シムーン第二章 ~乙女達の祈り~

「▼クロニクル ~カルマ~」
クロニクル ~カルマ~ 小説本編

クロニクル ~カルマ~ 第7話 「人魚姫」 (14)

人魚姫14

 それから医師と看護師と、患者の死との闘いが始まった。
 野々村は一時も手を休める事なく、交互に赤ん坊と少女の手当てを続けた。
 小此木は足に巻いた包帯から血を滲ませながら、診察台の間を行ったり来たりした。
 ケンタとマコトはそんな医師と看護師をただ黙って見守るしかなかった。
 何もできない自分たちをとっても無力に思った。

「君たちは疲れてるだろうし、空いてるベッドで休んでいたまえ」

 そう野々村に言われても、必死にがんばっている二人を見るととても休む気にはなれなかった。
 だが、そんな医師と看護師の奮闘にも関らず、赤ん坊と少女の容態は悪化の一途をたどった。
 いくら手当てしても助かる見込みの無い事は、素人が見ても明らかだった。
 それでも、野々村は停止した患者の心臓を汗だくになりながらマッサージした。
 小此木は、自分の足の痛みさえ忘れて献身的に患者を介抱し続けた。

(見ず知らずの人間のために、なぜこれほど必死になれるのだろう?それが仕事だから…いゃ、そんなものを超えている)

 そう思うとマコトはいたたまれなくなった。
 気がつくと、いつの間にか途切れ途切れに息をしている少女の手を握っていた。
 それが、これから死のうとしている彼女にしてやれるたった一つの事だった。
 心なしかマコトには、少女が手を握り返して微笑んだように見えた。

 夜が白々と明け掛かる頃、赤ん坊と少女は息を引き取った。
 母親は、被爆して焼けただれた赤ん坊の身体を撫でながら泣いていた。
 小此木がそんな母親の肩にそっと手を置いた。
 振り返った母親は、小此木に身体を預けて泣きじゃくった。
 
 闘いは終わった。
 患者の死を見届けた野々村は、ソファーに倒れ込むように横になった。
 小此木は、赤ん坊と少女の顔に白布を掛けると、母親を促して別室に行った。
 ケンタとマコトも疲れた身体を空いているベッドに横たえた。
 そして、夜が明けかけているのも忘れて二人は泥のように眠り込んだ。

~続く~

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~ Comment ~


我が家の近くには大病院があるのでよく救急ヘリが出入りしてますが
一方で病院をたらい回しにされて死んでしまうケースもありますね。
忙しいのは仕方がないとしても、緊急事態の患者をこうも受け入れ拒否するか。
そうでなくとも病院はとにかく時間がかかる。
#5817[2017/04/20 09:10]  西條すみれ  URL 

ああ、やはり耐えられませんでしたか。
描写と経緯から覚悟はしていましたが、やはり子供が死ぬ話はフィクションでも辛いですね。
この後どうなるのか、サブタイトルにはどうつながっていくのか期待しています。
#5819[2017/04/20 13:35]  椿  URL 

一部の人間の狂気が人類の子孫の繁栄を阻害したばかりに水から人類の子孫が残せるチャンスを摘み取るとはあまりにもお粗末ですね。
今も大国の思い上がりの論理で核戦争になりかねない危険な駆け引きをしていますが、この流れを止められるはずの日本政府のリーダーがファシスト礼賛者では小説の世界でとどまらない可能性すら容易に想像できます。
#5820[2017/04/20 17:15]  まり姫  URL  [Edit]

Re: すみれ様COありがとうございます^^

> 一方で病院をたらい回しにされて死んでしまうケースもありますね。
> 忙しいのは仕方がないとしても、緊急事態の患者をこうも受け入れ拒否するか。
> そうでなくとも病院はとにかく時間がかかる。

まぁ、救急医療を行う病院は、戦場じゃなくとも戦争をやってる様なもんです(笑)
たらい回しはいけませんが、多分、医師も人手が足りずに手一杯なんじゃないかな?
病気や怪我の患者はどうしても身勝手になります…医者が歯がゆく見えるかも知れない。
医師をケースワーカーと勘違いしてる老人もいて、どうしても応対に時間が掛かる(笑)
#5821[2017/04/20 22:24]  sado jo  URL  [Edit]

Re: 椿様COありがとうございます^^

> 描写と経緯から覚悟はしていましたが、やはり子供が死ぬ話はフィクションでも辛いですね。
> この後どうなるのか、サブタイトルにはどうつながっていくのか期待しています。

シリアの戦場で、大怪我をした見知らぬ幼児を抱えながら、懸命に逃げ走るニュース・カメラマンの映像は衝撃的でした…その後、幼児が助かったのかどうかは分かりません。
戦場では子供や女性、老人といった弱い者から順に死んでゆきます。これほどの不条理はない><
「人魚姫」のタイトルはある意味こじつけた部分もありますが、もしこんな惨い日常が夢であれば…いゃ、もしかしてこれは人魚姫が夢で見た人間社会の物語かも知れませんよ(謎笑)
#5822[2017/04/20 22:42]  sado jo  URL  [Edit]

Re: まり姫様COありがとうございます^^

> 今も大国の思い上がりの論理で核戦争になりかねない危険な駆け引きをしていますが、この流れを止められるはずの日本政府のリーダーがファシスト礼賛者では小説の世界でとどまらない可能性すら容易に想像できます。

確かに危険な状況です…中ロの首脳は、米国がどこまで我慢するか?挑発して試してます。
もしアメリカ人が堪忍袋の緒が切れて、トランプ氏を大統領に選んだのだとしたら危ない。
シリアでの巡航ミサイル攻撃も、米国人は喝采で迎えたし、北朝鮮への軍事的圧力も賛同の声が多かった…中ロの挑発が過ぎて、米国民を怒らせてしまったらゾッとする事になりかねないですよ><
#5823[2017/04/20 22:56]  sado jo  URL  [Edit]

>(見ず知らずの人間のために、なぜこれほど必死になれるのだろう?それが仕事だから…いゃ、そんなものを超えている)

個人的には使命感な気がします
いわば神から仰せつかった意思、愛憎なんていう言葉で言えてしまうような安っぽいものではなく

まぁ、病院と状況は違いますが、クレーム対応もこれに近い気がしますね
当事者は語るではないですが、ホントに戦争をやってる感じですよw

そんな中自分は全身から冷たい空気を発しながら急所を見極め、確実に、且つスピーディーに獲物を仕留めてますw

人手不足はもちろんあると思いますが、下手くそが多すぎるっていうのがそもそもの原因かなと思います
だから無駄に時間がかかって、それが色んなところにしわ寄せがきてるんじゃないかなと
#5826[2017/04/22 16:06]  blackout  URL 

Re: blackout様COありがとうございます^^

小説の様に、何時間も立ちっ放しで懸命に患者を救おうとする医療現場だから美しく感じます。
でも元々人間は、何かに没頭すると、計算や利益を度外視して成し遂げ様とする性質があります。
自分も小説を書くのに没頭すると、どんなに疲れていても身体が勝手に動いている事があります。
口ではうまく言い表せないが、自分以外の何者かに突き動かされている感じと言ったらいいのか?
それで、特攻兵の心境が何となく分かりました…負けるのが分かって、死ぬのが分かっていて、それでも最期までやり遂げないと、自分の全てが否定されてしまう…これはもう生死を超えている。
特攻兵や兵隊は悪くない…むしろ、人間の性質を計算ずくで利用した大本営やナチスが悪いです。
#5827[2017/04/22 17:28]  sado jo  URL 














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