シムーン第二章 ~乙女達の祈り~

「▼まぼろし」
まぼろし 小説本編

まぼろし 第3話 「亡霊 」 (2)

ナチス01

「誰だっ!外にいるのは」S大統領補佐官の威嚇するような声がした。
「はっ!クークラであります。お呼び出しを受けてまいりました」
 クークラは、あわてて廊下に落ちた書類を拾い集め、冷静さを取り繕いながら言った。
「何だ、クークラ君か。入りたまえ」S補佐官が、クークラを部屋に招き入れた。
 クークラが、ドアを開けて薄暗い部屋に入ると、P大統領が声を掛けて来た。
「よく来てくれたクークラ君。この度は気の毒だったねぇ~」
「はい、お気を使っていただきありがとうございます。大統領閣下」
 そうは言ったものの、彼はP大統領のお悔やみの言葉を、なぜか不審に思った。
(ワーニャの事は、まだ誰にも話していないはず…なぜ、大統領はワーニャの死を知っているんだろう?)
「まぁ、遠慮せずに、そこに掛けたまえ」
 P大統領が、側近の間の空いている椅子を指差して言った。
「はいっ!それでは、失礼ながら座らせていただきます」」
 クークラは、P大統領に言われるままに、その椅子に腰掛けた。
「クークラ君。どうやら、君は我々の話を聞いてしまったようだね」P大統領が言った。
「いぇ、そのような事は…私はただ」クークラは少しばかり狼狽した。
「まぁ、いい…いずれ君にも話しておかなきゃならない事だ」
「はっ!何でありましょうか?」P大統領にそう言われて、クークラは姿勢を正した。
「1911年の事だが…ルーマニアを旅行中のオーストリアの画学生が、ある洞窟の中から一つの棺を見つけた」
「1911年ですか?…100年以上昔の話になりますね~」
「棺の中の遺体は朽ち果てていたが、中には美しい宝石が入っていた…そして、その宝石は生きていたのだよ」
「はぁ?…宝石が生きていたのでありますか?」
「美しいものに目が無い画学生は、その宝石…いや、その生き物を手に取った」
「画学生は、その宝石を盗んだのでありますか?それとも何か生き物を…私には何がなにやら?」
「分からんかね?クークラ君。その画学生が誰だったのか?」
「はぁ、私にはさっぱり…?」
「後のナチス総統、アドルフ・ヒットラーだよ」
「アドルフ・ヒットラー!…ですか?」
 クークラが見上げたP大統領のデスクの背後には、高々とハーケンクロイツが掲げられていた。
「そうだ!そして、人間に寄生して生きるその美しい生物は、血液中のアミノ酸を摂取する。それも大量にだ!」
「何と恐ろしい!そんな生物がこの世に居るなんて…」
「寄生された人間は、その生物に血液中のアミノ酸を取られる。だから疲れてしまって長い間眠らなきゃならん…そうして、目が覚めたら、他の人間の生き血を吸うために出掛けて行くのだ」
「まるで、伝説に聞く吸血鬼みたいですね~」
「1945年、ベルリンでヒットラーの遺体を見つけたソビエトは、傍らにあったその宝石を持ち帰った」
「そんな恐ろしい生き物をロシアに持ち帰ったんですか?」
「そうだ。そして…その宝石のように美しい生き物は、今私の中にいる。ここにいる他のみんなの中にもね」
「まさか!ワーニャを殺したのはあなたか?」
「やっと気が付いたかね…ウクライナのヤヌコビッチは素材が悪すぎた。だが君は頭も良く、我々の同士にするのにとても相応しい素材だ」
 そう言うと、P大統領は椅子から立ち上がって、ジワジワとクークラに近づいて来た。
「いやだっ!僕はあなたの同士なんかになるのはいやだっ!」
「不死の体になれるんだよ。金も手に入る。権力だって…私のようにね」
 クークラは、差し出してくるP大統領の手を振り払って、部屋の外に逃げ出そうとした。
 だが、ドアはガチャリと閉じられた。
「開けてくれっ!誰かドアを開けてくれ~!」クークラは懸命にドアを叩いた。
「無駄な事はよしたまえ。クークラ君」
 ニヤニヤ笑いながらそう言ったP大統領の顔は、まさにあのファシストの顔だった。
 周りに居た大統領の側近たちが、ドアを背に呆然と立っているクークラを、取り囲むようににじり寄って来た。
 それは、あのナチスのゲッベルスであり、ローゼンベルクであり、ヒムラーやゲーリングやデーニッツだった。
「いやだ!いやだっ!やめてくれ~!」
 意識が朦朧として行く中で、クークラは虚しい叫び声を上げた。
 
 それから数日後、P大統領は、クリミア半島を完全にロシアに併合した。

 クークラ報道官は、集まって来たロシア国内外の報道陣を前に、P大統領のメッセージを読み上げた。
「これは我が愛するロシアの正義であり、ロシア国民の愛国的勝利である」と…

 遠い外国の事件だと思っているあなた。
 もうすでに、何かがひたひたと道をやって来ているかも知れません。
 手遅れにならない内に、何とか・・・

今は亡き 金城哲夫先生を偲んで…

※ この小説は異世界の出来事であり、実在の人物・国・地域とは何ら関係はありません。

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<作品の背景>
1938年、ナチスドイツがズデーデン(チェコ)を強引に併合した時、欧州列強はドイツの行為を黙認、アメリカは傍観いたしました。
これに勢いを得たナチスドイツは、東ヨーロッパ諸国を次々に併合し、やがてその牙をフランス・イギリスに向けたのです。
傍観していたアメリカが重い腰を上げた時は、すでに遅きに失してました。さて、今回はどう言う事になるのでしょうか?
どんな時代においても、ナショナリズムを背景に台頭して来るファシストは恐ろしいものです。

<余談>
ティモシェンコ
画像:2010年に失脚させられた、元ウクライナ首相「ユリア・ティモシェンコ」これ、ホントに首相?女優の間違いじゃないの?
(NEWSによると、長い間、親ロシア派の「ヤヌコビッチ政権」に監禁されてたそうですが、この度の政変で解放されたそうです)
う~ん…さすがは美人の産地ウクライナ。同国出身の『バイオハザード』の主演女優「ミラ・ジョモビッチ」も美しかったな~♪
 
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~ Comment ~


最近の話になりますが、フランスでは極右政党が台頭したとか。

ナチに関する資料を最近読みあさっていますが、ヒトラーって結構無能扱いされてるんですよね〜。敗戦間近の彼はまともな思考力を失っていたようですが。しかし、彼が現代にもたらしたものも多かったり。医療やアウトバーンや戦争の愚かさなどなど。ヒトラーって元々、スパイでドイツ労働党に潜入したのだけれども、見事に取り込まれてナチの完成。ヒトラーはオリジナリティに乏しいと詠んだ資料の中で結構言い表されてましたが、時代や運命が彼をそうさせたんじゃないかと。ヒトラーが居なくともヒトラーは出て来ていたような。
ただ、禁煙主義を根付かせたのは許せませんけど!(笑)

アメリカの傍観は世論が許さなかったんですよね。政治家達や当時大統領……ルーズベルトだったかな? は戦争したかったみたいですけど。

というような事を考えながら読みました。吸血鬼(?)としてヒトラー達が現代で何をもたらすのか、まで見たかった気もしますね。

長々と失礼しました。
#288[2014/06/01 12:42]  青井るい  URL 

Re: CO ありがとうございます^^

> ナチに関する資料を最近読みあさっていますが、ヒトラーって結構無能扱いされてるんですよね?。敗戦間近の彼はまともな思考力を失っていたようですが。しかし、彼が現代にもたらしたものも多かったり。医療やアウトバーンや戦争の愚かさなどなど。
> ヒトラーって元々、スパイでドイツ労働党に潜入したのだけれども、見事に取り込まれてナチの完成。ヒトラーはオリジナリティに乏しいと詠んだ資料の中で結構言い表されてましたが、時代や運命が彼をそうさせたんじゃないかと。
> ヒトラーが居なくともヒトラーは出て来ていたような。

政界でも財界でも、扱い易くて、人気の取れそうな人物をTOPに祭り上げると言う慣習があります。
歴史的に見ても上に立つ者は、ほとんど祭り上げられた人物で、本当の黒幕はその背後に居る事が多い。
第三帝国の野望の大元は、ナチスの実力者・ローゼンベルクやゲッペルス達ではなかったのかな~?
ヒトラー本人の著書「我が闘争」でも、上のナチス幹部達に相当の不満を漏らしています。
英雄はいつも哀れなものです。私なら陰に隠れてほくそ笑んでるでしょうが…(笑)

私はいつもTOPより、No.2、No.3で居る事を心掛けてます。その方が動き易いし、動かし易いから…
こんな汚い事を企んでる狸オヤジがいるから、世の中は良くならないのかも知れないな~(笑)
#289[2014/06/01 14:59]  sado jo  URL  [Edit]














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