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シムーン第二章 ~乙女達の祈り~

棘(いばら)の記憶

棘の記憶 「記憶の始まり(4)」

棘04

 連合国太平洋方面軍総司令官のダグラス・マッカーサー元帥がやってきて、連合国軍最高司令官総司令部(G.H.Q)が設置されると、日本はその管理下に置かれた。
 今やすっかり立場の逆転した国内の民主派を初め多くの被害者の告発を受けて、特別高等警察の拠り所だった治安維持法は撤廃され、特高警察には解散命令が下された。
 そして、非合法な警察活動を行ってきた職員は公職追放処分に処せられた…父もその一人だった。
 昨日までは、日本の治安を守る要としてお国のために奉公してきた父たちは、一転、犯罪者に等しい身分に落とされたのだ。
 ところが…である。父たちに指令を出していた特高警察の幹部たちは、なぜかG.H.Qから裁かれる事はなかった。
 それどころか、多くの幹部は敗戦後の日本の治安を担う要職に任命され、G.H.Qの手先となって働いたのである。
 彼らはG.H.Qの意向を受けて、巷で頻発するデモや暴動を鎮圧し、台頭する社会主義運動を取り締まった。
 その功績により、政府の閣僚や高級官僚にまで登りつめた者もいるほどだった。

 父たちは裏切られたのだ。
 そうして、初めて父は自分が長い間騙され続けていた事を知った。
 一切の公職に就けなくなった父は、ここにきて家族を養う手段を失った。
 目の前には、度重なる空襲で一面焼け野原と化した東京の街が広がっていた。
 父もまた、知らず知らずの内に我が身を焼かれていたに違いない。
 行く当てのない父は、病弱な母と二人の妹を抱えたまま路頭に迷った。
 敗戦後の多くの庶民がそうであったように、日々の食事にさえ事欠く生活だった。
 父は食い扶持を稼ぐために、日雇いの肉体労働から闇市での物資の横流し、果ては、バクダン(*)密造の手伝いまでやった。

 (*)戦後、工業アルコールを混ぜて製造された密造酒。失明などの中毒症状を誘発して多くの犠牲者を出した。

 いつしか、かっての特高警察官は犯罪に手を染めるまでになっていた。
 そんな父の窮状を救ってくれたのは、警視庁にいた東都大学法学部OBの毬栗(イガグリ)だった。
 父の先輩に当る毬栗は、大学卒業後に幹部候補生として警視庁に入ってたいそうな出世を遂げていた。
 取り分けて法学の才能がある訳ではないが、人を使うのが上手くて面倒見がよく、人に好かれる性格をしていた。
 要するに外面のいい世渡り上手な男なのだが、そんな人物に限って人望があり、法学部OB会の幹事も任されていた。

「だいぶん困っていると聞いたが、君さえ良かったら柊木(ヒイラギ)先生の所で働いてみる気はないか?」
 毬栗は困窮していた父にそう声を掛けてきた。
 柊木先生とは、東都大学の教授で、日本の法曹界では厳格さで知られる有名な法学者だった。
 父も在学中は何度も柊木教授の法学講義を受けた事があった。
 戦後まもなく連合国による戦犯裁判が始まると、教授は弁護士として法廷に立ち、弱い立場にあったB・C級戦犯の弁護に当った。

~続く~

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~ Comment ~


こんばんは

いつもコメントありがとうございます。
小説が終わったらコメントしようと思っていましたが、
続いてますね。
私の義父も軍で戦闘機の設計をしていましたので
公職追放となっていました。
#7181[2018/05/20 19:29]  エリアンダー  URL 

そうせざるを得ない、という状況でしょうね

しかし、サクッと死ねない以上は生きるしかないですし(汗)

自分なら、同じ状況に置かれたら、なぜ生きるのか?なんのために生きるのか?って自問自答すると思います

で、答えは出ないでしょう、きっと(汗)

でも、考え続けるのをやめない気がします
#7182[2018/05/20 20:06]  blackout  URL 

Re: エリアンダー様COありがとうございます^^

> 私の義父も軍で戦闘機の設計をしていましたので
> 公職追放となっていました。

気の毒に…義父様も敗戦で冷や飯を食わされた側の方だったんですね。
実は各分野の上層部にいて戦争に加担した黒幕達は、裁かれていない事実があります。
中国で細菌兵器の人体実験を行った事で有名な「731部隊」…石井中将以下の幹部達は米軍の細菌兵器開発に協力する見返りとして、戦犯裁判を免れました。
特高警察幹部の公職追放は形だけで、後にマッカーサーのレッドパージ(赤狩り)の手先として公安や官僚要職に就き、それぞれ出世を遂げています。
軍部にいた右派の将校達は、警察予備隊(後の自衛隊)創設と共に司令官に任命されました。
大勢の人々を死なせ、部下を犠牲にし、負けたら勝者に取り入ってのうのうと生き延びた彼らは、戦後も自分達のした事を反省せず、今なお右翼思想の害毒をばら撒いてます(怒)
#7183[2018/05/20 23:21]  sado jo  URL 

Re: blackout様COありがとうございます^^

> そうせざるを得ない、という状況でしょうね
> 自分なら、同じ状況に置かれたら、なぜ生きるのか?なんのために生きるのか?って自問自答すると思います
> で、答えは出ないでしょう、きっと(汗)

最近は(思想などの)勝手な思い込みや願望、気分次第でヤル犯罪者が多いですね。
昔は家族を抱えてたり食えなかったりして、已むに止まれずと言う動機が多かったです。
なので、本当に今日のメシに窮した経験もない今時の犯罪者には、同情できませんね。
但し、逆襲・復讐については反対に応援してあげます…学校や会社でイジメられてる子。政治家や役人の前で小さくなってる人。ネトウヨに誹謗中傷・差別されっぱなしの人。
構う事はありません。おやりなさい…相手がノビるまでボコッても自分は止めない(笑)
ハンムラビはなぜ世界最初の法律を作ったか?「目には目を、歯には歯を」とは、弱者が強者を正当に裁ける様にする為です…従って、弱者が強者に復讐する事は法の理に適ってます(笑)
#7184[2018/05/21 00:12]  sado jo  URL 

コメントをありがとございました。♪(∩。∩;)ゞ・・・

こんにちは!いつも、ありがとうございます。

テレビの前に、正座して見る場面が、映画の三丁目の夕日でありました。
たしかに、考えると不気味な光景ですよね。

わたしも、現実ではほとんど家族以外とは話しませんが、インターネットでは、
ブログを通じて、多くの方々とコメント、というお喋りをしているのですよね。
これも、インターネットをしない人からすると、不思議なことでしょうね。
#7185[2018/05/24 16:31]  窓  URL  [Edit]

Re: 窓様COありがとうございます^^

> たしかに、考えると不気味な光景ですよね。
> わたしも、現実ではほとんど家族以外とは話しませんが、インターネットでは、
> ブログを通じて、多くの方々とコメント、というお喋りをしているのですよね。
> これも、インターネットをしない人からすると、不思議なことでしょうね。

白黒テレビが家庭に普及した自分の子供時代…家族全員が一斉に画面に向かって無言でテレビを見る光景がとても不気味に思えたものです(笑)
今では誰でもが無言でスマホの画面を見ていて、隣で赤ん坊が泣いていても母親は無視しています…正直、世の中の光景は余計に不気味になりました。
人間同士のコミュニケーションがなく、人と人の関係が希薄で、家族で暮らしてても互いがどんな人間なのか知らない…それが余計に犯罪を助長しています。
逆にテレビの内容は良く知っていて、スマホで知り合った人は家族や友人よりも近しく思える…科学は本物のコミュニケーションを人から奪って偽物にすり替えました。
さて、これらの事が人間や社会の進化にどんな影響を与えるのか?…考えざるを得ません。
#7186[2018/05/24 18:33]  sado jo  URL 














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