シムーン第二章 ~乙女達の祈り~

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シムーン第二章 ~乙女達の祈り~ 小説本編

乙女達の祈り 第4話 【境遇】 その5

飛行爆弾
群れをなして押し寄せて来る礁国の飛行爆弾

 ネヴィリルはそう言うと、ディステルとファイルヒェンを連れてナルテッセとカメリアの所に行った。
「ちょっと、ナルテッセ。一回だけファイルヒェンに席をゆずってあげてくれない?」
「いいですよ、ネヴィリル教官」
 ナルテッセはそう答えて、ファイルヒェンにアウリーガの席を譲った。
 シムーンが空に舞い上がると、カメリアは緊張しているファイルヒェンにやさしく声を掛けた。
「焦らないでいいからね~…ゆっくりターンして、それからスピンするのよ。大丈夫、私が合わせてあげるから」
 カメリアのナビゲーションで気持ちが楽になったのか?ファイルヒェンは見事にリ・マージョンを決めた。
 それを見ていたネヴィリルは、諭すようにディステルに言った。
「ね…前にも言った通り、あなたのパルには操縦の才能があるわ。一回で成功させたじゃない」
「だけど、私とやる時はいっつも失敗ばかりしてるんです」ディステルは、腑に落ちないと言う顔をした。
「あなた次第じゃないかしら?…あなたはとても決断力はあるんだけれど」
「上から目線で言われるから、あの子が縮こまちゃって本当の力を発揮できないんじゃないのかな~」
 そう言われても、ディステルはまだ納得がいかないようだった。
「だって、私が付いてないと頼りなくって」
「大丈夫だよ…伸び伸びとやらせてあげて、困った時には助けてあげたら」
 ディステルは、アーエルとネヴィリルにそう言われてようやく反省したようだった。

 何事も上手にできるようになると楽しくなるもので、それぞれのパルはリ・マージョンの種類を増やして行った。
 そうして次第に少女たちは、美しい軌跡を描きながら、効果範囲の広いリ・マージョンを繰り出せるようになった。
(翠玉のリ・マージョンを教える時が来たようだ)ネヴィリルは、すっとその事を考えていた。
(自分たちが翠玉のリ・マージョンを使ってやって来た旅を無駄にしてはいけない。誰かに伝えておかなくてはならない。
それに、あの地下神殿で見た七つの翠玉のリ・マージョン…あれには、何か重要な意味が隠されているに違いないはずだ。
たとえ、意味がないとしても教えてさえおけば、この子たちは自らの手で、自分たちの運命を変えられるかも知れない)
 翠玉のリ・マージョンに失敗し、アムリアと言うパルを失って痛手を負った経験のあるネヴィリルは、慎重に考えた。
「さあ、みんな集まって~…今日から新しいリマージョンを教えます」
 ネヴィリルはそう言うと、地面の上に図形を描いて見せてみんなにもまねをするように言った。
「これは何のリ・マージョンなんですか?」
「このリ・マージョンはどんな効果があるんですか?」
「今は詳しい事は言えないけど、覚えておくと必ず役に立つリ・マージョンよ」ネヴィリルは言った。
「でも、これはとってもむずかしいリ・マージョンだから、しっかり図形を覚えてね」アーエルが言葉を付け足した。
 そんな風にして、アーエルとネヴィリルは、少しづつみんなに翠玉のリ・マージョンを教えていった。

 そんなある日の事、遺跡の上を飛んでいたコール・ブルーメの少女たちは、空の彼方に奇妙なものを見つけた。
「何だか遺跡のず~っと南に黒い塊が見えるよ」と急にレーヴェンが言い出した。
「雨雲かなあ?でも、雲にしてはちょっと動き方が変じゃない?」キルシュも不審がった。
「何だか気になるわね…みんなで魚影のリ・マージョンを試してみましょう」
 ネヴィリルの合図で、全員が遠くにある物体を探知する魚影のリ・マージョンを行なった。
 シムーン宮に現れたその影は、こちらに向かって押し寄せてくる飛行物体の群れだった。
「敵だよっ!あれは礁国の飛行爆弾だ」イリスが叫んだ。
「首都に向かってるわ。すぐに知らせて!」
 ネヴィリルにそう言われて、ハイデローゼはただちに、無線で首都防空隊に緊急事態を知らせた。
 その間にも礁国の飛行爆弾は、群れをなして遺跡の上空に近づきつつあった。
「間に合うかなぁ~」みんながそう心配していると、首都の方角からシムーンの一団が飛んで来た。
「やっと来たよ。首都防空隊が…間に合ってよかった~」少女たちは、ほっと胸を撫で下ろした。
 駆け付けてきたブリュンヒルデは、コール・ブルーメを見ると退避するように合図をした。
「知らせてくれて礼を言うわ。けれどもあなたたちは手出ししないで…どうせ武装してないんだから」
「言われなくても分かってるわよ!」プライドの高いオルヒデがムッ!としてつぶやいた。
 コール・ブルーメは仕方なく下がって、ブリュンヒルデの首都防空隊が、飛行爆弾を次々と落とすのを見ていた。
「向こうの方からもやってくるわよ!」ディステルが新たな飛行爆弾の群れを発見した。
「でも、何だか変ね?…ふわふわしながら飛んでるわよ」カメリアが首をひねった。
 さっきの飛行爆弾を片付けたブリュンヒルデたち首都防空隊は、すぐに新たに現れた目標に向かって飛んで行った。
「あれはデコイだよ…戦力を分散させるための罠だっ!」正体を見破ったイリスが言った。
「だめだっ!ブリュンヒルデ。そっちに行っちゃぁ」アーエルが叫んだ。
 けれども、ブリュンヒルデ率いる首都防空隊は、相手がデコイとは知らずに飛び去って行ってしまった。
「あっ!山の向こうからも来るよ…すごい数だよ」
 ファイルヒェンの指差す方角からは、ひときわ大きな飛行爆弾の群れがこっちにやってきていた。
「あれが本物だわ」ネヴィリルが言った。
「どうしよう…武器もないし、これじゃぁ防げない」
「あるよ…シムーンにしかない武器がっ!」オロオロしている少女たちにアーエルは言った。
「リ・マージョン!」全員がアーエルが言った言葉の意味を理解した。
「一か八かやってみるしかないわね」そうネヴィリルが言った。
「みんなで呼吸を合わせて~…さぁ、行くよっ!」アーエルは、少女たちに合図した。
 全員のシムーン宮が鉄のリ・マージョンの航跡を描き出し、七機のシムーンが揃って上空に駆け上がった。
 散開しながら急降下して大きなジグザグ模様を描き出し、航跡がゆっくり回転する中を、全機が一気に上昇して突き抜けた。
『6+1 鋼鉄のリ・マージョン!』
 次の瞬間、鋼鉄のリ・マージョンの航跡からは目もくらむような閃光が放たれた。
 辺り一面に広がった閃光は、たちまち飛んで来た礁国の飛行爆弾の群れを飲み込んだ。
 同時にバリ!バリ!バリッ!と雷鳴が轟くような音がして、一瞬にして飛行爆弾は完全に消滅してしまった。
「やった~っ!」
「届いたよ~!すごい威力だ」
「本物のリ・マージョンだね!」少女たちは踊り上がって喜んだ。
 敵にだまされたと知ったブリュンヒルデの首都防空隊が戻ってきた時には、すでにすべてが終わっていた。
「手出しはするなと言ったのに~」ブリュンヒルデは不服そうに言った。
「ごめんなさい。間に合いそうもなかったから」アーエルはそう言って謝った。
「まぁ、いいわ…借りを作ったとは思ってないから」ブリュンヒルデはツンとして言った。
「えぇ、私たちはただリ・マージョンの練習をしただけです」ネヴィリルは平然としていた。
 ブリュンヒルデは礼も言わずに、不機嫌そうな顔をして部下を連れて去っていった。
「でも、あんなに飛行爆弾がくるって事は、やっぱり嶺国は戦争に負けているのかしら?」
「宮国北部の占領地にある町が、幾つも敵に奪われた…って聞いたわ」
「今頃、最前線じゃぁ私たちの仲間が…」
 コール・ブルーメの少女たちは、それぞれに思いを巡らせた。

 そう…彼女たちが遺跡で訓練を続けている間にも、最前線では大勢のシムーン・シュヴィラたちが空に散っていた。
 コール・ブルーメの少女たちが考えた通り、嶺国にとって戦局は悪化の一途をたどり続けていたのだ。
 そして、彼女たち自身もまた否応なしに過酷な戦争へと巻き込まれていく事になるのだった。

第4話【境遇】終了→ 第5話【正邪】へと続く

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