【 ▼クロニクル ~カルマ~】▼
2017.02.27 *Edit

「で、中東で米軍を支援していた陸上自衛隊や、南沙諸島の哨戒任務に着いていた海上自衛隊も巻き込まれちまった」
「日本中がパニックになってたよな~」
「日本どころか世界中がパニくってたよ」
「ホント…俺たち以外はみんな終わったんだよな~」
「あぁ、その俺たちも遠からずに終わりだけどな」
「なぁ、ケンタ…いくつぐらいまで生きていられると思う?」
「さぁな~…パーチンが来なかったとしても30くらいがギリギリじゃね」
「だよな~…汚染された空気吸って、放射能まみれの水飲んでるんじゃな~」
「ま、生まれた時代が悪かったってぇ~事だな」
「こんな塹壕の中で海をにらんでるより、したい事がたくさんあったのにな~」
「仕方がねぇだろ…そんな状況に巡り合ってしまたんだから」
そう言って、ケンタは再び双眼鏡を目に当てて見張りを始めた。
マコトの目の前に広がるオホーツクの海と空は、霞が掛かったようにどんよりとして暗かった。
(オホーツクには本当の空がない…と千恵子は言った <「千恵子抄」~高村光太郎 ~>)
マコトは有名な詩の一節を思い起こした
信州で生れ育った彼は、失われてしまった故郷が懐かしかった。
「う~ん…アレちょっとマズい状況じゃね」
双眼鏡をのぞいていたケンタがポツリと言った。
「どうした?ケンタ…ロシア人がきたのか?」
「まぁ…ロシア人がきたのには違いないが」
ケンタがそう言ったので、マコトはあわてて土嚢に立て掛けていた小銃を手に取った。
「あわてるなって!違げぇよ…お前もちょっとのぞいてみ」
そう言ってケンタは浜の方を指差しながら、マコトに双眼鏡を渡した。
ケンタに言われるままに双眼鏡をのぞくと、浜辺に打ち上げられたゴムボートが見えた。
中には怪我をしたロシア人が乗っているらしく、地元の漁師たちが周りを取り囲んでいた。
ヤスやモリを手にした猟師達は、怒りをあらわに出して口々に何かを叫んでいた。
~続く~

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