子供を保存する理由からですが、何の事は無い…その実態は民族淘汰です。
これを適用して「ハンセン病」「結核病」患者、「知能障害者」を隔離した惨い法律でした。
劣る者を社会の邪魔者にする優勢思想は、最近では「やまゆり園無差別大量殺人」を引き起こしました。その背景には、お国の役に立つ男子=兵隊を尊んで来た日本人の黒い闇があります。
その誤った思想が、今日の結婚出来ない男子に繋がったのは、何とも皮肉な話ですよ。
#4700[2016/08/20 19:27]  sado jo  URL 














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