シムーン第二章 ~乙女達の祈り~

「▼まぼろし」
まぼろし 小説本編

まぼろし 第4話 「ラスカルの春」 (1)

惑星ラスカル02

<オリジナル/SF/ファンタジー/ミステリー>

人の目はすべてを見ている訳ではありません。この世には人に見えない世界があります。
これから、あなたの目はあなたの体を離れ、この不思議な時間と空間に入って行くのです。

 極寒の惑星ラスカルの冬は寒くて長い。
 一年の大半を雪と氷に閉ざされるこの惑星にも、ようやく短い春が訪れようとしていた。
 俺はこの陰気な惑星で他の二人のメンバーとともに、昼夜交代で鉱石の採掘作業をしている。
 この寒くて殺風景な惑星に埋もれている「アルマ」と言う宝石の原石を掘り出すのが俺の仕事だ。
 アルマは、ダイヤモンドよりも堅くて希少価値のある宝石なので、地球では高い値で売買されている。
 採掘と言っても実際はロボットがやってくれるので、俺たちは掘り出された土の中からアルマの原石を選別するだけだ。
 会社とは三年契約だが、二回目の春を迎えた今年になると、さすがに無味乾燥な毎日に退屈して来て仕事に身が入らない。
 もう女の肌の感触もすっかり忘れ掛けていて…正直言って早く地球に帰りたいと思っている。
 そんな事を考えていたら、採掘作業の交代時間がきたらしく合図のベルが鳴った。
 俺はゆっくり椅子から立ち上がって作業服に着替え、エレベーターに乗って地下の採掘現場に降りて行った。

「ジム、交代だ」俺は同僚のジムに言った。
「よぅ、ゴドーか」振り向いたジムが返事をした。
「今日はあんまり収穫はなさそうだな」
 ジムが選別を終えた原石の塊を見ながら俺は言った。
「あぁ、三番機の調子が悪くってな…後で見ておいてやってくれ」
「うん、いいよ」
「そいじゃぁな、俺は部屋に帰って寝るわ…別嬪の女の夢でも見ながらな」
「ご同感だな…俺も早くここからおさらばして、綺麗な姉ちゃんが待つ地球に帰りたいよ」
「そうだなぁ…早く帰らねぇと、女の匂いを忘れちまいそうだもんな」
 そう言いながら、ジムのヤツはエレベーターに乗って自分の部屋に帰って行った。

 俺は稼動している四台の採掘ロボットのコントロール・パネルをチェックした。
 ジムのヤツが言った通り、三番機の推力が落ちていたので取り合えずそのロボットを停止させた。
(しょうがねぇな~、このポンコツロボットは…どれどれ、ちょっくら面倒を見てやるか)
 そう思いながら俺はロボットの側に行って、木偶の棒みたいに突っ立ているヤツの点検に取り掛かった。
 よく調べてみると、どうも吸気ダクトの辺りに、何か引っ掛かっている物があるらしい。
 工具を取り出して吸気ダクトを開けて見ると、何か植物の種のような物がダクトに挟まっていた。
(何だろう?小さなクルミのようだ。何かの植物の種かな?…でも、そもそもラスカルに生物っていたんだっけか?)
 俺はダクトに引っ掛かっていたそいつを手に取って、いったん作業服のポケットに入れた。
 それからコントロール室に戻って再びロボットを起動させると、ヤツはスムースに動き出した。
(やれやれだ…世話の焼けるヤツだな)
 俺はそう思いながら、採掘した鉱石の面倒臭い選別作業に取り掛かった。

 ようやく同僚のイワンと作業を交代して自分の部屋に戻った時には、もうすっかり夜が明けていた。
 部屋の窓から見えるラスカルの空は夕焼けのように赤く、地平線の彼方には大きな赤色矮星が揺らめいている。
 俺たちが寝泊りするベースキャンプの前にある小川は、春先の陽気で溶け出した氷がぷかぷか浮かんで流れていた。
 こんな極寒の惑星ラスカルにも、どうやら短い春が巡って来たらしい。
 俺はポケットの中に、何かの種らしい物を入れていた事を思い出した。
(花の種か?それとも木の種か?育つかどうか分からんが…まぁ、芽でも出りゃぁめっけもんだ。退屈しのぎにはなるだろう)
 俺はベースキャンプの外に出て行って、ポケットの中から小さなクルミほどの種を取り出し小川の畔に埋めてやった。

 それから二、三日経ってから小川の畔にいってみると、驚いた事に種はもう小さな芽を出していた。
 さらにその翌日に行ってみると、もう植物の茎らしいものが膝ほどの高さにまで伸びていた。
(成長が早いな~…まぁ、地球でも寒い地方の植物は、短い春の間に子孫を残すために早く育つとは聞いたが)
 そうして、種を植えてから五日目に俺が見にいくと、もう植物の茎の先端に蕾らしい膨らみができていた。
(そうか~、こいつは花の種だったのか…で、いったいどんな花が咲くんだろう?)
 俺はそう思いながら楽しみにしてそれから何度も見に行ったが、花が咲く様子はまったくなかった。
(変だな~?やっぱり、まだ寒すぎて無理だったのかな?…まぁ、仕方がないか)
 俺はそう考えてあきらめる事にした。しょせん退屈しのぎの試しに植えてみただけだから。

 そんなある日、仕事を終えた俺は夜風にでも当ろうと思って、ブラブラと小川の畔まで散歩に出掛けた。
 春先の野外はまだ肌寒かったが、ひんやりとした外の空気はモグラ稼業の採掘工には心地がよかった。
 そぞろ歩きをしながらふと見ると、小川の畔に何か白い物がゆらゆらと揺れていた。
 近寄ってみると、惑星ラスカルの衛生ユリスの淡い光を浴びて、そこに真っ白い花がひっそりと咲いていた。
(月下美人か?…そうか~!こいつは夜に咲く花だったのか)
 俺はぼんやりとその花を眺めた(何て綺麗な花だ…ラスカルにこんな花があったなんて全然知らなかった)
 そう思いながらじ~っと見ていると、何となく俺は柄にも無く癒されているような気がした。

~続く~

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