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シムーン第二章 ~乙女達の祈り~

アニメ /コミック

圧倒される漫画 『ガンニバル』

23-01-19
気が付いたら周囲の人間の全てが自分に牙をむく存在になっていた…誰かに救いを求めても危害が及ぶ事を怖れて誰も助けようとしない。
理由も分らず孤立してしまう恐ろしさ…そんな得体の知れない恐怖はロシアや中国にでもいない限り日本人は容易には味わえないだろう。
せいぜい学校でクラス全員に疎まれてイジメを受ける程度だろうか…だが日本にも昔は村の掟に従わない異分子を排除する風習があった。

あらすじ…娘を誘拐されて逆上した腕利きの刑事「阿川大悟」は、娘の目の前で犯人を射殺し、ショックを受けた娘を自閉症にしてしまう。
懲戒処分で降格させられた阿川は、娘の自閉症の治療も兼ねて、前任者の狩野巡査が失踪した中国山地の限界集落『供花村』に赴任する。
早速、住民の歓迎を受けて順調に駐在所の巡査として新たなスタートを切ったのも束の間、周辺の山林と製材所を所有する村の大地主『後藤家』の大叔母が熊に襲われて殺害される。現場に駆けつけた阿川は、後藤家の人々の証言に口裏を合わせたかの様な不審な臭いを感じる。
さらに失踪した前任者の狩野巡査の娘が葬式に乱入してきて「この人達は人間の肉を食っている」と訳の分からない事をわめき出す…刑事の勘から後藤家は何か隠していると感じた阿川は探りを入れに掛かるが、途端に供花村の住民の態度が前とはうって変わった様に豹変する。
阿川自身はもちろん、妻の有希や娘のましろまでが村人に監視される様になり、一家の周辺で次々と奇怪な出来事が起こり始めるのだった。

題名の『ガンニバル』は、カニバル=食人とアンソニー・ホプキンス演じる有名な映画の怪人「ハンニバル」を掛け合わせたものであろう。
作者の二宮正明がドラマの舞台を中国山地の限界集落にしたのは、自身の出身地だからか?その地方の事情に余程詳しいからと思われる。
兵庫県に端を発して山口県の端まで続き中国地方を東西に貫く中国山地は昔から人里と隔絶し、独特の奇習や風習に彩られた集落があちこちに点在する不思議な場所である。外部と接触する機会が少ない為か土地の人には独特の死生観があり、民話や怪奇伝説の宝庫でもある。
この地方で生れ育った漫画家の水木しげるは、幼い頃に聞いた魍魎奇譚や民話を題材にして有名な『ゲゲゲの鬼太郎』を描いたと言われる。
そうした土地柄のせいでもあるまいが、なぜかこの地方では以前から奇怪なおぞましい事件が多発する…みなさんも横溝正史の『八つ墓村』や『悪魔の手毬唄』、松本清張の『砂の器』などの有名な小説を通してこの地方で起きた猟奇的とも言える事件をよくご存じであろう。
最近では高橋ユキの著書『つけびの村』で知られる一夜にして5人の村人が殺された山口県都濃の山村で起きた連続放火殺人事件もあった。
なぜ中国山地ではこんな事件が起きるのか?…それは日本のトランシルバニアとも言える外界から隔絶した地域に住む人々の精神にもよる。
この地域にはみなさんよくご存じの子守唄がある「♪ねんねこ さっしゃりませ 寝た子の かわいさ 起きて 泣く子の ねんころろ 面憎さ ねんころろん ねんころろん」…我が子でも憎い?すわっ!虐待か?と連想させる様な歌詞である。だがよ~く考えて見るといい。
どんな母親でも泣き止まない我が子にイラッ!とした事があるだろう…この地域の人はその心理を素直に表現しているのである。要するに中国山地に住む人々は外界との接触が少ない分、素朴で穢れていないのだ。だがそれは悪気なくしてしばしば大きな誤解を生じる元になる。
その証拠にこの地方にはおぞましさと表裏一体を為す美しい物語も伝えられている…古くは『雨月物語』であり、近世では山口百恵が死せる美しき花嫁「小雪」を演じた『絶唱』である。死者と結婚式を挙げたり、死者と暮らすなどと言うのは余りにも猟奇的ではあるまいか?
だが女性なら誰しもが思うだろう…死んでも貴方に愛されたい。死んでも貴方と一緒にいたい。その切ない情念を素直に表しただけなのだ。
ならば食人の真意も理解できると思う…鬼婆の様に旅人を襲って食べるのではない。死んだ愛しい者がいつまでも自分の中で生きられる様に死者の肉を食すのである「死者の命を自らの体内に取り込みたい」その素朴な思いを表す行為がカニバル=食人であり、真意なのである。
妖しさには美しさが隠されているから妖しいのであり、美しさの裏には妖しさが隠されているからこそ、初めて美しく感じられるのである。
本物の美しさとはただの女の肌の白さにはあらず…その白い肌が露を帯びてぬめぬめと光り輝いてこそ初めて美しいと感じられるのである。

※Fc.2ブログでリンクさせていただいている「椿さん」と言う方が、中国地方らしき限界集落を舞台に『ちゃんとせんといけんよ』なるホラー小説を書いていらして毎回楽しみに読ませていただいている。偶然、似た様な漫画を見つけたので参考になればと思った次第である。

【待てば海路の日和あり】 (←椿さんのブログ)

漫画王国:『ガンニバル』二宮正明作 (第1巻試し読みのリンク)
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Disneyサスペンスドラマ『ガンニバル』 予告編
ドラマの本編は、著作権に厳しいDisney+(ディズニープラス)が握っていますので、入会しないとご覧になれません(笑)

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【日本一の心霊スポット『中国山地』周遊のお勧め】
時代の流れか急激に過疎化が進む地方にあって、中国山地一帯は全国一廃村や限界集落が多い地域である。山奥と言う環境がよく似ている飛騨や信州などの信濃地方は、古くから旅人や修験者が行き交う交通の要所であり、地場産業も発達していて現在も著しい過疎化はない。
だが中国山地は山陽道と山陰道と言う南北の通商路から外れた孤立した地域であり、訪れる部外者もなく、人々は山林に頼って生きてきた。
そんな人里の賑わいと無縁な環境が独特の奇習や奇譚を生み出す基になったのであろう…興味のある人はぜひ中国山地を周遊してみるといい。あちこちに打ち捨てられた廃村や、封印されて朽ち果てた祠を見つけられる。鬼が出るか蛇が出るか?勇気ある人は封印を破るも良い。
中国山地一帯が心霊スポットだけにあれやこれや大いに楽しめると思う。但し、後で何が起きても保障はしない(笑)…今時はカーナビがあるのでどんな奥地でも道に迷う事はないが、麓に下りないと宿がないので万が一に備えて寝袋など車中泊の準備はしておいたほうがよい。
昼なお暗く何とも言えぬ妖しい雰囲気漂う山林に覆われた道を「ホーホー」と鳴くフクロウの声を聞きながら走るのは何とも臨場感がある。
もちろん行くからには横溝正史の『八つ墓村』や高橋ユキ『つけびの村』など実際に事件が起きた聖地?を巡る旅も良いが、くれぐれも現地ではしゃがない様にして欲しい…なぜなら村人にとっては決して気持ちのいい思い出ではないからだ。それくらいの気遣いは必要である。
椿さんもぜひ帰省のついでに中国山地に分け入っていただきたい…そこは故郷の黄泉の国との狭間に位置し、人と幽世の魍魎の情念が渦巻いている土地である。横溝正史や松本清張が惹きつけられた様に、きっと貴女も中国山地の怪しさには創作意欲をそそられるだろうと思う。
なぜ外国から来た小泉八雲=ラフカディオ・ハーンがわざわざ松江に住み着いて、数々の怪奇奇譚を書いたのかよくお分かりになるだろう。
ぜひとも幽玄な中国山地の雰囲気が漂う意欲作を書き上げて「横溝正史賞」や「松本清張賞」を取っていただきたいと心から願っています。


エリアンダーさんご紹介の映画 『楽園』…限界集落の複雑な人間関係の中で起きる「連続少女失踪事件」サスペンスドラマ。
 
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~ Comment ~


おお! ブログをご紹介いただきありがとうございます<(_ _)>

両親の故郷が島根県の松江市なのですが、山のほうはあまり行ったことがなくて。奇習があるんですか? 知らない(笑)

「ガンニバル」怖そうですが面白そうですね。
食人テーマは萩尾望都さんの「異界バルバラ」でもありましたが、気になる作品です。教えていただきありがとうございます。
#8655[2023/01/18 10:41]  椿  URL 

Re: 椿様COありがとうございます^^

> ブログをご紹介いただきありがとうございます<(_ _)>
> 両親の故郷が島根県の松江市なのですが、山のほうはあまり行ったことがなくて。奇習があるんですか? 知らない(笑)教えていただきありがとうございます。

どういたしまして^^地域設定や題材が似ているので小説の参考になれば…と紹介した次第です。
あの周辺は少し山に分け入れば『ちゃんとせんといけんよ』に書かれた禁断の社や、女人禁制などの禁忌の場所が豊富にあって小説家にとってはネタに事欠きません。
多分、外国から来た小泉八雲=ラフカディオ・ハーンにとっては「世界にはこんな神秘的な地域があったのか」と言う創作意欲を掻き立てる幽玄な土地だったのでしょう。
黄泉の国や、出雲神話や吉備伝承がある事からも古代人達も妖しさを感じていたのは確かです。
せっかくあの土地に縁があるのならぜひ伝奇ロマンや怪奇小説を書いて、女流小泉八雲として「横溝正史賞」や「松本清張賞」を取っていただきたいと思います♪
#8656[2023/01/18 14:47]  sado jo  URL 

ホラーはホラなのに面白い⁉

食人=カニバリズムについて、ちょっと検索しました。
死者の長寿にあずかろうといった理由で「骨噛み」の特殊な習俗があり、、
勝新太郎が父親の遺骨を「愛情」ゆえに食した、と本人が証言しているそうです。

近年では、畜産物残渣の再利用という名目で肉骨粉を飼料に混ぜることがあり、
家畜が人間によって意識しない形でカニバリズムをさせられる形となり、
BSE(狂牛病)という感染症を発生させる結果となった、ともありました。

聖書には、わが子を食べた恥ずべき行ないという記述があります。エレミヤ3:24
「われわれの幼少の時から、恥ずべきことが、われわれの先祖の骨折って得たもの、
すなわちその羊、その牛、およびその息子、娘たちをことごとく飲み尽くしました」

カトリックには「聖体拝領」という儀式があり、教会のミサにおいて、
神父の手から小さく千切られたパンのかけらと杯のワインが一口ずつ与えられます。
これはキリストの(比喩的な)肉と血であるので、ちょっと似てますかね。

最後に綾小路きみまろの笑い話を。
「40年前、妻は食べちゃいたいほどかわいかった」
「いま考えると、あのとき食べておけばよかった」
ちなみに、このネタはアーサー・ゴッドフリー(役者・俳優)の名言だそうです。
#8657[2023/01/20 07:44]  ☆バーソ☆  URL  [Edit]

限界集落ってちと怖い

限界集落というとその地区の年齢構成を指すそうですが
最近では「限界集落」はなんだか蠱惑的で禍々しい雰囲気を纏っているような気がします。
田舎暮らしにあこがれてやってきたら、地区の風習の壁に阻まれていじめに遭い泣く泣く戻っていく人が多いとか。
上小阿仁村の「医者いじめの村」も有名で医者が定着できず、6年間に7人の医者が退職に追い込まれています。
そうそう「楽園」も限界集落舞台の映画ですよね、観てないですけど。
#8658[2023/01/20 13:31]  エリアンダー  URL 

Re: バーソ様COありがとうございます^^

> 死者の長寿にあずかろうといった理由で「骨噛み」の特殊な習俗があり、勝新太郎が父親の遺骨を「愛情」ゆえに食した。と本人が証言しているそうです。
> カトリックには「聖体拝領」という儀式があり、教会のミサにおいて、神父の手から小さく千切られたパンのかけらと杯のワインが一口ずつ与えられます。
> これはキリストの(比喩的な)肉と血であるので、ちょっと似てますかね。

「人食い」は決して猟奇的なものではなく、人の本能に根ざした昔からの風習・儀式であります。
おっしゃるキリスト教の「聖体拝領」はまさにイエスの肉と血に捩ったパンとワインを食べて、我が身に聖なる魂=愛を宿す儀式であり、東洋でも葬式の際に死者を食す風習があります。
死者の肉片を切って食したり葬式料理に入れたり、その代用となる乾瓢入りの膳が出ていたりして、日本人も葬式などでは案外普通に死者の肉を食べているのかも知れません。
なのでそうした儀式と、食人鬼や吸血鬼の如く人間を襲う行為は分別する必要があります。前者は死者崇拝や愛情表現の人の行為であり、後者は野獣の行為になるからです。
野獣の行為と言えば、ウクライナではロシア兵が強姦や略奪の限りを尽くしてますが、あれこそが人に非ざるケダモノであり、儀式的な食人は逆に人間らしい行為と言えます。
同じ行為でも人か獣か?猟奇的か否か?はそこに人の心があるかどうか?で決まると思います。
「食べちゃいたい位かわいい♪」と言うのも人間らしい感情の表れですからいいと思います(笑)
#8659[2023/01/20 14:40]  sado jo  URL 

Re: エリアンダー様COありがとうございます^^

> 限界集落というとその地区の年齢構成を指すそうですが、最近では「限界集落」はなんだか蠱惑的で禍々しい雰囲気を纏っているような気がします。

限界集落は年寄りばかりで後継ぎがいない(廃村予備)村を指しますが、一時の横溝正史ブームの後は『八つ墓村』の様な都市伝説の舞台を指す言葉になっていますね。
最近では『ひぐらしのなく頃に』の雛見沢村やこの『ガンニバル』の供花村の様な限界集落を舞台としたホラーサスペンスが小説・漫画、アニメ・映画で流行っている様です。
コロナを機に田舎に移り住む人もいますが、田舎はリアルに退屈だし、年寄りの相手をするのはキツイし、期待する「お社様の祟り」なんてないし(笑)やめた方がいいと思います。
但し日本の農業はこのままだと壊滅状態です。本気で農業をやりたい人はぜひ移住して下さい。
#8660[2023/01/20 15:52]  sado jo  URL 














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