シムーン第二章 ~乙女達の祈り~

「▼まぼろし」
まぼろし 小説本編

まぼろし 第4話 「ラスカルの春」 (2)

惑星ラスカル01

 退屈な一日の仕事を終えた俺は、自分の部屋に戻ってシャワーを浴び、一杯やりながらマズいメシを食った。
 それから、地球から量子通信で送られて来た一カ月遅れのフォログラフニュースを見た。
 どうやら地球では、千年間続いているリオのカーニバルがあったらしい。
 裸同然の女たちが山車に乗って、お乳振り振り、腰をクネクネ(いいな~、地球のヤツらは…楽しくやっていて)
 俺には却って目の毒にしかならなかった…それでフォログラフのスイッチを切って、ベッドに潜り込んで寝る事にした。
 そうして、うとうとしながら眠り込もうとしていた矢先、突然ガチャリとドアの開く音がした。
(ジムか?イワンか?何だよ~、こんな夜中に…ノックぐらいしろよ)
 俺は、寝ぼけまなこをこすりながらドアの方を見た。
 何と…そこには、薄絹をまとったうら若い女が立っていた。
 銀色の髪に、透けるような白い肌。形良く膨らんだ乳房に、蜂のようにくびれた腰。鹿のようにすらりと脚の伸びた女が。
(どこの女だっ!会社が寄越した慰安婦か?そんな気の効いた事をする会社でもあるまいし…俺は何か夢でも見てるのか?)
 びっくりしていると、その女は部屋の中に入ってベッドにいる俺の側までやって来てこう言った。
「植えてくれてありがとう…せめてものお礼に」
「いや、どういたしまして…って!君はいったい誰だっ?」
 俺がそう言うと、女は俺の唇に人差し指を当てて、しっ!静かに…と言う仕草をした。
 そうして羽織っていた薄絹を脱いで、いきなり俺のベッドにもぐり込んできたじゃぁないか。
 花のような女の香りがむうっ!と蒸せて、ビロードのように柔らかい肌が俺の体に吸い付いてきた。
 俺は長い間忘れていた男の本能をたちまち呼び覚まされてしまった。
 ベッドの中で矢も盾もたまらずに、がむしゃらに女を抱きしめた。
 滑らかな女の体に指と舌を這わせ、肌と肌を互いに滑らせながら、体をからませた。
 女の熱い吐息に身体中が煮えたぎるのを感じ、俺はたちまちめくるめく快楽に溺れて行った。
 そうして、何が何だか訳が分からない内に、俺は女の胸の中でいつの間にか果てていた。
 こんないい思いをしたのは何年振りだろうか?…俺は身体を起す気がしないほど恍惚としてしまっていた。
 ぐったりしている俺の様子を見届けると、女は俺にキスをしてゆっくりと起き上がってベッドを出た。
「あぁ…シャワーは部屋の右手にあるよ。ハニー」
 俺は、まだしびれるような快楽の余韻に浸りながら、今さっき情を交わした女に言った。
 しかし、立ち上がった女はシャワーを浴びに行こうとはしなかった。
 その雪のような白い肌に再び薄絹を羽織ると、ドアを開けて外に向かって歩き出したのだ。
「おぃおぃ、そんな格好でどこへ行くんだい?…夜の屋外はまだまだ寒いぞ」
 俺がそう言うと、女は振り向いて少しばかり淋しそうに笑いながら言った。
「ありがとう…でも、夜が明けない内に卵を産まなきゃならないから」
(はぁ…この女は何を言ってるんだ?)
 俺が奇妙に思ってる間に、女はそのまま夜の闇に中に消えてしまった。
 久しぶりの快感に酔いしれて、女を追い掛ける気力もなかった俺はそのまま泥のように眠り込んだ。

 翌朝、目が覚めてから小川の畔にいってみると、あの花は点々と樹液のような物を滴らせながらぐったりとしていた。
 不思議に思った俺は、花の茎を折って手に取った…とたんにぷ~んと匂ってくる精液の香りがした。
 そうして俺には、やっと今まで起った出来事の一部始終が飲み込めた。
 長い冬に閉ざされる極寒の惑星ラスカルで、厳しい環境に耐えながら生きているある生物の事が…だ。
 その生き物は、寒くて長い冬の間は種子の形をまとって地中で眠り、春が訪れるのををじ~っと待つのだ。
 ラスカルに短い春が来て、どこからか有精生物がやって来るとその生物の異性の姿をまねて擬態する。
 そして、やってきた有精生物と交わって精子を受け取ると、すぐさま地中に卵を産み落として死んでしまう。
 地中に産み落とされた卵は種子の形をまとって、また長い冬を耐えながら再び有精生物がやって来るのを待つのだ。
 ラスカルの短い春の間に有精生物と出会えず、そのまま実らずに命を終える種子もあるかも知れない。
 或いは地中に埋もれてそのまま朽ち果て、忘れ去られてゆく種子もあるかも知れない。
 あの子は極寒の惑星ラスカルの短い春を、ただ子孫を残すためだけに生きて短い命を終えたのだろう。
 いずれにしても生命として活動できるのは、有精生物と交わって受精するほんの僅かなひと時だけなのだ。
 何と言うはかない一生なのだろうか。

 そう思うと、何だか昨夜ベッドで情を交わしたあの子がとっても可哀そうに思えてきた。
 だが、この極寒の惑星ラスカルでは、それがあの子にとってごく当たり前の人生?だったのかも知れない。
 確かなのは、あの子は味気無い暮らしをしていたこの俺に一夜の夢を与えてくれた「花の妖精」だったと言う事だ。

 あの子に出会ってからと言うもの…俺は何だか仕事に張り合いが出て来た。
 今日も採掘ロボットが掘り出した土くれを選別しながら、あの小さなクルミのような種子を探している。
 見つけ出したら、また小川の畔に植えてやろう…うん、絶対にそうしよう。
 そうして俺の子孫を一杯作って、長い冬に閉ざされる極寒の惑星ラスカルを春に変えるのだ。

まぼろし 第4話 「ラスカルの春」(完)

乙女のはかなさを惜しんで…今は亡き 金城哲夫先生に捧ぐ

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~ Comment ~


sado jo様へ

こんにちは。sado joさん。

花の妖精 … 生ある時が 愛し合っているときだけ ただ子孫を残すが為でしょうか…。
花の妖精は 愛することを知らないのでしょうか?
私は 人を選んだと思うのです…。
この人に拾われたいと…。
花の妖精にも 愛する心が 在るのだと 思いたいです。
束の間の激しい愛ほど 記憶に残りますよね。

またお邪魔させて下さいね♪
#110[2014/04/08 16:27]  クロエ  URL  [Edit]

Re: 実は「乙女のはかなさ」をテーマにした作品です

> 私は 人を選んだと思うのです…。
> この人に拾われたいと…。
> 花の妖精にも 愛する心が 在るのだと 思いたいです。
> 束の間の激しい愛ほど 記憶に残りますよね。

拾って植えてくれた人の部屋を訪ねたのは「愛」がある証拠だと思いますね~^^
きっと「花の妖精」は僅かな短い命を、彼に捧げたかったんではないでしょうか?
官能小説じみた話ですが、本当は「乙女のはかなさ」を惜しむ作者の気持ちを込めた作品です。
#111[2014/04/08 16:47]  sado jo  URL  [Edit]














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