シムーン第二章 ~乙女達の祈り~

「▼シムーン第二章 ~乙女達の祈り~」
シムーン第二章 ~乙女達の祈り~ 小説本編

乙女達の祈り 第7話 【異郷】その6

Simoun 堕ちた翼02

 カイムとアルティの姉妹に孤児院を預けると、パライエッタは礁国へと旅立った。
 礁国へ行くには、宮国の港から海峡を越えて、南の対岸にある軍事工業都市のクロム隗市に渡るのが一番早い。
 だがパライエッタは、あえて宮国の国境にある細長い山道を抜けて、礁国へ入る山越えのコースを選んだ。
 昔、キャラバンの隊商が使っていたこのルートは、宮国と礁国と嶺国の国境線が引かれてからすっかりさびれてしまっていた。
 けれども、パライエッタは陸路を旅しながら礁国の事情をつぶさに見ておきたかった。

 大空陸は、変形したS字のような形をしている。宮国はそのS字が大きくカーブする中間に位置する小国だ。
 北は嶺国に発し、南は礁国北部に達するアルトゥム山脈は、宮国の国境付近で急激に細くなって陸の橋となっている。
 大昔、その一帯は幾重にも山々が連なる広大な大地が広がり、三国が交わっていたそうだ。
 だが、ある事件が起きて大地が海の中に沈み、わずかな山地を残して、三国を隔てる海峡ができたと言われる。
 宮国は、陸橋のすぐ北で嶺国と陸続きで接し、細い陸の回廊と海を望んで礁国とも隣接している。
 二つの大国に挟まれたこんな小さな国が、これまで自主独立を保ってきたのには訳があった。
 大空陸に文明をもたらした伝説の神の民が舞い降りた神聖な地がシムラクルム…つまり、今の宮国だったからだ。
 その神の民が作ったシムーンとヘリカル・モートレスと言う謎の空飛ぶ機関こそが、宮国を特別な国にした。

 シムーンは二つの車輪状の機関が対をなす飛行艇で、片方は空間を操り、もう片方は時間を操ると言われる。
 だが、その構造はベールに包まれたままで、ヘリカル・モートレスを解析する事は、宗教上のタブーとされている。
 当の宮国の人々でさえ、なぜシムーンが燃料もなしに空を飛ぶのか?なぜリ・マージョンが不思議なエネルギーを放つのか知らない。
 ところがその一方で、ヘリカル・モートレスの模造品であるシミレを作り、飛空船や列車などの様々な交通機関に使った。
 模造品であるシミレは空間だけを操作する一輪構造で、、わずかな燃料で動く事から、効率の良い省エネ機関でもあった。
 しかし、大空陸の文明が発達するにつれて、他の国々は宮国にヘリカル・モートレス技術の輸出を求めてきた。
 けれども、宮国の宗教的権威の失墜を恐れる代々の為政者たちは、にべもなく他の国々の申し出を拒絶し続けた。
 宮国は次第に孤立を深め、本格的な戦争が始まった時には、もう宮国に味方する国は一国もない有様だった。
 国家の権威と伝統に執着する為政者たちは、誤りを犯し、宮国の国民に塗炭の苦しみを味あわせてしまった。
 そればかりか、神国だと言いながら、肝心の神に仕える巫女たちを戦争に駈り出し、たくさんの乙女を戦死させた。
 宮国の国民の悲劇も、パライエッタたちシムーン・シュヴィラの悲劇も、避けようと努力すれば避けられたはずだった。
 他国にも非はあるとは言え、なぜ宮国の為政者たちは、周辺諸国と協調して生きる道を選べなかったのだろうか?
 こうして、一度悪い方向へ転がりだした車輪の輪は、さらなる悲劇を生む事となっていったのだった。

~続く~

にほんブログ村 小説ブログへ
クリックをお願いします
 
関連記事
スポンサーサイト
 関連カテゴリ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼シムーン第二章 ~乙女達の祈り~
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼未来戦艦大和
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼ビーストハンター
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼地球年代記 ~カルマ~
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼まぼろし
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼やさしい刑事
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼幻影の艦隊
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼その他の小説
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼シムーン第二章 ~乙女達の祈り~
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼未来戦艦大和
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼ビーストハンター
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼地球年代記 ~カルマ~
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼まぼろし
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼やさしい刑事
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼幻影の艦隊
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼その他の小説
もくじ  3kaku_s_L.png オリジナル詩集
もくじ  3kaku_s_L.png 随想/論文集
もくじ  3kaku_s_L.png 死とは何か?
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  ↑記事冒頭へ  
←命とは何なのか?(3) ~千の風になって世界を包むもの~    →乙女達の祈り 第7話 【異郷】 その5
*Edit TB(0) | CO(6)

~ Comment ~


伝統に執着するということは進化を拒むことでもありますね。
他の国がそれを手に入れて進化したい気持ちはわかりづらいでしょう。
同じように日本の技術を手に入れたい国も多いかと。
ただ創作活動をやってると個人的には参考にしたい部分は取り入れ
その他は自分で研究するものだと思ってしまいますね(笑)。己の技術ですから。
#4767[2016/09/10 08:42]  西條すみれ  URL 

Re: すみれ様COありがとうございます^^

> 伝統に執着するということは進化を拒むことでもありますね。
> 他の国がそれを手に入れて進化したい気持ちはわかりづらいでしょう。

伝統は、特定の国家や民族が育んだものですが、ともすれば右翼思想に陥りやすい。
誇りを持つのは悪い事ではないが、他を見下して差別する様な態度は争いを生みます。
国家の優位性を保とうと、何かを隠すと他国はそれを知りたがるものです。
アメリカの核技術がいい例で、北朝鮮やイランに盗まれて今や災いの元になってます><
#4768[2016/09/10 10:59]  sado jo  URL 

こんにちは~♪
神話の世界の話を伝統だと信じ込み、その伝統意識にしがみついて大失敗を犯した日本もまた同じ過ちをくり返そうとしていますが、国を構成している民が気づかないと悲劇の繰り返しになりかねませんね(*^^)
#4769[2016/09/10 17:03]  まり姫  URL  [Edit]

Re: まり姫様COありがとうございます^^

> 神話の世界の話を伝統だと信じ込み、その伝統意識にしがみついて大失敗を犯した日本もまた同じ過ちをくり返そうとしていますが、国を構成している民が気づかないと悲劇の繰り返しになりかねませんね(*^^)

神話と歴史の現実は異なります…天皇が万世一系でない事は学会の常識になってます。
例を挙げれば、天智天皇の家系は天武天皇が起したクーデターによって絶えてます。二人を兄弟の如く描いているのは天皇家を美化する為のただの神話なのです。
陵墓を発掘すればDNA鑑定で判明します。それを宗教的権威でさせない日本政府は異常です。
英国は歴代の王統が科学的調査によって、キチンと判明し、神話ではない歴史があります。
日本人だけですよ…科学的調査を拒んで、未だにおかしな皇国史観を煽る者がいるのは><
女王が女王である様に、天皇は天皇…最も、英国人は王家を戦争の道具にはしません(笑)
#4770[2016/09/10 18:03]  sado jo  URL 

欲しいので、力で奪う。
他の国より、優位に立ちたいから、与えられない。
それは、誰のために、するのでしょうね。
国民のため、て言いながら、多くは、権力層のために。
保身とか、利権とか。
いつになったら、人は、進歩するのでしょう・・・

かしこ
#4771[2016/09/11 09:36]  みかんゼリー  URL 

Re: みかんゼリー様COありがとうございます^^

> 欲しいので、力で奪う。
> 他の国より、優位に立ちたいから、与えられない。
> それは、誰のために、するのでしょうね。
> 国民のため、て言いながら、多くは、権力層のために。

権威や権力は、それがないと立場が保てない鎧の様なものです。
鎧を剥ぎ取ったら、その人は誰なのか?その国は何なのか?何が残るのか?
肝心の人間が空っぽでは、技術も、伝統も、宗教も人間の害にしかなりません。
詰まる所、最期には剥き出しの武力にものを言わせる…現に世界はそうなっていますね><
#4772[2016/09/11 11:50]  sado jo  URL 














管理者にだけ表示を許可する

~ Trackback ~


  ↑記事冒頭へ  
←命とは何なのか?(3) ~千の風になって世界を包むもの~    →乙女達の祈り 第7話 【異郷】 その5