
『早い遅いの違いはあっても人は誰もが必ず死ぬ。ならば先に死を学んでから生きよ』と言うある哲学者の金言を未だに覚えている。
人は誰しも産まれた時から死に向かって歩き始める…ところが日本人は自然の当たり前の道理をなぜか忌み嫌う。どうやら『国産み神話』に描かれる死(黄泉)の穢れの呪詛が深く日本人のDNAにこびり付いていると見える。文字通り「死は死んでも嫌なもの」なのだ(笑)
『死役所』あずみきし作はそんな日本人が避けたがる【死】の問題に敢て正面から取り組んだ漫画であり、アニメは冒頭、TVドラマは前編部分が放映されたので纏めて紹介する…感想を一口で言うと衝撃的だった。久し振りに観た大人の鑑賞に耐える読み応えのある作品である。
登場人物それぞれの死から見えてくる生き様が心に突き刺さってくる…今時の流行である軽いノリの異世界モノや転生モノとはまるで違う。
それでいてコミカルな部分もあってシュールな所もある…漫画(月刊コミックバンチ)は530万部を売る大ヒットらしいが、アニメはPVの様な触りが製作されてから本格的なアニメ化が止まっているし、TVドラマは前編が放映されてから後編の製作がストップしてしまっている。
漫画はよく売れているのに、アニメやドラマはなぜ止まったままなのか?…どうも社会情勢と照らし合わせるに、昨今のカルト教団問題が影を落としている様に思える。と言うのも今日本で問題になっているカルト教団そっくりの宗教団体が作中の重要ファクターになっている。
TV局や新聞社にあれこれクレームを入れてくる教団らしいから、さすがにトラブルは避けたかったと言うのが製作サイドのホンネであろう。
あらすじ…この世とあの世の境目に、死んだ直後に誰もが必ず死後の手続きをする為に訪れる奇妙な役所がある。そこを『死役所』と言う。
自分が死んだ事が分らない人。理不尽な死に方に納得しない人。様々な未練を残して死んだ人。生前に幸せだった人。不幸だった人。虐待死した子供。そんな死者達の思いを受け止めて【病死課】【事故死課】【自殺課】【他殺課】などへ案内する一人の【総合案内係】がいた。
何があっても笑顔を絶やさずに「お客様は仏様ですから」と親切に死者に接する彼の名は『シ村』…そんな彼にはおぞましい過去があった。
生前も役所勤めをしていた彼には妻と幼い娘がいた。だが育児ノイローゼで悩んでいた妻が人に勧められてある宗教に入会すると言い出す。
妻が助かるならとシ村も一家で入会するが、常識離れした教義の実践や高額な寄付の要求に不信感を抱いて妻と子を連れて脱会しようとする。だが妻はすでにカルトに洗脳されていて脱会を拒否…せめて娘を助けようとして連れ出すが、教団から逃げた直後に娘は死んでしまう。
ちょっと目を離した隙に誰かに殺されたのだが、シ村が思わず抱き上げた時に衣服にベットリと血が付いたのと、娘の胃の中に絵具があった事から児童虐待を疑われて死刑になった(子供を虐待死させた場合、現実には懲役15年位の刑罰なのだが作品の設定上死刑にしてある)
笑顔の裏に凄惨な過去を隠しながら今日もシ村は死者の総合案内に勤しむ…だがそれは何も彼だけに限った事ではない。好好爺にしか見えない【他殺課】のイシ間、綺麗なお姉さんにしか見えない【自殺課】のニシ川 、漫画好きのオタクにしか見えない【事故死課】のハヤシ。
などその他の職員の全てが悲惨な過去を持っていた。なぜなら『死役所』で働いている者は全員が刑を執行された元死刑囚…つまり死してなお成仏を許されずに労役を科せられた犯罪者だからだ。そして物語が進むに従って職員一人一人の不幸な人生が明かされてゆくのだった。
男女共に結婚する事が必然ではなくなった現代…時に学校生活や仕事に就く事さえスルーして、不登校を決め込んだり引きこもったりする人達もいる社会において、一生に一度は必ず体験しなければならないイベントは【産まれてくる事】と【死んでゆく事】になってしまった。
華やかなプラス面だけが持て囃される世相の中で、鋭い視点から人間のマイナス面をえぐった『死役所』は近年稀に見る珠玉の作品である。
自然災害や偶発事故を除けば人の死はその生き様の現れである…人の命を粗末に扱った者は東條英機やウサマ・ビンラディンの様な粗末な死に方しか出来ない(そりゃぁ、自分より下の人間を特攻させたり、自爆テロをやらせたりしていれば、そんな末路にしかならない)(笑)
反対に例え世間から悪党だと言われようとも、人(子分)を生かす為に汚いシノギをやった田岡一雄やビトー・コルレオーネは天寿を全うした。
※平たく言えば家族の為に泥棒をしても死に裁きはないと言う事である…だからと言って敢えて泥棒する事を容認している訳ではない(笑)
死の天秤は命を基準にしてしか作られていない…そこでは人の法も、地位や財産も、打ち立てた功績や名声も何一つ適用されないのである。
まんが王国:『死役所』あずみきし作 (1巻~3巻まで試し読みのリンク)
(▲)コミック版は物語の途中までで良ければ、合法的に無料でご視聴いただけます。
LINEのアカウントをお持ちの方は「LINE漫画:死役所」で1巻分だけ無料読みできます。
(▲)スペシャルアニメ『死役所 原作:あずみきし (ドラマでは8話目に出る 母親に虐待されて死んだリンが冒頭に登場する)
(▼)テレビドラマ 『死役所』第1話 原作:あずみきし 主演:松岡昌宏(TOKIO)
ドラマ 『死役所』の前編 1話~10話は、この「Dailymotionサイト」で最後までご覧いただけます。


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