シムーン第二章 ~乙女達の祈り~

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シムーン第二章 ~乙女達の祈り~ 小説本編

乙女達の祈り 第1話 【散華】 その4

古代シムーン01

 しばらく飛んでいると、ハイデローゼは目も開けていられないほど疲れている事に気がついた。
 極限の緊張状態が続いて、疲労困憊してしまっていたのだ。
 まだ気を抜けないと分かってはいても、身体が鉛のように重く、睡魔が襲って来て目の前が霞んでしまう。
 ハイデローゼは、眠ってしまわないようにイリスに話し掛けた。イリスからは、ひどくだるそうな返事が返って来た。
 普段なら『何事もどこ吹く風』の彼女も、さすがに疲れきっている様子だった。

 イリスは風変わりな子で、まるで男の子のように振舞う。でも私にとっては最高のパルだ。
 私とイリスは、性格も育ちもまるで違う。
 私は嶺国の首都・ヴィッセルに住む役人の子で、親の仕事柄か、生真面目な性格に育てられた。
(いや、決してイリスがルーズな性格だと言うのではないが)
 一方、イリスは、たくさんのシュヴィラを出している嶺国南部の商家に生まれ、自由な気風の中で育てられたらしい。
 小さい頃から家の手伝いをしていたとかで、そのせいか暗算がやたらと早い。それはサジッタにとっては重要な才能だ。
 お陰でイリスとパルを組んでからは、一度もシムーンの操縦をしくじった事がない。
 だが、イリスはその才能を大した事じゃないと思っているらしい。
 アウリーガとしてもいい腕前で、操縦が苦手だからサジッタをやっている訳でもない。
 自分からは進んでマージュ・プールに行って練習はしないが、私が誘えばついて来て、見事な軌跡を描く。
 思うに、イリスにとってシムーンに乗る事はお勤めで、特に好きな事ではないのだろう。
 だから、お勤めはさっさと済ませて、後は自分の好きな事をやるのがイリスの生き方なのだ。
 彼女は、音楽やダンスやファッションや、色んな事をして楽しむ。時には自分で衣装を作ったりもする。
 以前、イリスが私に中世の巫女装束を作ってくれた事があった。
 これがなかなかの出来栄えで、たくさんのフリルや美しいビーズの飾りが付いていて、今のよりずっと素敵だった。
 みんなに見せたらうらやましがって、その後イリスは大変だったらしい『私にも、私にもって…』
 そんなだから、一度イリスになぜシュヴィラになったのか?聞いた事がある。
 すると彼女は『好きな相手に巡り会えるって聞いたから』と、答えた。確かにパルを組んで一緒になる人は多い。
 聞いた話では、アニムスの教えがなかった昔は、好きな相手ができたら、それぞれが自然に男と女に分かれていたそうだ。
 でも、好きな相手ができない人は、身体が結晶化して消えてしまったらしい。
 それではいけないので、今ではみんながアニムスの前で成人の儀式を受けて、男になるか女になるかを決めている。
 好きな相手と言えば、私はガルトルートが大好きだった『好きで好きでたまらなかった』と、言った方がいいかも知れない。
 でも彼女には、すでにお相手を務める素敵なパルがいて、結局はあこがれ続けるだけで、私は最後にはイリスと一緒になるんじゃないかな?…なんて思ったりもしていた。
 恋焦がれると言うほどではないが、イリスは相性のいい相手だし、一緒になるのも悪くはない。
 多分私が女で、イリスがイリストルとか、イリスヒムなんて名前の男になって、シムーンに乗る時みたいに、私を上手に誘導するんだろうなって…
 きっと家の事は私にさせて、自分は仕事をさっさと片付けて、好きな事をして遊んでいるんだろう。
 そんな事を考えている自分が、とってもおかしかった。
 でも、その内ブリュムヒェンみたいな可愛い子が産まれて…そうだブリュムヒェン!
 あぁ、可哀そうなブリュムヒェン。何もしてやれなかった。どうする事も…
 マルギット、イルマ、クラリス、モーン、アンネリース、ベルダ、みんないなくなってしまった。大好きなガルトルート姉さまも…
 悲しい…たまらなく悲しい。死んでしまいたいほど辛い。
 イリスとみんなの事を話している内に、涙が止まらなくなってしまった。
 だめだ!挫けていちゃぁ…ガルトルートは私に『生きろ』と言い残して死んだ。ガルティ姉さまのためにもがんばらなきゃあ。
 もう少し飛べば、礁国の支配地域から出られる。そうすれば、何とか嶺国の前線基地までたどり着ける。

 すでに空は茜色に染まり、残照が哀しげな敗残兵の行列を照らしていた。
 その時、ふいに最後尾にいたイレーネが叫んだ。
「後方上空に機影らしきもの。こちらに向かって飛んで来ます!」
(しまった!あと少しの所まで来てて、敵に見つかるなんて)ハイデローゼはドキッ!とした。
 振り返って見上げると、後ろの空から光るものがこちらに向かって飛んで来ている。
(戦う力なんてもう残っていない。もしも見つかって仲間を呼ばれたら、全員が死んでしまう)
「私たちが行って注意を引き付ける…もし、私たちが帰らなかったら、みんなでそのまま嶺国の前線基地まで逃げて」
 そういい残すと、ハイデローゼはみんなから離れ、機首をひるがえしてシムーンを上昇させた。
 上空で待ち構える内に、敵機らしい機影がぐんぐんと近づいて来た。
(なんて早さだろう!でも、たとえかなわないまでも、私たちが囮になってみんなを助けなければ…)
「イリス、戦闘準備をして待機してて」
「OK!弾が残り少ないから、一発勝負だよ」
 とうとう、相手が見える所まで近づいて来た。機体には大きなヘリカル・モーターが二つ付いている.
(これはシミレじゃない、シムーンだ!宮国型のシムーンだっ!)
 嶺国が宮国から押収した可変ヘリカル・モートレスのシムーンは 操縦に熟練が必要で、ガルトルートのような上級の巫女にしか乗りこなせなかった。
 ところが、見える所まで近づいて来たその宮国型シムーンは、ふいにハイデローゼたちを避けるように方角を変えた。
 その一瞬、シムーンの機体に刻まれた『白百合の紋章』がハイデローゼたちの目に入った。
「まさか、本国からヴァルキュリア様が…?」
 その宮国型シムーンは、ハイデローゼたちには目もくれず、早いスピードで茜の空の彼方に飛び去って行った。
 突然現れ、去って行ったシムーンには、どこの誰が乗っていたのか?ハイデローゼたちには謎のままだった。

 どうしようもない完全な敗北だった。嶺国に衝撃が走った!
 無敵を誇ったノルムンド艦隊は全滅!王子は戦死!戦いの要だった多くのシムーンと、上位12神将の巫女の内4人までをも失い、戦局は完全に窮地に立たされた。
 王立議会総裁は解任され、内閣は総辞職し、占領地の総督や多くの現地指揮官が更迭された。

 第1話【散華】終了 → 第2話【帰還】へと続く

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