シムーン第二章 ~乙女達の祈り~

「▼シムーン第二章 ~乙女達の祈り~」
シムーン第二章 ~乙女達の祈り~ 小説本編

乙女達の祈り 第7話 【異郷】その7

近い戦争A

 宮国と礁国をつなぐ唯一の陸路である回廊の山地には、クルメン族という山岳民族が住んでいる。
 その昔、宮国と礁国と嶺国の通商を担っていたキャラバン隊のガイドをしていた彼らがどこから来たかは定かではない。
 ただその風俗や宗教が、礁国のアリメンタ採掘事業によって、平野から山地に追われた礁国北部の人々によく似ている事から、元は同じ民族だったのではないかという説もある。
 だとしたら、大空陸の歴史の変遷に深く関り、後に宮国王をも務めた伝説の王族の末裔だと言う事になる。
 彼らはピラミッドをご神体として祀る…その形が山に似ている事から、かっては山岳信仰の一種だと思われてきた。
 だがその宗教教義は宮国のそれと酷似していて、さらに宮国に伝わる伝説では、神の民はピラミッドに住んでいたと言う話もある事から、大昔の時代の名残を残しているのではないかと思える。

 その山地に宮国と礁国と嶺国が国境を設けてからは、彼らはそれぞれの国に国境警備兵として雇われた。
 だが、元々国境などと言う概念のない彼らは、上官が目を離すとすぐに寄り集まって一緒に酒を飲み、歌ったり踊ったりする。
 あまり欲のない人たちなので、わずかなお土産を持っていって渡せば、どこの国の人でもすぐに国境を通してしまう始末だった。
 案の定警備兵は、パライエッタが土産に持っていった宮国産の果実酒を受け取ると、喜んで回廊の出口まで案内してくれた。
 山道を抜けて礁国に足を踏み入れたパライエッタは、すぐに奇妙な息苦しさを感じた。なぜか周りの空気が濁りを帯びていた。
 行き交う人を捉まえて道を尋ねたが、ものうげな返事が返ってきただけで、まるで生きながら死んでいるようにさえ見えた。
 北部の都市に向って行く途中に立ち寄った町で水を分けてもらったが、舌を刺すような味がした。
 そして、海岸沿いの道路を歩いて行くと、あちこちに砲台や飛行爆弾の陣地が築かれているのが見えた。
 それは、礁国が国を挙げての戦争の真っ只中にある事を否応なしに実感させるものだった。

 歩き続けたパライエッタは、ようやく礁国北部の大都市であるクロム隗市にたどりついた。
 海を隔てて宮国を望む隗市は礁国の重要な軍事拠点であり、北部最大の工業都市としても名高い。
 つい最近も、嶺国が艦隊とシムーン隊を送り込んで攻略を試みたが、嶺国軍の反撃に遭って全滅したばかりだった。
 隗市の市街にはたくさんの工場が立ち並び、その煙突からは真っ黒い煙が吐き出されていた。
 そして、家々の屋根や壁はばい煙ですすけ、大気は汚れていて目をチリチリと刺した。
 隗市に入ったパライエッタは、濁った空気に閉口しながらもひとまず宿を探すために街の中を歩いた。
 と…その時、どこからか耳慣れたシクラクルム語が聞こえてきたような気がした。
(もしや、宮国から来た人がいるのではないか?)と思ったパライエッタは、声のした方に向かって歩いた。
 すると、行く先に柵を巡らした工場があって、門の前には銃を構えた礁国の兵士が立っていた。
 パライエッタは、兵士に見つからないように工場の横の柵からそっと中をのぞこうとした。
 だが、その途端に誰かに腕を掴まれた。

~続く~

にほんブログ村 小説ブログへ
クリックをお願いします
 
関連記事
スポンサーサイト
 関連カテゴリ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼シムーン第二章 ~乙女達の祈り~
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼未来戦艦大和
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼ビーストハンター
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼地球年代記 ~カルマ~
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼まぼろし
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼やさしい刑事
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼幻影の艦隊
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼その他の小説
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼シムーン第二章 ~乙女達の祈り~
もくじ  3kaku_s_L.png ▼ゴジラ奇譚
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼未来戦艦大和
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼ビーストハンター
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼地球年代記 ~カルマ~
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼まぼろし
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼やさしい刑事
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼幻影の艦隊
総もくじ 3kaku_s_L.png ▼その他の小説
もくじ  3kaku_s_L.png オリジナル詩集
もくじ  3kaku_s_L.png 随想/論文集
もくじ  3kaku_s_L.png 死とは何か?
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  ↑記事冒頭へ  
←乙女達の祈り 第7話 【異郷】その8    →人間の証明は偉大な国家の証明
*Edit TB(0) | CO(6)

~ Comment ~


なんだかこのままだと敵の侵入を許したことか環境汚染かで滅んでしまいそうですね。
まあ、国境なんて人間が勝手に決めたものであってもともとは存在しないんですが
まるで猿の縄張りですね。と思う一方で国境や県境に住みたい気持ちはあります(笑)。
家の半分で国や県が違ったら面白そうかなと。
#4805[2016/09/22 09:59]  西條すみれ  URL 

Re: すみれ様COありがとうございます^^

> なんだかこのままだと敵の侵入を許したことか環境汚染かで滅んでしまいそうですね。
> まあ、国境なんて人間が勝手に決めたものであってもともとは存在しないんですが

原作を見ると、大空陸の大国 アルゲントゥム礁国はアメリカと中国を合わせたような覇権国家で、双方の悪い特徴がモロに出ていました。吸い取る相手を失えば自滅するかもですね(笑)
一方の大国 プルンブム嶺国もロシアとヨーロッパを合わせた様な国家で、寒冷地にあって、やたらプライドが高くて伝統と権威を振りかざす強権国家に設定されてました。
こんな両国に挟まれて、何とか独立を保って来たのが主人公達のシムラークルム宮国になります。国家のモデルは言わずと知れる(笑)何だか身につまされますよね~
国境や県境と言う概念は妙なもので、家のすぐ側に学校があっても境界線が邪魔してそこには通えない。遠く離れた学校に行かなきゃならない。同じ民族なのにおかしいでしょ(笑)
#4806[2016/09/22 11:08]  sado jo  URL 

争いは民族間、宗教観、貧富の差、国家権力の強弱といずれも人間の性が誤った方向に向かうと悲劇をもたらしますね。
全てに差別や境界線をつくらない人間同士の努力が必要ですが、その羅針盤は人間の努力によってしかもたらすことは不可能でしょう。
どんな精巧な道具も最終的には人間のなせる技で、人間が使わなければ機能しないことは明らかなのですが、どこかのバカ首相は・・・・・・
#4807[2016/09/22 16:43]  まり姫  URL  [Edit]

Re: まり姫様COありがとうございます^^

> 争いは民族間、宗教観、貧富の差、国家権力の強弱といずれも人間の性が誤った方向に向かうと悲劇をもたらしますね。

人が争う為の大義名分は様々ですが、詰まる所、人の欲得に起因します。
身分や国境を設けて人と人を線引きするのも、自分だけが得をしたいから。
誤ったサガと言うより、知性を持つ人間に進化したのに獣の本能が抜け切れてない。
知性を役に立てないなら宝の持ち腐れ…持つだけ無駄と言う事になりますね(笑)
#4809[2016/09/22 19:09]  sado jo  URL 

一説によれば、人類は大脳という極めてハイスペックな機能を内蔵していながら、その機能を1%も使えてないらしいです

※2〜3%使えれば天才やら鬼才、20%近く使えれば霊能力者って言われるぐらいで、そんな人たちはごく少数派なので、推して知るべしかと

なので、猿には失礼ですが、やっぱり人類も猿から脱し切れていないんでしょうね

いわば猿の亜種なのかとw
#4812[2016/09/24 16:44]  blackout  URL 

Re: blackout様COありがとうございます^^

> 一説によれば、人類は大脳という極めてハイスペックな機能を内蔵していながら、その機能を1%も使えてないらしいです
> ※2~3%使えれば天才やら鬼才、20%近く使えれば霊能力者って言われるぐらいで、そんな人たちはごく少数派なので、推して知るべしかと

7つも8つもコアを備えていながら、使いこなせない下手なパソコンユーザーと同じですね。
ま、人間もそんなもんす…人類全員が覚醒して聖人になったら神の世界になっちゃいます。
逆に言えば、バカや悪人がいるから小説が書ける…失業するのはイヤですからね~
お互いに覚めた目で「猿の惑星」に住んでいる人間もどきの猿を観察しましょうか(笑)
#4816[2016/09/24 17:15]  sado jo  URL 














管理者にだけ表示を許可する

~ Trackback ~


  ↑記事冒頭へ  
←乙女達の祈り 第7話 【異郷】その8    →人間の証明は偉大な国家の証明