シムーン第二章 ~乙女達の祈り~

特撮で有名な円谷プロの元スタッフのブログです。面白くてためになる「小説」や「お話」「詩」をお届けします。【通常ブログ画面】 からお入り下さい。

新小説 「ゴジラの子守歌」 (予告編) 

▼ゴジラの子守歌

ゴジラ幻想交響詩

人類が、原子爆弾と言う史上最悪の兵器を産み出してから数十年の歳月が流れた。
広島と長崎で多くの人の命を奪い、二つの街を破壊した悪魔の力に魅せられた人類は、なおも核兵器を進化させ続けた。
多くの国が核開発をする様になり、人類が持つ核兵器は、地球上のすべての生物を20回に渡って絶滅させるほどの力を持った。

そうして、あの大災禍がやって来た。
突然、海の底から現れた巨大な生物が、逃げ惑う人々を踏み潰し、建物をことごとく破壊しながら東京をのし歩いた。
ゴジラと名づけられた怪獣は、近代兵器を装備した自衛隊の攻撃をものともせず、品川・港・千代田・中央の4区で猛威を奮った。
無名の科学者だった芹沢大介は、自身の命と引き換えに、単身「オキシジェン・デストロイヤー」を使ってゴジラを海の中に葬った。
ゴジラと芹沢が消えた海底の調査に真っ先に乗り出したのは米国だった。だがそこは全ての命を拒絶する海の砂漠が広がっていた。
オキシジェン・デストロイヤーは、僅か250C.Cで数キロ四方の酸素分子を分解し、周囲の全てに死を齎す恐ろしい化学物質だった。
それは核爆弾の威力を減衰させるばかりでなく、それ自体が核爆弾と並ぶ放射能汚染の残らない軍事兵器ともなりうるものだった。
それを知る芹沢は、死の直前に全てのデータを破棄していた。日米両政府は研究所や自宅を捜索したが何の資料も出て来なかった。
ゴジラについても調査が行なわれたが、死骸すらない状況では、生態や出現理由について、誰も明確に説明しうる者はいなかった。
ある者は、大絶滅を免れた太古の海棲恐竜の生き残りだと言い、ある者は数十年前の核実験によって突然変異した生物だと言った。
勿論、米国政府はこれを否定した…そんな憶測ばかりの議論が飛び交っていた2011年3月11日。晴天の霹靂の如き事件が起こった。

「東日本大震災」
死者・行方不明者19000人。倒壊・流失建造物1200万軒。福島第一原子力発電所の事故を誘発する歴史上未曾有の大災害となった。
ゴジラが齎した何十倍もの災禍を目の当りにした人々は、ゴジラなどどこへやら…ゴジラは次第に記憶から遠のいた存在となった。
だが、人々の目が東日本大震災に注がれている日本の裏側では、大国やテロリストらの思惑が絡んだ暗闘が繰り広げられていた。
また原発事故を機に、日本人の記憶にある核への恐れが甦る中、世界の大国や新興核国家は核兵器を開発し、軍備を増強していた。
けれど、そんな人間達の思いや欲望を嘲笑うかの様に、忘れられていたゴジラは目覚め、人々が思いもよらぬ形で忍び寄って来ていた。
そうして、それは日本…いゃ、全世界の様々な人を巻き込み、事態は意外な方向へと発展していくのだった。

果たしてゴジラとは何か?それはどこで生まれ、どうして現れたのか?なぜ、人類が開発した最新鋭兵器が通用しないのか?
この 「ゴジラの子守歌」 で全ての謎を解き明かします…勝手な憶測で書いて、故 円谷英二監督には大変申し訳なく思います。
しかし、元円谷スタッフの一員であった私は、あなたの遺志を受け継ぐ責任の一端を感じております。どうかご容赦下さい。
特撮現場にいた円谷プロの元スタッフが、ナマの視点で描く今までとは違うゴジラ像…ちょっぴりご期待下さい^^


~小説本編へ続く~



映画【シンゴジラ】より「Who will know/悲劇」 作曲:鷺巣詩郎
ゴジラが熱線を吐く時に歌われるこのラテン語の曲には、以下の訳詞にある様な深い意味があります。
「先へ行けば、倒れる事が分かっていて、死ぬ事が分かっていて、それでもなお前に進まなければならない」
まるで人生の絶望を暗示するかの様な歌詞は、或いは、全ての人に捧げられたレクイエムかも知れません。

「Who will know/悲劇」 歌詞ラテン語訳 (~の部分はハーモニーコーラス)

私がこの世界で死んだら 誰が私のことを知るだろう

私は迷子 誰も私を知らない 私の願いを示す物はなにもない

~だが進まなければならない 今より悪いことは起こらないだろう~

私は迷子 誰も私を知らない 私の願いを示す物はなにもない

~私の恐怖が 私の涙が 心に穴が開いていると伝えている~

私がまとうのは虚無 ~吐息が続く限り~

希望すらない ~一縷の望みはまだある~

目の前に広がるのは ~私を殺す闇を止めるのには~

下り坂のみ ~一条の光さえあればいい~


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ヒトラーの助言 ~あの世から北朝鮮を巡る情勢について~ 

随想/論文集

ヒトラーの助言

わしは本当はポーランドになんぞ侵攻したくはなかった。
それをやれば、イギリスやフランスばかりか全ヨーロッパ、全世界を敵に回す戦争になる事が分かっていたからだ。
だが阿呆なドイツ国民は、ズデーデンを強引に併合したこのわしを強い指導者だと思い込んでしまったらしい。
ナチス党員や側近連中までが、わしに「やれっ!やれっ!」とばかり焚き付けてくる有様になってしまった。
これじゃぁまるで脅迫だ…やらなきゃわしは腰抜けだと罵られて、国家元首の座から引き摺り下ろされるのが目に見えていた。
あの時のわしが本当に恐かったのは敵国なんぞではなかった…ドイツ国民そのものだったのだ。
国民に弱い所を見せられないわしの気持ちが分かるかね…災いが来るのが分かっていても、やらなきゃならん立場に追い込まれたこのわしの気持ちが。

わしは決して非合法なクーデターをやらかしてドイツの政権を取ったのではない。
今のトランプ君同様、正当な選挙で「ドイツの救国」を国民に訴えて、ちゃんとした支持を得て政権の座に就いたのだ。
だが、いざ国家元首になって実際に「強いドイツ」の公約を国民に果たす段になると、難題ばかりが目の前に立ち塞がった。
そんなわしの気も知らずに、無責任な国民どもはこのわしに言いたい放題な過大な要求ばかりを突きつけてきた。
なぁ、トランプ君…君は本当は北朝鮮が恐いんじゃなくて、アメリカ国民が恐いのだろう。
大統領に就任した時からビクビクしてたもんな…不利な事実をフェイクニュースにしたり、マスコミを追い出したりしてな。
君と同じく、正当な選挙で大統領になったプーチン君も、今の君と同じ弱い立場だったんだよ。
きっと彼も、ちょっとクリミアに手を出しただけで、世界中から制裁を受けるとは思いもよらなかっただろうな。
けれども、あそこで弱腰を見せたらロシア国民に見放されて、政権の座から引き摺り下ろされてしまっていただろう。

おそらく金君の場合は、もっと切羽詰った立場にいてビクビクしていると思うよ。
死んだフセインやカダフィ…今のアサドもそうだが、金君も一部の者達だけの支持を受けて国家元首の座に就いている。
僅かでも弱味を見せれば身内や側近連中にさえ寝首を掻かれ兼ねんのだから、いつも意地を張って強気でいなきゃぁならん。
それが一番恐いのだよ…やりたくないのにやらなきゃならん。それが戦争の引き金になるんだ。
身内や側近などと言う取り巻き連中は、ただ甘い汁を吸いたいわが身可愛さの保身からわしらを煽ってるに過ぎない。
だが、問題は阿呆な国民だ…お前らがいらぬ欲を出すから、強い指導者を求めるからわしらはそれに応えにゃならなくなるんだ。
お前らは、挙句の果てに戦争になったら、真っ先に戦場に行って死ぬのが自分自身になると言う事が分からんのか。
あの時「弱腰でもいいよ」「公約の半分でも叶えてくれればいい」と国民が言ってくれたらわしはどんなに楽だったか。

日本人も気を付けたがいい…指導者に甘えて調子に乗った身内や側近が失言や失態を繰り返しているのは危険な兆候だ。
賢い国民は決して指導者を追い込んだりはしない…指導者に多くを高望みせずに、自分で出来る事は自分でやる事だ。
国民がその気でいてくれたら阿部君も無理をする事もなく、後で全員が辛い思いをせずに済むのだからな。

国家にとって最も厄介なのは国民自身の欲と驕りです。指導者は敵には対処出来ても、そんな国民には対処する術がない。
歴史を紐解いてみると、王政(独裁制)よりも、民主制国家の方が遥かに数多くの戦争を起こしているのは驚くべき事実です。
かっての日本やドイツも一応は民主制でした…一部の王侯貴族が贅沢をするだけなら、何も他国と戦争をして奪う必要はない。
けれども国民全員が贅沢を望みだすと、もはや一国のパイだけでは足りなくなる…第一次大戦、第二次大戦を含む19世紀~
20世紀の植民地を巡る戦争はそうして起きました。実に悲劇の原因は、被害者面している当の国民が作っているのです。




「死の舞踏」 作曲:サン・サーンス 演技:羽生結弦
羽生選手がこれを舞うととても美しく見えますが、諸国民が舞う「死の舞踏」はとても醜いものです(笑)

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ゴジラの子守歌 第1夜 

▼ゴジラの子守歌

ゴジラ幻想交響詩01
南洋の海に浮かぶインファント島にはもしや?…まさかね(笑)

 国際的な緊張状態が続く南沙諸島海域を抜けた船は、さらに南を目指していた。
 多くの国々が鼻先を突き合せて争っている南シナ海は、最終氷河期の頃までスンダランドと言う大きな陸地だった。
 それが氷河期が終わって海面が上昇したために海の中に沈み、後には、現在見られるような点在する大小の島々が残った。
 学説によると、今のアジア地域に暮らすすべてのモンゴロイドは、このスンダランドを発祥の起源としていると言われる。
 その証拠に、アジア各地の沿岸部からカヌーの製作に使った同じ型の石斧が発掘される。もちろん日本とて例外ではない。
 そうすると何の事はない…元は同じスンダランド人だった者たちの子孫が、各地に散ってから争い合っていると言う事になる。
 人間とは何と皮肉な生き物だろうか?昨日は同じ親から産まれて血を分けた兄弟同士で、今日は血を流して殺し合っている。
 ともあれ、真珠を散りばめたように大小様々な島が浮かんでいる南洋は、まるで楽園に迷い込んだかのように神秘的で美しい。
 小人の妖精がいると言われる伝説のインファント島もその一つだ。船はそんな神秘に満ちた南洋のある島を目指していた。

 安住吾郎は、CNNニュースの取材班がチャーターしたその船に、数人の学者とともに乗っていた。
「いい天気ですね~…蒼い海に、蒼い空」
 日本に駐在した経験のあるクルーが、流暢な日本語で話しかけてきた。
「浮かれてるといきなりドッ!とくるぞ~…スコールが」安住は笑って答えた。
「へぇ~…こんなに晴れてるのにですか?」
「急に来るんだよ…昔、漁船に乗ってた頃に経験したからな」
「あれっ、安住さんは元は漁師だったんですか?」
「地震が起きる前まではな」
「じゃぁ、東北に住んでいたんですね」
「あぁ、そうだ…あれで何もかも失っちまった」
「それはお気の毒に」
「昔の事だ」
 安住は水平線にやっていた目を空に移した。
 胸の内から何かが込み上げてきたからだった。
 そうして、彼は震災の後に遭遇した色々な出来事を思い出した。
 その始まりは、地震が起きてから一年と経っていなかった頃の事だった。

「お~ぃ、タイムリミットだ。引き上げようや」同僚の作業員だった佐藤が言った。
「おぉ、先に行っててくれや…何だかあっちの方で人影が動いたような気がするんだ」安住はそう答えた。
「大方、野犬か何かだろ…この辺りは地震で飼い主にはぐれたのがうろついてるらしいから」
「そうかも知れんがな…気になるからちょっくら見てくるわ」
「じゃ、先に行ってるぞ。あんまり長くいると被爆しちまうからな」
「あぁ」

~続く~

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ゴジラの子守歌 第2夜 

▼ゴジラの子守歌

ゴジラ幻想メソッド02
東日本大震災で事故を起した福島原発3号機

 石巻の漁師だった安住吾郎(*)は、2011年3月11日に起きた「東日本大震災」で、家族や仲間をすべて失った。
 船は大津波に呑みこまれて転覆し、丸一日漂流して救助に来た巡視艇に助け上げられたのは彼一人だけだった。
 そして、九死に一生を得て陸に上がった安住を待っていたのは、さらに追い討ちを掛けるような無残な悲劇だった。
 すべてが津波に流されて、泥の海が一面に広がっている石巻港を目の当りにして、彼は呆然と立ちすくんだ。
 漁業協同組合に勤めていた息子夫婦。幼稚園で保母をしていた娘と、目に入れても痛くないほど可愛がっていた幼い孫娘。
 何十年も連れ添った妻もろとも自宅ごと津波に流されてしまっていた。
 遺体すらなく、死に顔を見る事も叶わない…自分もあの時、仲間と一緒に津波に呑まれて死ねばよかったと思った。
 こうして家族や仲間ををすべて失くした安住吾郎は、たった独りぼっちになってしまった。
 被災者支援金が出て仮設住宅にも入れたが、何をする気にもなれず、ただ酒を浴びるほど呑んだ。
 やるせなさからやけっぱちになって、ひたすら死ぬ事だけを考えて毎日を過ごしていた。
 そんな時、地震で事故を起した福島第一原子力発電所の後片付けをする作業員にならないかと誘われた。
 放射能漏れを起した発電所の近辺での作業には格段の日給が出るが、被爆するかも知れない危険な仕事だった。
(被爆して死ねるんなら、いっそ死んだほうがマシだ…どっち道、独りぼっちで生きていたってしょうがない)
 安住吾郎はそう思って、福島にやってきた。

 発電所の敷地の外には、放射能で汚染した瓦礫などが山のように積み上げられていた。
 それを処理施設まで搬出するのが仕事だが、危ない作業とあってなかなか人手が集まらなかった。
 おまけに事故のあった発電所周辺での作業は、被爆の危険性があるために時間が制限されていた。
 そんな訳でいくらやっても仕事ははかどらず、とうとう長居する事になってしまった。
 汚染物の撤去に当たる作業員には、会社の方から無料の宿舎が提供されていた。
 部屋は相部屋だったが、人手が集まらない事もあって隣のベッドは空いたままだった。
 安住は仕事を終えると、作業服や身体を洗浄し、宿舎に帰って酒を呑んで寝た。
 そんな明日の希望もない日々を送っていた時の事だった。

(何てこった!)
 気になってのぞきに来たら、積み上げられた汚染物の陰に人がいた。
 何と、幼い女の子が放射能で汚染された水溜りの傍にしゃがんで水を飲んでいたのだ。
(こりゃまずいっ!被爆しちまうぞ)
 安住はとっさに駆け寄って女の子を抱き上げた。
 女の子は驚いた顔をして彼をじ~っと見つめた。
 震災で亡くした可愛い孫娘と同じくらいの歳の子だった。
 けれどもその幼女は日本人ではなかった。

(*)劇中の人物「安住吾郎」には、東日本大震災で被災して家族や仲間を亡くされた実在のモデルさんがいらっしゃいます。
  その方をニュースで知った時は、阪神大震災で被災した作者と余りにもよく似た境遇である事に驚き、衝撃を受けました。


~続く~

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世界の成り立ち 

オリジナル詩集

世界の成り立ち

世界の成り立ち

満天に輝く星を見上げる少年は想う
・・・世界は夢でできている・・・と

母を失って悲しみに暮れる少女は想う
・・・世界は涙でできている・・・と

腕を組んでバージンロードを歩くカップルは想う
・・・世界は愛でできている・・・と

証券取引所の株価ボードを見るお金持ちは想う
・・・世界は金でできている・・・と

銃弾降りそそぐ戦場で 塹壕の中の兵士は想う
・・・世界は鉄でできている・・・と

生きている間は 世界は人それぞれに違って見える
だが死ぬ前になると 誰にも世界は同じに見える
世界が何でできているのか? 初めて真実を知る 

・・・世界は命でできていた・・・と

命がなければ なんにもはじまらず
命がなければ 何も感じる事はなく
命がなければ 何ひとつ得られない

・・・世界は命でできている・・・

命を粗末にする者は 最初から何もない
命を奪う者は 生れ出てくる価値がない
命を無視する者は とうに世界を無くしている



喝采 歌:ちあきなおみ
得たものと失ったもの…歌のまんまの世界に旅立って行った彼女にとって、世界は何で出来ていたのでしょうか?
とても情の深い女性だった…と言う話を聞きます。今思えば、情感のこもった素晴らしい歌唱にそれが現れてました。
私は「夜間飛行」のまるで本人か演技か?区別し兼ねる様な歌唱が好きですが、それはまたの機会に取って置きます。
大御所「美空ひばり」を除けば、おそらく戦後最高の歌姫(ディーバ)だったのではなかろうかと思っています。


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ゴジラの子守歌 第3夜 

▼ゴジラの子守歌

ゴジラ幻想メソッド03

 オーストラリアの海洋生物学者 ポール・ブリッグスは、シャーク湾へ学術調査に来ていた。
 海洋生物学と言っても、彼は特定生物を対象としてるのではなく、むしろ種の進化を研究していると言った方がよい。
 なぜ海で進化の研究なのかと言うと、地球の生物の90%は海に棲息していて、その種類は陸上生物の数十倍に当たるからだ。 
 特にここペロン半島の付け根にあるハメリンプールと言う入り江には、地球最古の生物が今も群れをなして生きている。
 まるで海岸に並んだドーム状の岩石のように見えるストロマトライトを形成するシアノバクテリアの一種がそれだ。

 およそ46億年前、小さな岩の欠片に隕石が次々と衝突し、膨れ上がってできた灼熱の惑星があった。
 どろどろに熔けていた溶岩は、盛んに水蒸気を放出して徐々に冷えて固まり、惑星の表面には海が形成された。
 惑星の大気中にはまだ酸素はなく、海と言っても硫化水素やシアン、硫酸などに満たされた最悪の環境の海だった。
 そんな猛毒の海に入ったら、人間はおろかいかなる生物でもたちどころに死んでしまう事だろう。
 だが、生命はそんな劣悪な環境にあった海底の熱水噴出孔である高温の海底温泉の中から誕生した。
 マグマが地表に噴き出す火山国の日本には、現在でも周辺の海底に多数の熱水噴出孔がある。
 そして、その周辺には数十億年前の原始の地球そのままの海の生態系が存在する。
 熱水に棲むバクテリアやプランクトン、それらを捕食するチューブワームやエビ、カニ、巻貝が群をなして生きている。
 そのほとんどは酸素を嫌う嫌気性生物で、人間にとっては毒にしかならない物質を呼吸してエネルギーを得ている。
 はるかな昔、熱水の海底温泉で誕生した生命は次第に海の中に広がってゆき、やがて浅瀬にまで進出した。
 そこで生命は初めて太陽と出会った。そしてシアノバクテリアは太陽のエネルギーを得て猛烈に繁殖を始めた。
 それは、太陽の光で体内にある二酸化炭素をエネルギーに変換する生物史上初の光合成だった。
 そのシアノバクテリアが光合成をすませて排泄した物質こそが酸素だった…そうして酸素は海と大気に満ちていった。
 しかし、それは他の生物にとっては危険な代物だった。すべての物質を酸化させて燃やし尽くしてしまう猛毒だったからだ。
 たちまち海は酸化した鉄で赤く染まり、酸素で身体を焼かれた生物の死骸が漂い、原生代大量絶滅と呼ばれる現象が起こった。

 その災禍の中を懸命に生き延びようとした生物がいた。
 数多の同類を失って試行錯誤しながらも、ついに酸素を取り込んで蛋白質をエネルギーに変換する事に成功した。
 それはそれまでのエネルギーよりもはるかに効率がよかった。パワーもスピードも運動量も飛躍的なものになった。
 彼らは酸素で弱って滅んでゆく他の生物を尻目に、海の中を放浪し遠くまで泳いでいって勢力を広げた。
 そうしてある日、すっかり弱りきって縮こまっていたある生物のコロニーに飛び込んだ。
 やっと餌にありつけると勘違いしたコロニーの生物は、この有酸素生物を体内に取り込んだ。
 そこで奇跡が起こった。体内で暴れ回る有酸素生物が弱っていたコロニーの生物を活性化させたのだ。
 そこで活性化したコロニーの生物は、取り込んだ有酸素生物ごと自分の身体を分裂させてコピーした。
 コロニーの生物にとっては、繁殖に必要な高いエネルギーを供給してくれる有酸素生物。
 有酸素生物にとっては、労せずして自分をコピーして繁殖させてくれるコロニーの生物。
 お互いの利益が一致した結果、共生関係が生まれ、現在のほとんどの生物の身体を形作る真核細胞が誕生した。

~続く~

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ゴジラの子守歌 第4夜 

▼ゴジラの子守歌

ゴジラ04

 それは数十億年経った今も、シェル(核)とミトコンドリアが形作る細胞として我々の体内に存在している。
 ミトコンドリアは身体中の血管を放浪し、増殖するために必要な栄養素をシェルの元に運ぶ。
 シェルはミトコンドリアが運んできた栄養素を得て、自分自身とミトコンドリアをコピーする。
 こうして我々の身体細胞は維持されている。しかも、これが雌雄の起源ではないかと言う説もある。
 一方が繁殖の役割を担い、一方は繁殖のための環境や様々な物資や条件を提供する役割を担う。
 もし、男と女の共生が数十億年前の奇跡に端を発するなら、これはもう腐れ縁…いゃ、何と素晴らしい事だろうか。
 男も女も、お互いを切っても切れないパートナーとして大切にしなければならないだろう。
 それにしても、何十億年経っても有酸素生物=男の性質が何一つ変わっていないのは驚くべき事である。
 落ち着きがなくて、じっとしておらず、活発に動き回って、疲れた時だけ女の側に帰ってきて休もうとする。
 あちこち放浪し、時折つまみ食いもする面倒臭い生き物だが、女性は地球が終わるまで共にいてやって欲しい。

 ただし、こうした雌雄=男女の関係が存在するのは、もしかしたら地球に限ってだけの事なのかも知れない。
 他の星では、原初のシェルとミトコンドリアの奇跡的な出会いはなく、生物は別の方向に進化した可能性もある。
 他の星には地球のような雌雄はなく、個体分裂や単性生殖、或いはまったく思いもよらぬ繁殖方法があるかも知れない。
 従って、人類が宇宙の出てゆくのなら、生物には雌雄があると言う固定観念は捨てて掛かる必要もあるだろう。
 人間が、地球の概念がまったく通用しない宇宙生命に出会った時、生物の進化の歴史は書き換えられるに違いない。

 ともあれ、酸素と言う抜群のエネルギー変換媒体を利用するようになった生物は、爆発的な進化を遂げた。
 カンブリア期に始まった生命爆発は、酸素とそれをエネルギー変換媒体とする真核細胞なしには考えられない。
 この時期は、様々な棲息環境に合わせた多種多様な生物が誕生し、海の中に多様性にあふれた生態系が出来上がった。
 実に、真核細胞誕生以前の地球生命と、それ以降の地球生命の間には桁違いの進化速度の差が見られる。
 最初の生命が地球に現れてからの進化は緩やかだが、真核細胞が誕生してからの進化速度はまさにマッハなのだ。
 その陰には、地球を酸素に満ちあふれる惑星に変えたストロマトライトを作るシアノバクテリアの活動があった。
 そして、酸素をエネルギー変換媒体とする生物と、シェルの出会いがなかったら、我々は今ここにこうして存在していない。
 すべては奇跡だったのだ。多様性に満ちあふれた地球の生命系…そのすべての生きとし生けるものは奇跡の産物だった。
 命とはなんとすごい奇跡から生まれたのだろう。ここにこうして生きていると言う事は何とすごい奇跡なのだろうか。
 我々の身体の中には、数十億年に及ぶ生命の歴史が刻まれた生物が、今もなお息づいているのだ。
 だから、他者の命を無碍に扱う者は、生命が歩んできた歴史を否定し、己自身の存在すら否定している。
 ポール・ブリッグス博士は、感慨深げにストロマトライを眺めながら、地球で起きた生命の奇跡に想いを馳せた。
 シャーク湾から望む黄昏の空は、太古の地球の空のように赤みを帯びていた。

~続く~

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