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シムーン第二章 ~乙女達の祈り~

棘(いばら)の記憶

新小説 「棘(いばら)の記憶」 連載開始

棘00

自分が産まれてもの心がついた時には、そこに戦後があった。
もう終戦からずいぶん経っていたのだが、今思えば、そこいら中に戦争の爪痕が残っていた様に記憶している。
軍服を着たままで野良仕事をしている人もいたし、都会から食料の買出しに田舎までやってくる人も大勢いた。
戦地から復員してくる兵隊さんもまだまだいて、父に連れられて復員兵を乗せた汽車を近くの街まで見に行った事もある。
同郷の知り合いが乗っていない事を知ると、父は寂しそうに肩を落としていた…父は六人いた男兄弟の半分を戦争で失った。
街の駅舎は米軍の爆撃で半分壊れていたが、戦争で大勢の若者を失ってしまい修繕する男手がなくて手が回らなかったのだろう。
戦争の災禍はそんな片田舎の街にまで及んでいた…みんな戦争で破壊された日常生活を取り戻す事に必死になっていた時代だった。
後に自分が阪神大震災の被災者となってみて、初めて幼い頃に見聞きした事柄の意味や、人々の気持ちが実感できた思いがした。
一旦壊れてしまった日常を取り戻すには途方もない時間を要する…東北の人々も今それを現実として実感している事だろうと思う。
一地方の地震でも復興には膨大な時を要する。ましてや、全体が壊れた戦争から日本が立ち直るにはどれだけ大変だっただろうか。

普段は戦地での話をしたがらない父も、たまにみんなが集まって酔いが回ると日の丸の旗に書かれた戦友の寄せ書きを出してきた。
そして、戦友達がどんな風に死んだかを語っていた…何だか自分が生き残ってしまった事を申し訳なさそうにしている様に思えた。
大勢の日本人の心や身体には棘(いばら)が刺さっていた…誰しもが傷を負い、痛みに耐えながら新しい時代に生きようとしていた。
「負けて悔しい」と言う思いよりも「戦争に負けて良かった」と言う、何とも言い表しがたい空気が周りに漂っていた時代だった。
もう、万歳を叫んで我が子を戦地に送り出さなくてもよい。空襲で家を焼かれて親兄弟を失い、焼け野原を彷徨い歩かなくてもよい。
心を偽る事なく本音を言える安堵感の方が強かったのだろう…してみると、戦前・戦中の政治は日本人には間違いなく悪政であった。
戦後の体験をした自分にはこれだけ自由がありながら持て余して、戦前・戦中の不自由な状況に憧れる人々が奇妙に思えてならない。

人はどんな悲劇の記憶でも忘却の彼方へと追いやるものだ…だが、人が同じサガを持つ限りその悲劇は別の衣を纏って再び現れる。
最近起きた不可解な事件の数々や、混迷する世相の有様を見る度に、心の置き所を失っていた戦後の人々の姿が思い浮かんでくる。
もしや時代は、別の衣を纏った悲劇を連れて再び我々の前に現れようとしているのではなかろうか?何だかそんな気がしてならない。
そこで、人々の心から消えつつある棘の記憶…自分が父や周り人から聞き、幼心に見た棘の記憶を忘れない内に書き留めようと思う。
書き掛けの小説もたくさんあるのだが、一旦、何かが頭に浮かぶと次から次に湧いて出る…まぁ、出てきたものを優先するしかない。
頭に浮かんできた幼い頃の記憶に、当時の情景を肉付けするのは時間が掛かりそうだが、出来るだけ忠実に戦後を再現してみたい。
何もかも溢れている現代と、何もかも欠乏していた戦後…真逆の環境であるにも関らず、そこには同質な人間の心の歪みが存在した。
情報化社会の波に晒されて想像力を失ってしまった現代人が、戦後を生きた人々の心を想像するのは、或いは難しい事かも知れない。
だがあなたの中には、戦後を生きた人々が抱いていた心の闇が…満たされぬ何かが、紛れもなく別の衣を纏って存在しているはずだ。
どうか、異なる環境下にあった過去の物語だと片付けずに、今現在進行している話として捉えて読んで欲しいと思います。

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~ Comment ~


阪神淡路大震災も東日本大震災も、今となってはほとんど当事者くらいでしょうか。
戦争を経験した世代がいなくなる頃、また戦争が繰り返されると私も思いますね。
不可解といえば、カジノ法案ですね。
この国はギャンブル依存症が問題になっているというのに
その対策のために新たな法律をまた作るくらいなら
カジノ法案をやめたほうが早いことに気付かない国は無能としか言いようがない(笑)。
#7133[2018/04/30 12:31]  西條すみれ  URL 

Re: すみれ様COありがとうございます^^

> 戦争を経験した世代がいなくなる頃、また戦争が繰り返されると私も思いますね。
> 不可解といえば、カジノ法案ですね。
> この国はギャンブル依存症が問題になっているというのに

ギャンブルの借金の為に妻や娘を身売り…なんて話が戦前にはよくあったそうです。
当時の日本政府は国が強ければ良いと言う発想で、庶民は貧乏な状態に置かれてました。
従軍慰安婦は何も韓国に限った事ではなく、日本でも口減らしや借金の質にされて、満州や東南アジアで兵隊さんの相手をさせられた女性はたくさんいました。
男は鉄砲担いでお国の為に尽くし、女は生の肉体を差し出してお国の為に尽くしたのかな?
この構造は「若い衆は鉄砲玉」「若い女(の身体)は金づる」と言うヤクザ社会よく似てます。
そう…実の所は、戦前の日本政府は「大日本帝国大和組」の総元締めをやっていたんですよ。
その名残が今の「セクハラ」「闇取引」「暴言・妄言」になります…ね、阿部総長。麻生代貸。
昨日も、酔って肩で風きって歩いてた鉄砲玉が堅気の衆と喧嘩したらしいですね(笑)ヤクザ社会は世知辛い…野田姐御や小泉若頭に寝首を掻かれない様お気をつけ下さい。
#7134[2018/04/30 15:27]  sado jo  URL 

私も戦争を体験した祖父母から話を聞いた程度ですが、まだ終戦の記憶が色濃く残っていた昭和育ちに比べて今の若い方たちには戦争が遠い気がしますね。

語り継がねばならないと思っても、やはり実際に体験した人の話と、それを再話しただけの自分の話では子供たちの心への響き具合が全く違うようです。(それでも聞いた限りのことは語り継がねばと思いますが)

新しい物語を楽しみにしております。
#7135[2018/04/30 16:10]  椿  URL 

Re: 椿様COありがとうございます^^

> 私も戦争を体験した祖父母から話を聞いた程度ですが、まだ終戦の記憶が色濃く残っていた昭和育ちに比べて今の若い方たちには戦争が遠い気がしますね。
> 新しい物語を楽しみにしております。

人は平和な日常に退屈すると戦争に憧れ、戦争で悲惨な思いをすると退屈な日常に憧れる。
人は何とも贅沢な生き物で、かく言う自分も「湾岸戦争」の時はテレビに噛り付いてました(笑)
他人事で観たやじ馬根性も、実際「阪神大震災」で妻を亡くすと現実の痛みに変りました。
今の平和な日本は、ほとんどの人が戦争や災害や騒動に遭った経験を持ってないはずです。
だから、同じ環境に安住できない人々のサガが逆の衣を纏って歪んだ形で出てるんですね。
動乱から日常に移行しようとしていた戦後の人々。日常に倦んで動乱に憧れる現代の人々。
纏う衣は異なれど、同じ心の歪みと闇を抱えながら生きている人々の姿を描いてゆきます。
#7136[2018/04/30 17:34]  sado jo  URL 

こんにちは!いつも、ありがとうございます。

>「戦争に負けて良かった」

殆どの国民の本音ではないかと思います。
わたしの父の長兄が戦死し、次男の父が跡取りになってしまいました。
父は成りたい自分の夢をあきらめ、家のために生きる道を選んだのですけど。
それも、ある意味戦争がもたらした悲劇なのかなと思います。

その長兄の嫁である、伯母は、金属類の供出?には逆らったらしいのです。
宝石類、鍋、羽釜、鍬、鋤、。
そのとき、こんな戦争は絶対に負ける、そう思って、わずかばかりの資産を隠したのです。

巣鴨プリズンに関した書物などを読むにつれ、伯母は賢かったなと思うのです。

#7137[2018/05/01 16:48]  窓  URL  [Edit]

Re: 窓様COありがとうございます^^

> >「戦争に負けて良かった」
> 殆どの国民の本音ではないかと思います。
> わたしの父の長兄が戦死し、次男の父が跡取りになってしまいました。
> その長兄の嫁である、伯母は、金属類の供出?には逆らったらしいのです。

自分は戦前から戦時中を生きた人の話をたくさん聞いて育ちました。
自由がなく言いたい事も言えない。全てお上に倣えで、生活は食うに困るほど困窮していた。
いつも空襲の恐怖にさらされて夜も寝れない…兄弟や知り合いが次々に出征して死んでゆく。
庶民にそんな生活を強いる政府の方が間違っている…負けて良かったと思うのは当然です。
今も政治家や右寄り日本人の中には、庶民生活とは無縁の空理空論を振り回す馬鹿者がいる。
閑と金を持て余したこんな連中が国民を唆して間違いを犯す…もう騙されるもんですか(笑)
お国の為に尽くしてもメシも食えないし命を落とす…自分の財産は自分で守るのが正解です。
まぁ、当時は特高警察や憲兵が目を光らせてたから、伯母様は勇気がいったでしょうが(笑)
#7138[2018/05/01 17:48]  sado jo  URL 

お、新作ですか
楽しみにしてます

逆に自分は、書きかけのものがあると次にいけないヤツですw

そうですね
確かに一見対照的に見えますが、現代と戦前や戦中では、同じものが人々の心を支配しているのは、なんとなく感じます

特に、自分の普段の勤務先が、行動統制・言論統制・情報統制をしがちでイデオロギッシュだから余計にそう感じるのかもですが(汗)

しかも以前より悪質になりましたし(汗)

まぁ、会社も規模がデカくなれば、先述のようになるのは、どこも同じかなとは思いますが、個人的には居心地が悪いです
#7139[2018/05/01 19:21]  blackout  URL 

Re: blackout様COありがとうございます^^

> 確かに一見対照的に見えますが、現代と戦前や戦中では、同じものが人々の心を支配しているのは、なんとなく感じます
> 特に、自分の普段の勤務先が、行動統制・言論統制・情報統制をしがちでイデオロギッシュだから余計にそう感じるのかもですが(汗)

この先どうなるのか?これで大丈夫なのか?と言う茫漠とした不安感と焦りですね。
特に現代は、膨大な情報の波に飲まれて不安定な感覚が余計に加速しているんですよ。
かと言って、不安を拭う為に言論・行動・情報を制限して統制主義に走るのは逆効果です。
全体が萎縮して進歩せず、国家や組織の力が失われて外国や他社との競争に負けてしまう。
多様な才能の芽を伸ばし、反対勢力も温存して自由な気風を培う国家や企業だけが、今後一層激しくなる国際競争を勝ち抜いて行く事は間違いないと思います。
#7140[2018/05/01 22:40]  sado jo  URL 

こんにちは~♪
Gw中ですがいかがお過ごしでしょうか(*^^*ゞ
体調不良でしばらくの間お邪魔できませんでしたが今日からまたお邪魔させていただきます。
よろしくお願いしますね(^_-)-☆
#7141[2018/05/02 10:22]  まり姫  URL  [Edit]

Re: まり姫様COありがとうございます^^

> Gw中ですがいかがお過ごしでしょうか(*^^*ゞ

G.Wは幼い頃の記憶を呼び覚ましながら、戦後を題材にした小説に取り組んでいます。
曖昧な部分をネットの資料と照らし合わせると、如何に資料がアテにならんか分かります。
新世代の人が書いた文献は、戦後の人々の心境や漂っていた空気とはまるで違っています。
空理空論を並べた論評しかなく、戦後を生きた人々の現実的な生活感が全然出ていない><
こっちは靖国神社の話よりも、日本人が困窮した戦後をどんな風に生き抜いたか知りたい。
なので記憶を頼りにするしかなく、時間が掛かって筆が進まずに苦労してますよ(苦笑)
#7142[2018/05/02 11:35]  sado jo  URL 

日本は無謀な侵略戦争を引き起こしたのにもかかわらず、学校教育でまったく教えていないのですから戦前戦後の混乱期を知るのは余程自覚的な人でない限り少ないでしょう。
知っていれば安倍晋三のような人間が首相になどなれるはずがありませんものね(--〆)
#7143[2018/05/03 14:02]  まり姫  URL  [Edit]

Re: まり姫様COありがとうございます^^

> 日本は無謀な侵略戦争を引き起こしたのにもかかわらず、学校教育でまったく教えていないのですから戦前戦後の混乱期を知るのは余程自覚的な人でない限り少ないでしょう。

なぜ、戦後の日本人は「戦争に負けて良かった」と思ったのか?
なぜ(あれほど落ち度の多い)マッカーサーが、解放者として人々歓迎されたのか?
日本の歴史の中で、外国人が英雄となったのは後にも先にもマッカーサーただ一人です。
戦前・戦中の日本を賛美する頭のおかしい日本人は庶民の心が全然見えてないですね(嘲笑)
#7144[2018/05/03 15:47]  sado jo  URL 

こんにちは~♪
いつもありがとうございます(*^^)
ゴールデンウイークも明日で終わりですね。
楽しまれましたか~(^_-)-☆
応援ポチ

作家で貴族院議員、参議院議員を務めた山本有三も戦争放棄を謳った日本国憲法こそ国民が求めるものだと国会で演説してますよ(笑)
#7145[2018/05/04 15:38]  まり姫  URL  [Edit]

Re: まり姫様COありがとうございます^^

> 作家で貴族院議員、参議院議員を務めた山本有三も戦争放棄を謳った日本国憲法こそ国民が求めるものだと国会で演説してますよ(笑)

憲法九条はアメリカに押し付けられたもの…と言うのは右派の真っ赤な嘘です。
日本政府が提出した憲法草案を見たマッカーサーは猛烈に第九条に反対しました。
共産主義の脅威が迫る中で、マッカーサーは日本軍を再編成して戦わせるつもりでいた。
(このマッカーサーの構想が後の警察予備隊=今の自衛隊の誕生に繋がった経緯がある)
だが、アメリカの議会(世論)は第九条(日本案)を支持し、マッカーサー案を退けた。
今の日本国憲法は日本人が作った純日本製で、アメリカに押し付けられたものではない。
#7146[2018/05/04 16:04]  sado jo  URL 

こんばんは

戦争の悲惨さを知っている方々が
少なくなっている今、
本当に危ないと思います。

あたかも、衆愚政治に
誘導するかのような
数々のしかけ・・・

いばらの記憶が
うすれてくると
本当に怖いですね。
#7165[2018/05/10 19:29]  坊主おじさん  URL 

Re: 坊主おじさんCOありがとうございます^^

> 戦争の悲惨さを知っている方々が少なくなっている今、本当に危ないと思います。
> あたかも、衆愚政治に誘導するかのような数々のしかけ・・・

同じ様な悲劇を繰り返すのは、新しい世代に現実的実感がないからだと思います。
だからどんな悲惨な記録を見せても、言って聞かせても「俺達はあんた方の様にはならない」…と、新しい世代はタカを括って、根拠のない自信に溺れます。
だが、いつの時代でも上に立つ者には国民を…世界を意のままにしたいと言う野心があり、国民には楽をさせてくれるなら、得する事ができるならと言う他力本願があります。
「魚心あれば水心あり」で、歴史の上で似た様な悲劇が別の衣を纏って再現されるのは、指導者と国民が「同床異夢」を見た結果なのでしょうね。
#7166[2018/05/11 13:06]  sado jo  URL 














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